坑口部変状対策

土居トンネル

九州支店 工事事務所 南山 剛
/ 水沼 健次

はじめに

一般国道191号は山口県下関市から広島県広島市に至る主要幹線道路です。本工事は、道路線形および道路幅員が不良であり、道路交通上の安全性および歩行者・自転車の安全性に多大な支障をきたしている狭隘区間の道路改良工事として、延長1,017mの道路トンネルを構築するものです(写真-1)。
本号では、坑口部施工時に発生した想定外の変状への対策について紹介します。

終点側坑口部の変状

終点側坑口部は斜面に斜交した偏圧地形をなし、地質はCL~D級の風化~強風化花崗岩およびマサ化した崖錐堆積物より構成されていました。そのため、偏圧対策として抱き擁壁(基礎杭有り)、天端安定対策として鋼管長尺先受け(AGF)工法(L=10.5m、3シフト)、上半の地耐力不足対策としてウイングリブ付き鋼製支保工およびレッグパイルが計画されていました。
平成16年12月起点側坑口より掘削を開始し、当該個所をこれらの補助工法を実施して上半掘削を進めていましたが、実際の地山は想定以上に脆弱で、固結度が低く、AGF鋼管下部および鋼管間からの地山抜け落ちや鏡面崩壊等が見られるようになりました。そのため、追加対策工として注入式フォアポーリング、鏡吹付けおよび鏡ボルトを施工しました。
一方、下半掘削においては、片側2mの交互施工で慎重に実施していたものの、マサ土の粘着力が非常に小さくかつ含水比も小さかったことから、上半支保工の下部および背面の地山の抜け落ち等の変状が発生しました。この結果、上半水平変位が100mm、天端沈下21mm、山側上半脚部沈下170mmと管理基準値を大きく上回り、坑口部のL=19.8m区間で覆工巻厚が最大170mm不足する事態となり、また、坑内の吹付けコンクリートや坑外のソイルセメント盛土および上部斜面にひび割れが確認されました(図-1)。

変状対策工

変状発生の要因として以下のことが挙げられます。

  1. 土被りが1D以下程度と薄い。
  2. 偏圧地形である
  3. 未固結のマサ土は粘着力および強度が小さく、切羽の自立性が困難である。

これらにより、地山のグラウンドアーチの形成が不十分となり、トンネル掘削に伴う地山の緩みが地表にまで達し変状が発生したと推定されました。

1.覆工巻厚不足区間の対策

表-1に示した3案について、工法の信頼性、当該地における適用性、施工性、概算工期、概算工事費といった観点から比較検討を行いました。その結果、総合的に最も有利と考えられる
「(1)覆工巻厚不足区間で縫い返しを実施し、通常の覆工を施工する案」を採用しました。

2.斜面安定対策工法

(1)アンカー工、(2)抑止杭工、(3)垂直縫地工法について、1と同様の観点から比較検討を行いました。その結果、維持管理の面で抑止効果の維持 は必要となるが、総合的に有利な「アンカー工」(アンカー長 L=14~19m、36本、受圧板□2.2×2.2m t=400mm、図-2、写真-2) を採用しました。

変状対策工の施工

変状対策工は、図-3に示す施工順序で実施しました。「縫い返し」は、既に施工した支保工を撤去し、再度構築し直すため、施工時の安全管理とともに、地山やトンネルの安定性を確認することが重要です。従って、坑内および坑外での計測管理を強化し、トンネル、周辺地山および斜面の安定性を確認しながら、支保工1基ずつ慎重に縫い返し、縫い返し完了後、インバートを直ちに施工することで断面を閉合しトンネルの安定化を図りました。対策工施工時の計測結果では、 目立った変位の増加を示すことなく対策工を完了できました。

おわりに

本工事では、突発的な変状の発生に対して、計測データの分析・評価結果を基に、変状原因を推定し、対策工を決定しました。これらの対策工を厳重な計測管理 の下実施した結果、トンネルや斜面を不安定化させることなく、当該個所の施工を完了することができました。また、本工事におけるトンネル工は、平成18年11月に無事完了しています。
当該坑口部は既存の国道と近接しており、適切な対策を実施することで突発的な変状の進行を抑え、現道への影響を与えることなく施工を完了できたことは幸いであったと思われます。
今回、報告した検討結果や対策工の選定が、同種工事の参考になれば幸いです。

工事概要
工事名称 一般国道191号道路改良工事(土居トンネル(仮称))
工事場所 広島県山県郡安芸太田町大字土居
発注 広島県
施工 (株)鴻池組・(株)不動テトラ・宮川興業(株)共同企業体
工期 平成16年6月~平成19年7月
工事内容 トンネル延長 L=1,017m
NATM、補助ベンチ付き全断面掘削工法
内空断面積 67.1m2、坑門工 2基、舗装工 一式

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432号(2007年07月01日)