歴史的木造建築物を仕口ダンパーで耐震補強

光雲山善照寺

名古屋支店 建築設計部
吉川真次

はじめに

三重県朝日町に位置する光雲山善照寺(写真-1)は、天保7(1836)年に建立され今年で築172年の浄土真宗本願寺派の寺院です。本堂は入母屋造瓦葺きで、本尊として阿弥陀如来立像が祀られています。内陣と外陣の間にある狭間には龍の彫刻(写真-2)があり、最近施された金箔により輝かしさを増しています。今回この歴史的建物の耐震診断を行い、仕口ダンパーと荒壁パネル(乾式の土壁)による耐震補強を実施しましたので、その内容と改修工事の概要につい て紹介します。

耐震診断と補強検討

今回耐震診断を実施するにあたり、まず建物調査を行いました。この調査ではまず構造部材の劣化状況と構造骨組の形状調査を行い、構造図を作成しました。作成された構造図をもとに耐震診断を行いました。
耐震診断および補強検討は限界耐力計算によって行いました。限界耐力計算は地震時に「揺れる」ということを考慮して建物の耐震性能を評価する手法です。この時、建物の耐力だけでなく建物の変形性能や減衰性能も考慮されます。結果は想定地震に対する建物の変形量で表され、耐震安全性の目安は図-1に示すとおりです。
本建物の診断では、極めてまれに発生する地震(大地震)に対して、両方向ともに層間変形角が1/13radになり倒壊する可能性が高いと判断されました。そこで以下の補強を行うこととしました(図-2)。

  1. 腐食や食害を受けた材の取り換えや仕口・継手の補修を行い、軸組の健全化を図る。
  2. 足元繋ぎや火打ちの追加により水平構面の補強を行い、建物が一体的に挙動するようにする。
  3. 荒壁パネルの増設により耐力の向上とともに、壁配置のバランスの改善を図る。
  4. 仕口ダンパーを取り付けて減衰性能を向上させる。

以上の補強によって、大地震に対してX方向の層間変形角が1/18rad、Y方向が1/19radになり、被害は受けるものの倒壊する可能性は低くなりました(図-3)。

耐震補強工事

築172年ということもあり、調査の結果多くの部材で腐食・白蟻による食害等の劣化および継手の緩み等の不具合が認められました。また柱の傾斜測定の結果、建物全体が反時計回りに僅かながらねじれていることも分かりました。
まず上記劣化部材(土台等)の取り換え(写真-3)、および継手等の補強(金物による緊結等)を行いました。次に耐震補強工事として、屋根裏および床下への仕口ダンパーの取り付け(写真-4)、荒壁パネルの取り付け(写真-5)の他、屋根面の火打ちの追加(写真-6)、足元繋ぎの追加等を行いました。本尊をそのまま残した状態で、ベニア板による仮囲いの養生のみで慎重に施工を行い、時には寺院の行事のために作業中断・復旧を繰り返しながら、約3カ月で無事に工事を終えることができました。

おわりに

当建物は全体的に耐震上有効な土壁が少なく、内陣裏等一般に土壁がある部位にもほとんどありませんでした。また以前の改修時に金箔塗装が行われていて、やり直しができないために、耐力壁として見込めない壁を有効な耐力壁に換えることができず、建物の耐力確保に苦労しました。そのような難しい条件の中で、補強位置については発注者と協議を重ね、理解をいただき決定しました。改修工事についても大きな問題もなく、ほぼ工程通りに進めることができました。今後予 想される大地震に対して今回の耐震補強が有効に働き、貴重な歴史的遺産がひとつでも多く後世に残されるよう願ってやみません。

工事概要
工事名称 善照寺耐震改修工事
工事場所 三重県三重郡朝日町埋縄1000
発注 光雲山善照寺
補強検討 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 平成20年1月~平成20年4月
構造・規模

木造平屋

延床面積  212.69㎡

最高高さ  10.1m

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445号(2008年08月01日)