有機ヒ素化合物および汚染土壌の撤去・処理

東京本店 工事事務所 齋藤幸彦
/前田真吾
/橘 敏明

はじめに

国内における旧日本軍の毒ガス弾等に関する対策については、平成15年6月の閣議了解および同年12月の閣議決定に基づき、環境省が所要の環境調査等を実 施しています。神奈川県平塚市では、かつて旧海軍の研究施設が存在した場所の周辺で、通常自然界には存在しない有機ヒ素化合物であるジフェニルアルシン酸 やフェニルアルソン酸などが、低濃度ではありますが地下水等から検出されています。その後の地歴情報に基づく調査の結果、旧海軍のくしゃみ剤(嘔吐剤)の中間原料である有機ヒ素化合物(フェニルアルシンオキシド:PAO)原体と考えられる白い塊が表層土壌中に混入していることが確認され、周辺土壌中から関連する高濃度の有機ヒ素化合物(フェニルアルソン酸)が検出されました。環境省では、これらの汚染土壌等について、将来における環境リスクの低減の観点か ら、適切かつ早急に掘削・除去、処理等を行うことを決定し、当社がその業務を施工することになりました。

毒ガス成分に関連した有機ヒ素化合物

旧日本軍が製造した毒ガスにはびらん剤、催涙剤、窒息剤など数種類ありますが、くしゃみ剤(嘔吐剤)であるジフェニルクロロアルシン(DA)およびジフェ ニルシアノアルシン(DC)は有機ヒ素化合物です。旧陸軍はジフェニルアルシン酸(DPAA)を、旧海軍はフェニルアルシンオキシド(PAO)を中間原料 として、最終的にDAやDCを製造していたようです。
フェニルアルシンオキシド(PAO)は毒性が高く、それ自体は安定で水に溶けにくい物質ですが、環境中で酸化されるとフェニルアルソン酸(PAA)となり、水に溶けやすくなる性質があります。

汚染土壌等の撤去フロー

汚染土壌等の撤去は、図-2に示すような手順で行いました。

施工方法・安全対策

  1. 掘削範囲全体を覆うことが可能な大型テント(W33.6m×L26m×H5.5~9.6m:写真-1)を設置し、表層撤去から汚染土壌の掘削・分級・詰め込み、汚染土壌等を保管したドラム缶、フレキシブルコンテナバッグ等の一時保管までを負圧管理したテント内作業とすることで、汚染土壌等と周辺環境とを区別して接しないように配慮しました。
  2. HEPAフィルター付きの大型集塵機(写真-2)をテントに接続して強制的に排気することで、テント内部を常に負圧の状態に保ち、有害物質の外部への漏洩を防止しました。集塵機排気口では、粉塵量を常時測定しました。
  3. 事前の調査結果に基づき、汚染濃度別にエリアA~Dを定め、作業時の管理方法を決定しました(表-1)。また、作業環境の管理として、テント内の粉塵量を常時測定しました。
  4. 汚染土壌の掘削は単位区画(5m×5m)ごとに1.5mまで行い、深さ0.5mごとに掘削土壌の管理を行いました(写真-3)。掘削順序は、汚染濃度の高いエリアAから順に行いました。
  5. 掘削作業時に土壌中からフェニルアルシンオキシド(PAO)原体と思われる白い塊が発見された場合は、携帯型ラマン分光分析器(写真-4)を用いて、現場で迅速・正確に識別しました。

汚染土壌の処分方法

掘削・撤去した汚染土壌は、事前の調査結果に基づき、単位区画(5m×5m)および深度0.5mごとに管理し、処理先の受入体制に応じてドラム缶もしくはフレキシブルコンテナバッグに詰め込み、搬出しました。

汚染土壌の処理方法を表-2に示します。

おわりに

当社はこれまで、広島市出島地区において地中に埋設されたジフェニルアルシン酸および周辺汚染土壌の撤去工事を平成8年~10年に(ET250号参照)、かつて旧陸軍の毒ガス工場が存在した広島県大久野島で顕在化したヒ素汚染土壌の撤去工事を平成10年~11年に(ET294号参照)それぞれ施工しました。また、茨城県神栖市ではジフェニルアルシン酸に汚染された土壌の容器詰め・運搬業務を平成18~19年に施工しました。本工事を含め、いずれの工事に おいても、作業従事者に対するばく露防止対策、周辺環境への汚染拡散防止対策を適切に行い、確実な安全管理体制の下で工事を無事完了させています。
今後も同様の有機ヒ素化合物による汚染土壌等の対策の必要性が生じた場合には、これらの施工経験で培ったノウハウを生かし、安全で安心な技術提案をしていくことで、国内における毒ガス弾等の問題への対策に貢献できればと考えます。

工事概要
工事名称 平成18年度神奈川県平塚市における詳細環境調査及び汚染土壌等処理業務
工事場所 神奈川県平塚市
発注 環境省
施工 (株)鴻池組
工期 平成19年4月~平成20年3月
工事内容

汚染土壌等掘削・除去業務 一式

地下水モニタリング等業務 一式

汚染土壌等輸送業務 一式

汚染土壌等処理業務 一式

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441号(2008年04月01日)