倉庫・工場等の換気量と室温の検証

東京本店 建築設計部
安藤 慎二

はじめに

天井が高い倉庫、工場等の大空間建築物における換気方式は、屋根や壁面からの強制換気方式が一般的に採用されています。その場合の必要な換気量は、室内作業環境や保管状態、要求事項等を総合的に考慮し、過去のデータや文献により設計しているのが実情です。
そこで、建物温熱環境の改善を目的に、室内換気量と室温の相関関係を調べ居住域対象の合理的な換気方法について検証しました。
図-1に示すモデル建物を設定し、気流解析シミュレーションをした上で、実際に類似した建物において夏季に測定を行いました。

換気量と室内温度の相関シミュレーション

モデル建物において、熱負荷による必要換気量を気流解析シミュレーションソフトにより解析したものを示します(図-2)。
夏季の外気温度を32℃と想定した条件で、室内の換気回数(1時間に空気が入れ替わる回数)を6回とした場合、庫内の平均温度は32.2℃となり、床面付近と天井付近の上下温度差は0.5℃程度になると想定されます。
ここで換気回数を3回に減らすと、全体の温度は0.4℃しか上昇しませんが、上下温度差は1℃程度大きくなり、さらに換気回数を1回に減らすと室内は2℃上昇し、上下温度差もさらに大きくなることが予測できます。
これらの予測は室内の空気が理想的に循環した場合の想定であり、実際の建物で測定した場合では、いろいろな要素で結果が変わってきます。そこで、実際の建物における夏季の室内空間はどのようになっているのかを調べることにしました。

温度実測結果

2007年8月に、モデル建物に類似した竣工建物の室内温度実測を行いました(図-3)。
天井高さ約9mの倉庫建物の代表5地点において、それぞれの地点ごとに測定点の高さを床面より0.5m、2m、4m、6.5m、8mと設定し、ファンの運転台数を変えて換気量を可変させ、室内全体温度と各高さの室温を連続測定しました。
換気を一切しない密閉状態では、床面付近が約33℃、高さ4mの地点で40℃を超え、床面と天井付近の上下温度差は最大で約15℃まで拡大しています。
まず換気回数1回分の換気扇を運転すると、高さ6mの位置で40℃となり、倉庫の使用範囲においては、40℃以下にすることができています。このときの上下温度差は約10℃程度になっています。
次に換気回数を3回とした場合、床面付近はどの地点も約30℃まで下がり、室内全体でほぼ 40℃以下になっています。また高さ6mの範囲でみれば35℃以下となっており、上下温度差は6~8℃まで改善されています。
さらに換気回数を6回まで上げれば、室内全域で37℃以下まで確保でき、高さ6mまでの範囲で33℃以下、上下温度差は5℃程度になることが分かります。
今回の建物のケースでは、対象高さを4m以下に限定すると、室内の許容温度が40℃であれば換気回数は1回、許容温度が35℃であれば換気回数は3回で 設定できることになります。また、 室内ほぼ全域を40℃以下にするには、換気回数を3回以上確保することが必要になります。

おわりに

今回の検証は、ある条件のもとでの現象を記録したものであり、この結果がどんな建物でも適用できるものではありません。しかし、建物を建設した後、さまざ まに条件を変えて実験的に実測できる機会はほとんどなく、興味ある結果が得られました。今後、倉庫・工場等の設計において室内の温度分布を予測する指標と して活用したいと考えます。

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441号(2008年04月01日)