砂杭による液状化対策と免震庁舎の施工

西尾市新庁舎

名古屋支店 工事事務所 杉山浩志
/ 篠田 正

はじめに

西尾市は、名古屋市の南東約35kmに位置する人口10万人の都市です。1944年の東南海地震、1945年の三河地震という二つの大きな震災により、多くの死傷者を出したことから防災に対する意識が高く、今回の新庁舎建設に対して免震構造を採用し、防災時の拠点施設として活動できるよう計画されています (図-1)。

地盤液状化対策

西尾市周辺は矢作川河口に形成された堆積平野で、地下水で飽和された緩い砂地盤のため地盤液状化の恐れがあります。従って、水平加速度350galで液 状化が生じないよう、深さ18mまで液状化対策を行います。施工は、建設地が市街地中心で民家が多いため、無振動・低騒音の静的締め固め砂杭工法にて行い ました(図-2)。
この工法は、直径700mmの砂杭を深さ18mまで構築するもので、施工機械に取り付けられた直径400mmのケーシングを回転させながらエアーを噴出し て所定深度まで圧入し、その後、ケーシング先端から砂を排出しケーシングの上下運動により砂杭を直径700mmまで拡大し、機械自重を利用して締め固めな がら引き抜きます。
構築する砂杭は合計2,236本に及び、東西79m南北61mの基礎底面に、1.4mの間隔で打設し、投入する砂量は14,584m3に達します。
この工法の留意点は、締め固めにより地盤が水平・上下方向に膨張するので、場所打ち杭およびSMW壁体は締め固めの施工を影響範囲内で行うと壁体等が損傷 する恐れがあります。施工機械から45度の影響範囲外で工事を行わねばなりません。さらに、近隣建物に影響を及ぼさないよう溝や孔を設け、地盤変位を緩和 する必要があります。

山留計画と杭工事

山留計画の掘削平面は、東西79m、南北61m、掘削深さ3.7m、一部の受水槽廻りは深さ6.0mです。ボーリング柱状図から、深さ17mまで緩い砂質 土、17m~21mまで不透水層のシルトが堆積しており、地下水位は深さ2m程度で、止水のためのSMW連続壁は深さ18mの不透水層に定着させ、一部掘 削の深い受水槽廻りは親杭横矢板工法としました。さらに、SMW連続壁の天端は土圧低減のため0.7mカットし、自立高さを3.0mに低減しました。
掘削による残土搬出量は地盤の膨れ分2,160m3を加算し合計20,895m3、SMWの壁体面積は5,242m2、親杭横矢板は378m2です(写真-1)。
杭工事はアースドリル拡底杭、支持層は深さ24m以深の洪積砂礫層で杭長は21m前後になります。杭軸径は800~1,800mm、拡底径は1,300~2,800mm、一部の杭は拡頭され拡頭径は1,000mm、杭総本数は96本になります(写真-2)。

免震装置と上部構造

免震装置は、天然ゴム系積層ゴム、弾性すべり支承、鋼製ダンパー、オイルダンパーの4種類で構成されます。天然ゴム系積層ゴムは径800mm、900mm、1,000mmの計45基、弾性すべり支承は径300mm、400mm、600mmの計19基、鋼製ダンパーは8本タイプ、板厚40mm、幅 87mmが11基、オイルダンパーは最大減衰力1,000KNが6基、装置合計として81基が配置されています(図-3)。
免震基礎の施工では、各免震装置アンカーボルトを取り付けるための袋ナット周辺にU型補強筋を配置する設計仕様です。このため、基礎梁施工時にU型補強筋を精度よく取り付ける必要があり、鉄筋の納まりおよびテンプレートを十分検討しU型補強筋を取り付けました(写真-3)。
免震装置の立ち上がり基礎は、許容運搬時間内に高流動コンクリートを製造できる生コン工場が西尾市周辺にないため、立ち上がり基礎を普通コンクリートで打設した後、ベースプレート下のグラウトを充填する工法を採用しました。事前に充填性確認試験を行い、充填率97.7%にて合格した後、グラウト充填工事を 行いました。
上部構造は桁行7.2m×10スパン、梁間6.6~16.5m×4スパン、軒高33.55m、ラーメン構造7階建のSRC造です。架構を形成する柱は SRC造、大梁は外周部SRC造、内部はS造です。また、6階議場上部は吹抜けており、21.6m×29.7mの空間を確保するため屋上大梁は井桁状の格子梁で設計されています。床は鉄筋トラス型枠工法を採用し工業化を図っています。

おわりに

液状化対策の地盤改良工事は、締め固めにより地盤が膨張しSMWの壁体や杭に損傷を生ずる恐れがあるため、地盤改良工事の影響を受けないようにSMW工事、杭工事を行う必要があり、全体工程等に対して留意が必要です。

※gal(ガル):加速度の単位で地震の揺れの強さを表す。980gal=1G(地球重力)となる。

工事概要
工事名称 西尾市新庁舎建築工事
工事場所 愛知県西尾市寄住町下田22
発注 西尾市
設計・監理 (株)久米設計
施工 (株)鴻池組
工期 平成18年12月~平成20年6月
構造・規模

鉄筋鉄骨コンクリート造(免震構造)

地下1階 地上7階 

建築面積 4,953.54m2

延床面積 18,791.40m2

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440号(2008年03月01日)