ハイブリッド構造による『浮遊感のある大屋根』
維新百年記念公園陸上競技場
広島支店 工事事務所
小野弘毅
はじめに
山口県は、平成23年に開催される第66回「やまぐち国体」に向けて、メイン会場となる維新百年記念公園陸上競技場を改築することになりました。同競技場は、昭和38年に開催された第18回国民体育大会の主会場として利用された後、長年にわたり公園の中心施設として県民から親しまれてきましたが、老朽化 が進んだこともあり今回の国体を機に最新の設備を備えた競技場へと生まれ変わることになりました。
工事はスタンドの躯体工事、仕上げ工事など多岐にわたりますが、当報告ではメインスタンドの大屋根に採用された「ハイブリッド構造」(アーチ構造+吊り構造)による大屋根鉄骨工事について紹介します。
![]() 図-1 完成予想パース |
![]() 写真-1 競技場全景 |
![]() 写真-2 メインスタンド |
|
設計概要
設計のコンセプトとして、「心地よい景観づくり」「魅力ある空間づくり」「地球にやさしい施設づくり」の3点が掲げられています。具体的には、構造計画として「浮遊感のある大屋根」や省エネ計画として「雨水・井水、太陽光の有効利用」、「全熱交換機・節水型器具の採用」などが設計に盛り込まれています。 また、多目的な運動施設として計画され、日本陸上競技場連盟の「第1種公認陸上競技場(多目的)」、日本サッカー協会の「スタジアム標準」を満たしています。観客の収容人員はメインスタンド、バックスタンドを中心に芝生席を含めて20,000席となっています。
ハイブリッド構造による大屋根
大屋根に浮遊感を持たせるため、キールトラスによる「アーチ構造」とマストからのケーブルによる「吊り構造」を組み合わせた『ハイブリッド構造』が採用されています。片持ち型式の屋根梁は、全長が約37m~27mで変化しながら24フレームが7.5mピッチで連続配置され、その上部にアーチ状のキールトラスが取り付いています。このキールトラスをマスト(h=56m、φ1,200mm)頂部を支点として吊り上げているケーブル(φ115mm、1本)とバックステイケーブル(φ100mm、2本)で釣り合う特殊鋼構造となっています(図-2、写真-3)。
![]() 写真-3 浮遊感のある大屋根 |
![]() 図-2 ハイブリッド構造パース |
大屋根鉄骨の架設工事
メインスタンドを中心とする鉄筋コンクリート工事に引き続いて、大屋根の鉄骨工事が平成22年より開始されました。前述の通り特殊な鋼構造であることから、学識者および建築主をはじめ設計、施工を担当する関係者からなる屋根建方委員会を設け、試験や実験を行うなど綿密な事前検討を行いました。施工時の安全性と精度を確保すべく構造解析を行い、仮設計画や建方手順など具体的な計画を進めました。工事の大まかな流れは以下の通りです。
- ベント架台設置(屋根梁受けの仮設)
- V字型柱建方(屋根後方部の支柱)
- 屋根梁建方(図-3、写真-4)
- 水平タイロッド取付(屋根梁つなぎ)
- キールトラス建方(写真-5)
- メインマスト建方
- ケーブル架設・張力導入
- ベント開放(ジャッキダウン)・解体(図-4)
鉄骨建方は400tのクローラークレーンをメインに、補助機として100t級のクローラークレーン2機をいずれもスタンド外側に配置して行いました。また、安全および品質面からできる限り部材を地上で組み立てることで、高所作業を極力減らしています。例えば、屋根梁、キールトラスおよびマスト鉄骨などは、輸送の関係上、工場で分割して製作した部材を現場ヤードで地組みしてから建て方しています(写真-6)。
屋根梁の建入精度管理に当たっては、光波による3次元計測器を使用し、あらかじめ鉄骨部材に貼り付けたターゲットにより、レベルと通りの計測を行いました。
鉄骨工事の最終段階となるジャッキダウンでは、屋根梁を受けているベント上部の油圧ジャッキを下降させて荷重を開放する方法を採用しました。屋根梁を3つのエリアに分け、エリアごとに同時にジャッキダウンしましたが、中央部で最大200mm以上のダウン量が予測されることから、5段階に分けて20%ずつジャッキダウンしました。管理項目は、(1)屋根梁鉄骨の変位(X,Y,Z)、(2)バックステイロッド張力、(3)マストケーブル張力の3項目とし、各段階で計測を行った結果、すべての項目について解析値に近い値となりました。
図-3 屋根梁の建方計画図 |
![]() 写真-4 屋根梁建方状況 |
![]() 写真-5 キールトラス建方状況 |
![]() 写真-6 鉄骨地組状況 |
|
図-4 ベント配置(ジャッキダウン時) |
おわりに
工事は昨年末に無事終了し、今年秋に開催されるやまぐち国体へ向けて準備が進められています。安全と品質・精度の確保という命題に工事関係者が一丸となって取り組んだ結果、設計段階でイメージされた浮遊感のある大屋根を、豊かな自然を背景とした真新しい競技場に浮かばせることができました。
工事名称 | 維新百年記念公園陸上競技場新築工事 |
---|---|
工事場所 | 山口市維新公園4丁目 |
発注 | 山口県 |
設計 | 山口県建築指導課、(株)佐藤総合計画 |
工事監理 | (株)佐藤総合計画 |
施工 | 鴻池組・井森工業・山口建設特定JV |
工期 | 平成20年10月~平成22年12月 |
構造規模 |
|
<参考文献>
・渡邊ほか:維新百年記念公園陸上競技場-計画と施工-、鉄鋼技術、2010.11
本誌掲載記事に関するお問い合わせは、管理本部 広報までお願いします。なお、記事の無断転載はご遠慮ください。