大空間の空調システムと精密加工機械基礎の振動検討

TKSかずさテクノセンター

東京本店 工事事務所 新田啓作
/ 建築部 山田祐司

はじめに

TKSかずさテクノセンターは、新聞輪転印刷機のトップメーカーである株式会社東京機械製作所の玉川製造所(神奈川県川崎市)に替わる新たな生産拠点として、かずさアカデミアパーク(千葉県木更津市)に建設されました。10万4千m2を超える敷地に、生産活動の主体となる「工場棟」(S造2F:167m×90m)と設計や研究開発、執務などを行う「研究棟」(S造2F:73m×33m)の2棟および倉庫などが配置されています(写真-1)。
本報告では、工場棟における大空間の空調システムおよび精密加工機械の基礎に関する振動検討を中心に紹介します。

大空間の空調

工場棟で印刷機械を製作する加工エリアには、輪転機のフレームを製造するフレームライン、胴の加工を受け持つシリンダーライン(2カ所)、より細かい部品 加工を行うギア・ローラーライン(2カ所)の合計5つの生産ラインがあります。ここでは、印刷機の中枢部をより精密に仕上げる工程が要求されます。そのため、製品の温度による熱膨張・収縮を極力抑える目的から、室内温度の管理が重要なポイントとなり、90m(長さ)×80m(幅)×12~14m(高さ)の大空間を室温±2℃以下に制御する空調が求められています(図-1、写真-2)。
機械の製作に使うクレーン下部の空間は空調ゾーンとして、加工エリア5ラインそれぞれに空調ダクトを配置することで、クレーン上部より均等に吹き出すようにし、ラインごとに還気ダクトを床面付近まで引き下げています。さらにダクトから吹き出された空気を空調ゾーンに有効に到達させるため、デリベントノズル と呼ばれるジェット気流の吹き出し口を設置して空調効果を高めています。デリベントノズルによる室内空気循環回数は、±2℃の要求精度より25回/時としています。また、照明器具、空調吹出口、デリベントノズルの位置関係を図-2のように設定し、照明器具の発熱が空調ゾーンに影響を与えないよう配慮してい ます。
加工エリアにおける空調システムの概要は表-1の通りです。基本性能に関しては、各種測定を行い、要求性能を満たしていることを確認しました。さらに詳細な検証も工場稼動後に行う予定です。

精密加工機械基礎の振動性能検討

精密加工機械の基礎は、機械メーカーによる推奨の形状寸法が機械ごとに異なっています。当工事では機械の配置を変更してもフレキシブルに対応できる基礎にしたい、というお客様の要望をもとに、基礎厚さをゾーンごとに統一する基礎形状に変更する計画としました。
変更に当たっては動的設計による検討を行い、(1)既設工場の振動測定、(2)精密加工機械の振動許容値設定、(3)機械加振力の推定、(4)機械基礎の振動モデル作成、(5)移転先の地盤における基礎の振動予測計算とその評価、という手順を採りました。
既設工場の基礎の振動測定により振動特性と振動性能を把握し、「機械+基礎」の1自由度系モデルを作成して実測値と計算値の比較を行うことにより、振動モデルの妥当性を検討しました(図-3、図-4)。さらに、既設基礎形式と新設基礎形式について、移転先の地盤係数を用いた振動性能評価を実施しました (図-5)。
その結果、既設基礎に比べ、ゾーンごとに基礎厚さを統一した新設基礎では基礎の接地面積を広くすることができ、加速度値が小さくなり、振動性能の向上が予測されました(図-6)。また、機械のフレキシブルな配置が可能になり、施工の合理化も可能となりました(図-7、写真-3)。

施工上の工夫

施工に当たっては、広い敷地でどのように効率的に作業を行うか、また、大スパンの工場棟への天井クレーン据え付けに関連して、鉄骨施工精度の確保などが 求められました。また、品質的には工場棟の機械基礎コンクリートは厚さ50~120cm、土間コンクリートは厚さ30~35cmあり、打設時期が夏場であったことから乾燥収縮による初期のクラック防止対策が必要でした。そこで養生マットとスプリンクラーによる散水湿潤養生を1週間以上行った結果、有害なクラックを防止できました。
一方、地球温暖化問題への取り組みの一環として、太陽光発電を利用した熱中症対策を行いました。広い敷地を活用した独立型太陽光発電装置を設置し、現場での湧水を利用したミスト装置の電力として用いました(写真-4)。さらに、基礎・地中梁にラスパネル型枠を採用することで、ベニヤ型枠の使用を削減するなど環境に配慮した施工を行いました。

おわりに

特に暑さが厳しい昨夏でしたが、関係者とともにさまざまな工夫を重ねることにより、設計上の要求性能を満たす建物をお客様に引き渡すことができました。 本報告では、建物の特徴に関わる大空間の空調システムと機械基礎の振動検討を中心に紹介しましたが、今回の経験やデータを今後の類似工事へ展開したいと考えています。

工事概要
工事名称 TKSかずさテクノセンター新築工事
工事場所 千葉県木更津市かずさ鎌足1-5番、6番
発注 (株)東京機械製作所
設計・監理 (株)東急設計コンサルタント
施工 (株)鴻池組
工期 平成21年11月~平成23年3月
工事内容 工場棟・研究棟:S造、地上2階
建築面積18,263m2、延床面積20,867m2

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462号(2011年07月01日)