蔵王連峰の北西部に位置する瀧山(標高1,362m)を背景に、山形の「最上三鳥居」の一つに数えられる石鳥居は、「御立の鳥居」と呼ばれ瀧山信仰の象徴とされてきました。正確な年代は不明ですが、平安時代の造立といわれており日本最古の石鳥居の一つとなります(写真-1)。構造は頁岩質角礫凝灰岩で造られた石造明神鳥居で、高さ約3.7m、柱径は約1m(北側0.971m、南側0.923m)、笠木と島木は一石から切り出され、「各部材の割出しが太く、幅に対して高さが低い」という当時の様式の特徴が表された形状の鳥居です。修理前は、凍結融解作用により石材表面にスレーキング(剥離)とひび割れが認められるなど凍害による劣化・損傷が著しい状態でした。
今回の保存修理工事では、冬季養生の際に石材の表面が剥離しない程度の石材強化を行う部分修理を基本方針としました。施工は、①仮設(覆屋・作業足場)の設置、②石材の清掃(完了後、1.5ヵ月間の乾燥)、③根巻モルタルの除去・塗り直し、④石材強化処理、⑤亀裂・剥離止め補修、⑥石材撥水処理、⑦仮設撤去の手順で行いました。
ケイ酸塩系の薬剤を塗布・含浸させる石材強化処理では、薬剤を内部まで浸透させる必要がありますが、石材表面が高い含水状態では浸透が阻害されてしまうため、降雨等から鳥居を保護するための覆屋を設置しました(写真-2)。鳥居表面は、多孔質な石質で全体的に風化が進み、部位や方角によっては劣化が著しい状態でした。そのため、清掃・洗浄では、洗浄機の水圧を抑えたほか、スチームやブラシなどで慎重に作業を行いました(写真-3)。また、石材強化処理および撥水処理では、石質の劣化状態により使用する薬剤の塗布量が細かく設定されていたため、事前に施工区画を決めて使用量を計算し、正確に塗布量を管理しながら施工を行いました(写真-4)。さらに、剥離・浮きの著しい箇所では、一回のエポキシ注入では充分な空隙充填ができないため、打音検査と注入を複数回繰り返しながら剥離止め補修を行いました(写真-5)。
写真-1 鳥居全景
写真-2 覆屋
写真-3 スチーム洗浄
写真-4 石材強化処理
写真-5 樹脂注入
文化財の保存修理では、当初の姿や工法を再現するだけでなく、伝統技術に現代の技術を融合していくことも必要です。後世に伝え、残していくという重大な責任を持ちながら、これからも文化財の保存修理に取り組んでまいります。
工事名称 | 要文化財「鳥居」保存修理工事 |
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工事場所 | 山形市鳥居ケ丘9番地内 |
発注者 | 山形市 |
施工者 | (株)鴻池組 |
工期 | 2023年5月~2023年11月 |
工事内容 | 仮設工事(足場・養生)一式、 石工事(修理)一式、 雑工事(補修・銘札等) |