技術広報誌ET

技術広報誌ET 2024年発刊号

750tクレーンを使用したH型鋼埋込桁の一括架設

513号(2024年4月1日) 名鉄喜多山 名古屋支店 工事事務所 白井 淳裕

はじめに

名鉄瀬戸線は、名古屋の中心部に位置する『栄町駅』と、「せともの」で有名な瀬戸市の『尾張瀬戸駅』を結ぶ、延長20.6kmの路線です。当事業は、この瀬戸線のちょうど中間に位置する『喜多山駅』付近の約1.9㎞区間を高架化するもので、当工事は、このうち国道302号との交差部を含む179mの区間を施工するものです(図-1、2)。ここでは、その国道交差部で採用したH鋼埋込桁の一括架設についてご紹介します。

図-1 完成イメージ図(名古屋市ホームページより)

図-1 完成イメージ図(名古屋市ホームページより)

図-2 事業平面図・縦断図(名古屋市ホームページより(一部加筆))

図-2 事業平面図・縦断図(名古屋市ホームページより(一部加筆))

高架化の手順

名鉄瀬戸線は、全区間が複線(上下線)で、そのほとんどが市街地(住宅街)を走行しています。そのため、高架化工事を行うための仮線の十分な用地確保が困難であり、その結果、上り線、下り線の順に1線ずつ高架化することになります。このうち、上り線(1期施工)については2021年に完成し、既に完成した高架上を列車が運行しています。下り線(2期施工)は、2022年6月から工事に着手しています。

H型鋼埋込桁の概要と施工方法

当事業の高架化は、主にRCラーメン橋とRCスラブ桁により計画されています。しかし、当工事の施工区間にある国道302号との交差部については、地下に高速道路(名古屋第二環状自動車道)が供用していることから、道路を跨ぐロングスパン構造となるため、橋長43mのH型鋼埋込桁が採用されました。H型鋼埋込桁とは、主桁材としてH型鋼を並べて架設し、その桁間に鉄筋を組み立てたうえでコンクリートを打設する、複合構造の橋梁です(図-3)。当工法の採用理由は、①国道の通行止め期間を最小限に抑えられること、②H型鋼とコンクリートの複合構造となるため、桁高を低くできること(高架下となる国道の空頭確保)、③鋼橋に比べて騒音が少ないこと、などが挙げられます。
H型鋼埋込桁の施工は、まず、現場内ヤードにてコンクリートを除く全ての部材(H型鋼桁、鉄筋、鋼製型枠、吊り足場、安全ネット等)の地組みを行ったうえで、移動式クレーンを用いて一括架設を行います。2期施工の桁架設作業は、2023年11月8日の列車運休時間帯(夜間)に国道を通行止めして実施しました。吊荷となる地組桁の総重量は吊具等を含めて168tにもなり、これを750tクローラクレーン(ドイツ製、ウェイト等を全て含めた総重量828t)を使用して架設を行いました。なお、750tクローラクレーンの組立には2週間を要し、機材の搬入には延べ64台のトレーラーを使用しました。桁の架設後には、国道の車両通行を確保しながら、コンクリートの打設および高欄の構築を行い、高架橋が完成します。

図-3 H型鋼埋込桁構造図

図-3 H型鋼埋込桁構造図

クレーン足場の地耐力の確保

クレーン重機を使用するにあたり、地耐力を確保することは、非常に重要です。今回の施工では、クレーン足場の地耐力として745kN/㎡以上が必要でした。これに対し、現地盤の許容支持力は76kN/㎡しかなく、これに対応するためにセメント系固化材による表層改良を行うこととしました。改良の仕様は検討の結果、改良厚1.4m、固化材添加量150kg/㎥に決定しました。また、施工箇所が住宅密集地で、周辺への改良材の飛散が懸念されたことから、スラリー添加方式の混合処理工法を採用しました。これは、①現場に設置したセメントプラントにて固化材と水とを混合することによりスラリー状にしたものを、②グラウトポンプで圧送し、③バックホウのバケット先端から噴射させることにより、改良材と現地盤を混合攪拌するものです(写真-1)。これにより、改良材の飛散を抑え、均質な改良地盤を造ることができました。改良後は、不陸整正を行ったうえで、荷重の分散を図るために大型敷き鉄板(3m×8m×t50mm、9.4t/枚)を敷設しました。

写真-1 表層改良状況

写真-1 表層改良状況

営業線に挟まれた狭小なスペースへの桁架設

H型鋼埋込桁の架設は、1期施工と2期施工のそれぞれで行う必要があり、1期施工は2020年11月に実施しています。1期施工では、施工ヤードの奥に鉄道営業線の上下線(ともに仮線で地上線)が走行していたため、桁架設に支障するものはありませんでした。これに対し、今回の2期施工では、完成した上り線(高架線)と下り仮線(地上線)の間に架設する必要があったため、上り線の上空を超える架設作業を行わなければなりません。上下線の架線設備の間隔は最も狭い箇所で6.4m程度しかなく、この狭小なスペースに、幅5.4m、長さ43m、総重量168tという巨大な吊荷を揚重し、架設を行う必要がありました(図-4)。
この作業を安全に行うには、吊荷の姿勢を正確に制御する必要があります。そこで、従来の人力による介錯ロープに加えて、ウインチによる機械式の介錯ワイヤを採用して吊荷を制御しました。具体的には、架設に使用するクレーン後部の左右それぞれに大型の電動ウインチを設置します。そのワイヤをクレーンのブーム中間付近に取り付けた滑車を介して玉掛ワイヤの左右それぞれに固定します。そのうえで、ウインチのワイヤ張力を調整することにより、吊荷の方向性・安定性を確保しました。これに加えて人力による介錯ロープでの微調整を行うことで、鉄道設備に接触することなく、安全に架設作業を完了させることができました(写真-2~4)。

図-4 H型鋼埋込桁架設計画図

図-4 H型鋼埋込桁架設計画図

写真-2 B9桁架設状況①

写真-2 B9桁架設状況①

写真-3 B9桁架設状況②

写真-3 B9桁架設状況②

写真-4 B9桁架設状況③

写真-4 B9桁架設状況③

車両の通行を確保した国道上でのコンクリート打設

H型鋼埋込桁を一括架設後、コンクリートの打設作業を行いました。打設はコンクリートポンプ車による昼間作業のため、作業箇所の直下の国道では、一般車両が途切れることなく走行しています。資材の落下はおろか、ブリーディング水の滴下すら許されない状況での施工となります。その対策として、「水滴落下防止シート」を製作し、桁下全体を覆うことにしました。シート内部に水がたまった際にも耐えうるように、テント素材を採用し、吊り足場用の単管にロープで固定することにより、シートの固定強度を確保しました(写真-5、6)。その結果、コンクリート打設中に一滴の滴下もなく、無事に施工を完了させることができました。

写真-5 水滴落下防止シート設置状況

写真-5 水滴落下防止シート設置状況

写真-6 コンクリート打設状況

写真-6 コンクリート打設状況

おわりに

今回紹介したH型鋼埋込桁の工事は2023年12月に無事完成しました(写真-7)。2期施工は2024年6月までを予定しており、鉄道営業線近接作業が今後も続きます。さらに2期施工が完了し、下り線の切替え後には、高架下の整備工事を施工することになっています。
『Team KONOIKE』の力を発揮し、残りの工事も安全かつ高品質なものづくりに努めていきます。

写真-7 現場全景

写真-7 現場全景

工事概要

工事名称 瀬戸線 喜多山駅付近鉄道高架化に伴う本線土木(その6)工事
工事場所 愛知県名古屋市守山区喜多山地内
発注者 名古屋鉄道(株)
施工者 (株)鴻池組
工期 2018年5月~2026年10月
工事内容 施工延長:179m
RCラーメン工 : 4基
RCスラブ桁工 : 3連
橋脚工 : 2基
H鋼埋込桁(L=42.0m) : 1連
PCプレテン桁工(L=11.0m) : 1連
場所打杭(φ1.2~1.3m L=12.5~22.0m 37本)
本線土工 : 1式
現在線撤去工 : 1式
仮線撤去工 : 1式

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