技術広報誌ET

技術広報誌ET 2024年発刊号

ホール天井の落下防止や外壁改修による安全性の向上

513号(2024年4月1日) 鈴鹿市文化会館大規模改修 名古屋支店 工事事務所 遠藤 武彦

はじめに

鈴鹿市文化会館は1988(昭和63)年に竣工し、市民文化活動の拠点として活用されてきましたが、供用から30数年が経過したことにより、設備機器の耐用年数超過や経年劣化が多数確認されました。また、中心的な施設である「けやきホール」の天井は、特定天井に該当するため早期の改修が必要であり、外壁はタイルの剥離・損傷が激しく、落下による事故を防止するための補修が必要となっていました。
ここでは、大規模改修の事業方式として採用されたDBM方式の概要、建物の安全性向上として実施されたホール天井および外壁タイルの落下防止対策工事について紹介します。

写真-1 石張調の外観となった改修後の建物

写真-1 石張調の外観となった改修後の建物

DBM 方式による事業概要

鈴鹿市は、文化会館の大規模改修工事および維持管理に関連する一連の業務を民間事業者の技術力などを活用することで、効率的かつ効果的な施設更新や維持管理を行うため、DBM方式(Design・Build・Maintenance)を採用しました。公募型プロポーザル方式により募集され、事業者として当社を代表者とする企業グループ(建設;鴻池組、設計;東畑建築事務所、維持管理;近鉄ファシリティーズ)が選定されました。事業者は、本施設の設計業務や建設業務などからなる大規模改修工事業務および15年間の維持管理業務を行うことになります。

ホール天井の落下防止

今回提案した落下防止措置は、鴻池組ほか3社が共同開発した天井落下防止工法「CSFP工法(帯塗くん)」で、(一財)日本建築総合試験所から建築技術性能証明を取得しています。
帯塗くんは、繊維強化塗料(短繊維を混入した塗料)を帯状に塗布することで天井面を一体化し、落下防止用のワイヤなどにより地震時に天井面構成材が落下することを防ぐ、フェールセーフ型の天井落下防止工法です。4つのタイプがありますが、今回の改修では「帯塗・ワイヤタイプⅠ」(図-1)と「帯塗・拡頭ワッシャータイプ」の2タイプを用いています。両タイプの概略施工手順は、以下の通りです。

図-1 帯塗・ワイヤタイプⅠのイメージ

図-1 帯塗・ワイヤタイプⅠのイメージ

○帯塗・ワイヤタイプⅠ(塗膜と直交方向に受けワイヤを設置)
①作業足場設置
②帯状塗膜施工(下塗り、中塗り、膜厚確認、上塗り)(写真-2)
③落下防止用ワイヤ等設置(ボード面穴開け、吊りワイヤ・受 けワイヤ・接続金物取付)(写真-3)
④化粧カバー取付

○帯塗・拡頭ワッシャータイプ(ビスやクリップで補強+吊りワイヤを設置)
① ②は上記と同じ
③拡頭ワッシャー付きビス留付け(写真-4)
④天井内金物設置(耐震クリップ取付、セパキャッチャー取付、吊りワイヤ取付)

けやきホールの天井は、水平だけでなく様々な角度の勾配があるため、形状に応じて2つの工法タイプを使い分けています。垂直面や急勾配の天井には、補強とフェールセーフを兼ね備えた帯塗・拡頭ワッシャータイプを適用しています。いずれのタイプでも施される帯状塗膜は、透明な塗料であるため目立たず、ワイヤも天井の色と同系色のためネットなどによる落下防止対策と比べて美観性が損なわれません(写真-5)。なお、工法の詳細については、QRコードから鴻池組YouTubeチャンネルに掲載の動画にてご確認ください(図-2)。

写真-2 中塗り塗膜の均し状況

写真-2 中塗り塗膜の均し状況

写真-3 受けワイヤ設置状況

写真-3 受けワイヤ設置状況

写真-4 拡頭ワッシャー付きビス打ち状況

写真-4 拡頭ワッシャー付きビス打ち状況

図-2 帯塗くん紹介動画QRコード

図-2 帯塗くん紹介動画QRコード

写真-5 帯塗くん施工後の天井面

写真-5 帯塗くん施工後の天井面

外壁タイルの落下防止

外壁の改修は、タイル打診調査から浮き等の不具合が見つかった箇所については、タイルの撤去または「アンカーピンニング工法」で補修を行いました。その後、タイル面を覆う「シート建材工法」により外観を石張調に一新しました。大まかな施工フローは、以下の通りです。

①タイル打診調査(写真-6)
②既存タイル面の高圧洗浄(写真-7)
③アンカーピンニング工法による補修

タイル等の剥離による落下を防ぐために、浮いている部分をアンカーピンとエポキシ樹脂で固定して補修する工法です(図-3)。マーキングされた目地部にアンカーピン挿入口を穿孔し(写真-8)、アンカーピンを挿入・打込み・開脚した後、グリスポンプにてエポキシ樹脂を注入します。表面はエポキシ樹脂系パテ材で仕上げます。

④シート建材工法による改修

シート建材とは、石やタイル、木などの素材感を本物そっくりに再現したシート状の建材です。今回の外壁改修では、タイルの剥落防止や維持管理の容易さなどから採用されました。断面図(図-4)に示すように、既存のタイル面にカチオン系樹脂モルタル、融合材の順に塗り、その上にシート建材を貼ります。シート上からゴムローラーを当てて下地との間の空気を抜きながらシート建材を圧着し、最後にシートの目地部分を仕上げて完了します(写真-9)。
シート建材工法は、健全部のタイルを撤去する必要がないため産業廃棄物の排出が低減でき、カッターナイフで裁断加工ができるため施工時の粉塵や騒音の発生がないというメリットがあります。また、今回採用したシート建材は、セラミックハイブリッド型フッ素樹脂でコーティングされているため、他のコーティング剤と比べ優れた耐久性を有し、長期にわたり建物の美観が維持できます(図-5)。

写真-6 外壁打診調査

写真-6 外壁打診調査

写真-7 外壁高圧洗浄状況

写真-7 外壁高圧洗浄状況

写真-8 アンカーピン挿入口穿孔状況

写真-8 アンカーピン挿入口穿孔状況

図-3 アンカーピンニング工法断面図 ※コニシ㈱カタログより引用

図-3 アンカーピンニング工法断面図 ※コニシ㈱カタログより引用

図-4 シート建材工法断面図 ※真和建装㈱カタログより引用

図-4 シート建材工法断面図 ※真和建装㈱カタログより引用

図-5 コーティング剤の耐候性比較 (促進耐候性試験結果)※真和建装㈱カタログより引用

図-5 コーティング剤の耐候性比較 (促進耐候性試験結果)※真和建装㈱カタログより引用

写真-9 シート建材工法の施工状況

写真-9 シート建材工法の施工状況

おわりに

鈴鹿市文化会館の大規模改修は、今回紹介した安全性向上に関するものだけでなく、設備機器の更新やユニバーサルデザインへの対応など利便性向上に関わる工事も多く行われました。生まれ変わった文化会館が、市民の皆様に末永く愛されることを願っています。

工事概要

工事名称 鈴鹿市文化会館大規模改修事業 設計・建設工事
工事場所 三重県鈴鹿市飯野寺家町810番地
発注 鈴鹿市
工事監理 鈴鹿市
設計 (株)東畑建築事務所
施工 (株)鴻池組
工期 2022年6月~2024年5月(設計期間含む)
用途 文化会館
構造・規模 本館棟:S RC 造 地上3 階
機械棟:R C 造 地上1 階
建築面積3,260.77㎡
延床面積5,980.13㎡

513号(2024年4月1日)の記事

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