技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

鉄道に近接する山留め支保工と大空間上部の鉄骨トラスの施工

511号(2023年10月1日) 吹田市北部消防庁舎等複合施設 大阪本店 工事事務所 竹原 宏史 ・ 安達 翔太

はじめに

当庁舎は、消防署および庁舎・教育センターの機能をもつ複合施設です。吹田市北部の災害対応拠点として大災害時も機能維持が求められることから免震構造が採用され、2回線受電等による設備的な機能確保も考慮されています。また、CFT柱や鉄骨トラスの採用によって実現した訓練用の大空間を設けることで、駅のホームや建物周囲から消防訓練の様子を見ることができ、市民の防災意識や安心感の向上につながると考えられます。
ここでは、阪急南千里駅に近接する山留め支保工、消防訓練施設の大空間上部の鉄骨トラスについて、施工の概要を紹介します(写真-1)。

写真-1 上空からみた工事状況

写真-1 上空からみた工事状況

ハイブリッド壁を用いた山留め計画

当建物は阪急南千里駅に近接して建設されるため、根切り底からの影響範囲が高架駅の基礎にかかることから鉄道近接協議が必要な案件となっています。設計段階で阪急電鉄と設計者との間で協議が実施されており、軌道部変位の限界管理値に対する山留め変形の上限が決まった状態での施工協議となりました。なお、設計時に想定した施工条件と実施工時の山留め支保工解体時の条件が異なっていたため、山留め変形を上限値以下にするための再検討を行いました。地盤改良部の強度を再評価するとともに、山留め壁の剛性を高めるため後打ち壁とのハイブリッド化を取り入れた山留め計画としました(図-1)。

図-1 山留め計画(平面図・断面図)

図-1 山留め計画(平面図・断面図)

図-1 山留め計画(平面図・断面図)

図-1 山留め計画(平面図・断面図)

本設としての地盤改良を山留め壁に対する先行地中梁として評価することで、水平地盤反力係数の値を設計時想定の33,000kN/㎥に対して、改良体の設計基準強度に平面的な改良率を乗じた50,000kN/㎥としました。さらに、山留め壁と地盤改良部の隙間に薬液注入して密着性を高めました。また、基礎および免震擁壁の一部の山留め壁芯材に2-19φ150、L=150mmのスタッドを打設することにより後打ち壁と一体化したハイブリッド壁とし、剛性を高めることで切梁解体時の山留め変形を抑制しました(図2、3)。なお、鉄道側の掘削深度を浅くするため、長辺側の切梁腹起しを先行して架設するという通常と逆の手順で計画しました。これらの工夫により山留め変形値を設計協議時の上限値以下とすることができました。
施工時には山留め壁4辺を傾斜計で計測し、鉄道側は自動計測としました。また、高架駅の柱3箇所のレベルを毎日計測し、ホームのコンクリート床版側面を3次元測量にて2週間ごとに計測するなど、管理を徹底しました。

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-2 ハイブリッド山留め壁

図-3 山留め変位解析値の比較

図-3 山留め変位解析値の比較

大空間上部の鉄骨トラスの施工

建物東側の一部は7階まで吹き抜けた大空間で、消防訓練スペースとして計画されています。その上部を塞ぐ8~9階の架構は、3スパン28.5mを無柱で飛ばす鉄骨トラス構造となっています。鉄骨梁の下端が地上より28.8mと高いため、地上からの足場を設けずに施工しました。鉄骨トラスが完成する前の施工中における鉄骨梁のたわみを最低限にするため、BIMを活用して周辺鉄骨への影響が少なくなる建方順序を検討し、2台の定置式クレーンを最大限に活用して施工しました(図-4、写真-2)。

図-4 鉄骨トラス建方手順

図-4 鉄骨トラス建方手順

写真-2 鉄骨建方状況

写真-2 鉄骨建方状況

8階からR階までの外壁工事に必要な足場のベースとなる跳ね出しブラケットは、鉄骨建方時に梁鉄骨に先付けして施工しました(写真-3)。また、大空間の天井仕上げは、鉄骨梁から吊り下げたパネル式吊り棚足場を用いて行いました(写真-4)。なお、跳ね出しブラケットは大型の高所作業車を使用して解体しました。

写真-3 ブラケットを付けた鉄骨梁建方状況

写真-3 ブラケットを付けた鉄骨梁建方状況

写真-4 パネル式吊り棚足場

写真-4 パネル式吊り棚足場

おわりに

2023年9月現在、タワークレーンの解体を行うなど、年末のⅠ期工事竣工に向けて安全第一に作業を進めています。この新たな複合施設が地域住民の皆様にとって安全・安心の拠り所となり、活用されていくことを願っています。

工事概要

工事名称 吹田市北部消防庁舎等複合施設建設工事
工事場所 大阪府吹田市佐竹台1丁目25-126,25-138の一部,25-163
発注 吹田市長 後藤圭二
設計・監理 (株)あい設計 大阪支社
施工 鴻池・堀田特定建設工事共同企業体
工期 2021年6月~2024年12月
(Ⅰ期:2021.6~2023.12、Ⅱ期:2023.12~2024.12)
用途 消防署・庁舎・教育センター
構造・規模 CFT造(一部S造) 基礎免震構造 地下1階 地上10階
建築面積2,355㎡ 延床面積16,812㎡

511号(2023年10月1日)の記事

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