技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

SOCS工法による深度100mを超える大規模ケーソンの施工

511号(2023年10月1日) 城北立坑築造工事 大阪本店 工事事務所 福家 信弘・宮崎 聖人 / 技術本部 土木技術部 秋田 満留

はじめに

近年は地球温暖化などの気候変動に伴い、線状降水帯が頻繁に発生し、広範囲かつ長時間の大雨により都市部や郊外を問わず内水氾濫や外水氾濫が頻発しています。安心して暮らせる生活環境の確保や改善を図るため、大阪府では寝屋川流域総合治水対策事業の一環として地下河川と下水道増補幹線の整備により浸水被害軽減を行っています。当事業のうち寝屋川北部地下河川は、寝屋川市から大阪市都島区に至る延長14.3kmに及ぶ大規模地下施設で、全線の完成時には雨水を下流に流して広域にわたる治水効果を発揮します。すでに完成している9.7kmの区間では大雨時に約26万㎥を一時貯留する施設として運用され、浸水被害を軽減しています(図-1)。城北立坑築造工事は、この寝屋川北部地下河川のうち上流側の鶴見立坑(供用済区間)および下流側の寝屋川北部地下放水路ポンプ場(未整備区間)を結ぶシールド発進用の立坑です。地下河川全体の中で下流側に位置することから深度100mを超え、オープンケーソンとしては国内最大深度の大規模立坑となっています。ここでは、自動化オープンケーソン工法で施工中の状況について報告します。

図-1 寝屋川北部地下河川概要(大阪府HPより)

図-1 寝屋川北部地下河川概要(大阪府HPより)

立坑構造と地盤条件

ケーソン構造を図-2に示します。当初は1ロットの標準高さ6.0mで全18ロットの計画でしたが、8ロットからロット高さを7.2mに変更して全16ロットとすることで構築工程の短縮が図られています。躯体コンクリートは1ロットあたり2,000㎥以上の打込みとなり、材料供給や作業時間を考慮して1ロットのコンクリート打込みを2回に分けて行っています。
土質は大別して地表面から約14mまでは軟弱な沖積層で砂と粘土の互層です。22mまでが洪積粘性土層(N≒7~14)、以深は大阪層群で砂質土(N≧50)と粘性土(N≒21~29)の互層になっています。なお、ケーソン初期沈設時やコンクリート打込み時の不等沈下などを防止するため、地表から深度16mまでのケーソン刃先直下地盤を先行削孔砂置換え(φ2,000mm、110本)で置換して地耐力を確保しています。

図-2 城北立坑構造図

図-2 城北立坑構造図

自動化オープンケーソン工法の概要

自動化オープンケーソン工法(Super Open Caisson System、以下;SOCS)は、1990年当時の建設省総合技術開発プロジェクトにおいて、建設事業における技能労働者不足や高齢化への対として、基礎構造物の情報化・合理化施工を目指し、ロボット化推進と作業環境の改善策として開発されました。SOCSの最大の特徴は遠隔操作式の水中バックホウ型機械で、開発当初は1MPa、その後の改良で1.2MPa(水深120m相当)の高水圧に対応します。これによりオープンケーソンの適用範囲を大幅に拡大し、大口径・大深度施工において高精度で計画的な施工が行えるようになりました。SOCSは1996年に霞ヶ浦導水事業の立坑工事に採用されて以来、深度50m程度の大規模立坑を中心に施工実績を積み重ねてきました。城北立坑は外径φ34.8m、深度102.2mとこれまでの実績と比べても最大規模の立坑工事となり、これまでの施工経験やノウハウを全て活かしての挑戦となります(図-3、図-4)。

図-3 SOCSイメージ

図-3 SOCSイメージ

図-4 SOCS施工実績

図-4 SOCS施工実績

①掘削揚土システム(写真-1~4)
当システムは、水中掘削機と水中掘削支援機、掘削揚土クレーンから構成されています。

a)水中掘削機
水中掘削機は地上運転室からの遠隔操作で、ケーソン刃先直上の躯体内壁に設置した走行レール上を水平方向に走行・停止し、このレールを把持することで掘削反力を確保します。バケット幅は標準1.0mで、ケーソン刃先から中央に向かって約5.0m範囲の掘削が可能です。ケーソン刃先部を円周方向に102筋に分割し、地盤を堅さやケーソン傾斜に応じて掘削します。

b)水中掘削支援機
水中掘削支援機は150t吊級クローラクレーンをベースマシンとし、水中掘削機の制御・電力ケーブル用のケーブルリールを追加で装備しています。水中掘削支援機の役割は以下の通りです。

c)掘削揚土クレーン
掘削揚土クレーンは、200t吊級クローラクレーンに旋回・起伏角度、ワイヤー送出し量や荷重計などのセンサー類を搭載し、『掘削揚土支援システム』で一元管理しています。クレーン自体にも位置座標を持たせ、これらのデータを組み合わせてクレーンブームや電動油圧グラブの位置を座標演算してクレーン運転席と圧入管理室のモニタ上にリアルタイム表示しています。当工事の掘削平面積は約957㎡と大きいことから水中掘削機、水中掘削支援機、掘削揚土クレーンをそれぞれ2台ずつ使用しています。そのため、特にクレーンブームがケーソン上で輻輳するので、上記の『掘削揚土支援システム』により接触防止を図りながら連携作業を行っています。

写真-1 水中掘削機

写真-1 水中掘削機

写真-2 水中掘削支援機

写真-2 水中掘削支援機

写真-3 ケーソン内の掘削揚土状況

写真-3 ケーソン内の掘削揚土状況

写真-4 掘削揚土支援システム

写真-4 掘削揚土支援システム

②沈下管理システム  油圧ジャッキを用いた圧入工法で、ケーソン挙動の計測から圧入までの流れを一体化し、時々刻々と変化する傾斜や沈下量などのデータを基に迅速かつ高精度に姿勢を制御しながらケーソンを圧入します。当工事では3,000kN油圧ジャッキを20台、総圧入力60,000kNで圧入を行います。圧入設備(圧入桁、油圧ジャッキ、写真-5)および圧入荷重の反力となるPC鋼より線アンカーは、後施工のシールド計画範囲にかからないよう配置され、ケーソンの北側範囲に9台、南側範囲に11台の配置となっています。

写真-5 圧入設備

写真-5 圧入設備

施工ヤード

ケーソンの周りには、水中掘削機の支援機2基と、掘削揚土用クレーン2基の計4基のクローラクレーンが配置されています(図-5、写真-6)。これら機械のケーソン上での輻輳作業を、前述の『掘削揚土支援システム』やクレーンカメラ・無線連絡などにより管理しています。躯体構築中は掘削揚土クレーンの電動油圧グラブをフックに付け替え、鉄筋や型枠などの揚重用クレーンとしても使用します。

図-5 施工ヤード

図-5 施工ヤード

写真-6 現場全景

写真-6 現場全景

現在までの工事進捗状況

2023年8月時点で第10ロットまでケーソン沈下が完了し、刃先先端の深度は約GL-56mとなっています。ケーソンに生じている傾斜量は約4mmです。1日の平均沈下量は23cm程で、これから深度がより深くなるほど掘削揚土の揚程距離が増加するため低下していきます。

おわりに

今回の工事は外径、深さともに国内最大級のオープンケーソンであり、またSOCS工法においても深さを30m近く更新する未知の工事となっています。今後も砂質土と粘性土の互層が続きますが、『Team KONOIKE』の技術力とチームワークで約2年後の沈設完了を目指します。

工事概要

工事名称 寝屋川北部地下河川 城北立坑築造工事
工事場所 大阪市城東区関目2丁目地内
発注者 戸田・ハンシン・大容特定建設工事共同企業体
施工者 (株)鴻池組
工期 2020年8月~2026年2月
工事内容 シールド発進用立坑築造
ケーソン諸元
外径φ34.8m、内径φ28.0m、壁厚3.4m
躯体長100.7m、沈設深さ102.2m
掘削沈下工 96,200㎥
周面摩擦低減工 NFシート、滑材注入1式
水中コンクリート工 8,113㎥
コンタクトグラウト工 648㎥

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