技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

防災機能を有したパーキングエリアの設計施工

510号(2023年7月1日) 西湘パーキングエリア災害復旧 東京本店 工事事務所 深澤 道博・村島 雅征 / 技術本部 土木技術部 山口 充

はじめに

西湘パーキングエリア(下り線)は、神奈川県小田原市国府津の西湘バイパスに位置する、相模湾に面した風光明媚な休憩施設で、休日になると多くのドライバーが利用します(図-1)。一方で、海岸に面しているがゆえに、波浪や高波による被害を度々受けてきており、これまでにも災害復旧工事が実施されてきました。そうした中、2019年10月に発生した台風19号の高波により、パーキングエリアに甚大な被害が生じました。応急復旧後に仮営業を行っていましたが、防災機能を抜本的に強化するために災害復旧工事を行うことになりました。ここでは、復旧後のパーキングエリアにおける防災機能としての位置づけと、当社が設計施工により実施した災害復旧工事の概要について紹介します。

図-1 西湘パーキング(下り線)の概要

図-1 西湘パーキング(下り線)の概要

台風19号による被害の概要

2019年10月に発生した台風19号は、最大時の中心気圧が915hPaの猛烈な台風で、10月12日に大型で強い勢力で伊豆半島に上陸しました。この台風の通過により、パーキングエリアでは、打ち上げ高さが20m程度の高波による越波により、休憩施設の損壊等の大きな被害を受けました(写真-1)。施設被害は大きかったものの、台風上陸前に西湘バイパスを通行止めとしたことで、幸いにも人的被害はゼロでした。

写真-1 台風19号による被災状況

写真-1 台風19号による被災状況

災害復旧工事における防災機能の位置づけ

パーキングエリアの復旧仕様を計画するにあたり、設計方針を以下のように決定しました。

①津波防災の観点に基づく復旧仕様の決定
発生が確実視されている、東海・東南海・南海地震では、その地震エネルギーの巨大さから、東日本大震災を上回る津波被害が想定されています。このため、神奈川県による「相模灘沿岸海岸保全基本計画」を参考に、パーキングエリアにおける津波の最大基準水位高をTP+10.0mに設定し、この水位高以上の地盤高を確保することで、利用者の安全を確保する計画としています。

②越波対策の観点に基づく復旧仕様の決定
高波による被害を防止する観点からは、越波が生じない強固な護岸の築造が最良となります。前回の台風19号クラスの越波を完全に防御するためには、パーキングエリアの地盤高さより遥かに高い擁壁が必要となり、現実的な対策にはなりません。このため、まずはパーキングエリアの閉鎖や本線通行止め規制による運用面での対策の実施により、利用者の安全を確保した上で、越波の発生はある程度許容するものとしています。その上で、パーキングエリアの横断排水勾配を海側に確保することで、越流した海水を速やかに排水し、被災時に海側にあった施設構造物を本線(山)側に再配置することで、越波による建物の直接的な被害が生じにくい計画としました(図-2)。

図-2 越波対策の概要

図-2 越波対策の概要

防災機能の強化

パーキングエリアの現況地盤高さはTP+7.8m程度であり、計画地盤高さのTP+10.0mを確保するためには、約2.2mの嵩上げ盛土が必要となります。このため、既設擁壁の背面に、コンクリートを増し打ちすることで補強し、その上部に波返し機能を有するコンクリート擁壁を延長約200mにわたり新設することで現況の護岸の高さを上げ、地盤を全体的に嵩上げするとともに、高波や津波の浸入を抑制する構造としました(図-3、写真-2)。

図-3 嵩上げ擁壁の断面概要

図-3 嵩上げ擁壁の断面概要

写真-2 新設した波返し機能を有する擁壁

写真-2 新設した波返し機能を有する擁壁

おわりに

防災工事の基本となる地盤の嵩上げ盛土とともに、用排水工の整備、舗装工事や各種道路施設の設置、トイレ棟の施設構造物の構築を経て、2023年4月29日よりリニューアルした西湘パーキングエリア(下り線)が、予定通り無事に開業しました(写真-3)。当事例のように、道路施設の維持更新が進められていく中、激甚化する各種災害に対する防災機能を有した施設のリニューアルを進めていくことが今後必要と考えられます。

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-1

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-1

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-2

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-2

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-3

写真-3 完成後の西湘パーキングエリア(下り線)-3

工事概要

工事名称 西湘バイパス
西湘パーキングエリア(下り線)災害復旧工事
工事場所 神奈川県中郡二宮町~小田原市国府津
発注者 中日本高速道路(株)東京支社
設計者 (株)鴻池組
施工者 (株)鴻池組
工期 2020年7月~2023年5月
工事内容 ・調査・設計業務 一式
・解体工事 一式
・対策工事
  盛土工:21,692㎥
  擁壁工:495m
  路盤工:8,983㎡
   アスファルト舗装:6,390㎡
   コンクリート舗装:738㎡
   防護柵工:683m
   立入・落下物防止柵:286m
   交通規制工:1式

510号(2023年7月1日)の記事

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