技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

BIM/ICTを活用した施工計画の見える化と情報共有

510号(2023年7月1日) 福岡店屋町オフィス 九州支店 工事事務所 村上 秀明 / 建築部 伊藤 進一

はじめに

当ビル(建物名称;大博スカイスクエア)の敷地は、JR博多駅から北西方向に延びる大博通りに面し、現在はオフィスビル街となっている店屋町に位置しています。敷地はビルに囲まれて比較的狭く(約830㎡)、敷地内の地下を地下鉄空港線が通っているなど、都市部によく見られる制約を受けながらの工事となっています。
建物は鉄骨造、地上10階建てのオフィスビル(写真-1)で、顔認証入室システムなど最新のセキュリティ設備が採用されています。また、屋上にはテナント専用のテラスがあり、太陽光発電パネルも設置されています。他にもEV充電器やシェアサイクルポートの設置など環境に配慮した設計となっています。
ここでは、前述の制約条件への対応や働き方改革に向けた生産性向上策として取り組んだ「BIM/ICT」の活用について紹介します。

写真-1 建物外観

写真-1 建物外観

鉄骨建て方計画

施工段階でのBIM活用は、鉄骨建て方工事における日ごとの工程を検証することからスタートしました。これまでの建て方計画では、日ごとの工程を作成し、さらに「建て方」「本締め」「デッキ敷設」「外部足場」「現場溶接」「スタッド」などの工程ごとに2次元CADを用いてステップ図を作成していました。これに対して今回は、BIMで日ごとの3Dモデルを作成し、揚重作業の検証や各工種の関係を確認しました(図-1)。BIMにより可視化を行うことで、2次元では確認できなかった問題を把握することができ、計画をより精緻に行うことができました。
 鉄骨工事開始前には全作業員に対して、この3Dモデルを用いて事前周知会を開催しました。この説明会には九州支店の支援部門もWeb会議で参加し、現場の大型モニター画面を共有しながら、現場所長が参加者に施工のステップや注意点を説明しました(写真-2)。作業員からは実際の作業を行う前に3Dモデルで分かり易く説明を受けたことで、作業を具体的にイメージできたという声が多く出されました。

図-1 鉄骨建て方の検証

図-1 鉄骨建て方の検証

写真-2 事前周知会の状況

写真-2 事前周知会の状況

資材の積算

BIMで作成した鉄骨建て方のステップ図には、外部足場や仮囲いなどの仮設材も含まれているので、それらの資材量をBIMで積算しました(図-2)。全体の資材量だけでなく、施工ステップごとの資材量も計算できることから、この積算資料に基づいて資材の搬出入スケジュールを調整することで無駄な在庫を減らし、関連する原価管理も実施できました。

図-2 BIMによる仮設材の積算

図-2 BIMによる仮設材の積算

統合モデルの作成と干渉チェック

鉄骨建て方計画で用いた鉄骨BIMモデルと設備工事の協力会社が作成した設備BIMモデルとを統合し、鉄骨と設備配管の干渉チェックを行いました(図-3)。干渉が発生する場所を特定することで、工事監理者や関係する協力会社と事前に協議することができ、納まり上の不具合発生を未然に防ぐなど品質管理上の効果を上げることができました。

図-3 統合モデルによる干渉チェック

図-3 統合モデルによる干渉チェック

BIMモデルを活用したMRによる施工の見える化

前述の躯体工事だけでなく、内装や仕上げ、設備機器の工事に関してもBIMモデルを作成しました。このBIMモデルを現場でどのように活用していくかを検討するため、当現場の職員だけでなく他現場の若手職員も参加してBIMの体験講習を行いました(写真-3)。講習では様々なBIMモデルによる手順や納まりの確認に加え、工事現場内でホロレンズやタブレット端末を使って次工程の完成モデルをMR(Mixed Reality)で体験しました(写真-4、5)。
完成形を実現場で体験できることは、施工担当者にとって非常に有効であり、2次元の施工図では見落としがちな軽鉄やボードによる間仕切り壁の下地補強位置などが確認できることは、現場での作業精度や効率の向上に役立ちます。そこで、2次元の施工図に基づいて内装下地のBIMモデルを作成し、職員や作業員が手軽に3Dの完成モデルを確認できる環境を構築しました。各自のスマートフォンやタブレット端末で手軽に利用できることから、品質管理をはじめとする施工管理上の効果が得られました。講習の際にこのMRシステムを施工記録写真にも応用したいとの意見が出されたことから、今後の課題として検討する予定です。

写真-3 体験講習の状況

写真-3 体験講習の状況

写真-4 ホロレンズによるMR体験

写真-4 ホロレンズによるMR体験

写真-5 MRによる完成モデルの確認

写真-5 MRによる完成モデルの確認

おわりに

BIMモデルの最大の利点は、実際に存在しないものや見えないものが3Dモデル上で「見える」ことだと実感しました。今回は地業工事へのBIM適用が間に合わなかった関係上、従来の方法により近接する地下鉄への対応を計画しました。事後になりましたが、BIMモデルを作成し関係者で状況を再確認したところ、地中の状況がリアルに「見える」ことから、“もっと早く欲しかった”との感想がありました(図-4、5)。
今回の取り組みを通して、施工の「見える化」によって工事関係者が「情報共有」することが、現場での問題解決や作業の効率化に大いに貢献すると確信しました。

図-4 BIMモデルによる地下鉄部分全体図

図-4 BIMモデルによる地下鉄部分全体図

図-5 BIMモデルによる杭と地下鉄の位置関係の確認

図-5 BIMモデルによる杭と地下鉄の位置関係の確認

工事概要

工事名称 (仮称)福岡店屋町オフィス開発事業建設工事
工事場所 福岡市博多区店屋町27番1外
発注 合同会社 Ilex2
設計・監理 (株)IAO竹田設計
施工 (株)鴻池組
工期 2021年10月~2023年2月
用途 事務所
構造・規模 鉄骨造 地上10階
建築面積 525.38㎡
延床面積 4,987.22㎡

510号(2023年7月1日)の記事

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