名越切通は、鎌倉時代に中世都市鎌倉を取り囲む丘陵の尾根部を掘削して造られた鎌倉七口の一つで、鎌倉と逗子、三浦半島を結ぶ主要交通路です。周囲には、大切岸とよばれる石切り場跡や葬送遺構のまんだら堂やぐら群(写真-1)が分布し、周辺一帯が史跡指定を受けている複合遺跡です。
崖に掘られた横穴状のやぐらは、内部に石塔を据えて納骨・供養を行う施設で、鎌倉とその周辺地域に見られる特徴的な遺構です。中でもこのまんだら堂やぐら群は、2m四方程度の小規模なものを中心に150基以上の存在が確認されており、国内でも類を見ない貴重な石造文化財です。
写真-1 まんだら堂やぐら群(B群)
やぐらが掘られた崖面は、新第三紀三浦層群の池子層と呼ばれる軽石を含む火山砕屑岩の地質で、比較的軟らかい岩質で形成されています。そのため、やぐら壁面は長年の風雨に曝されて脆弱化し、樹木の根で亀裂は拡大し、崩落の危険性が高い状態にありました。そこで、やぐらの保存対策として、2022年度工事(写真-2)では、①やぐらに発達する亀裂に注入材を充填して岩盤を一体化させる「亀裂充填工(写真-3)」、②岩盤表面に薬剤を含浸させて強化することにより風化作用を軽減する「基質強化処理工(写真-4)」を行いました。また、その他の工種として③土木的手法の対策措置として落盤や落石が懸念される箇所をアンカーピンで地山に縫い付けて固定する「ピンニング工」、④亀裂充填箇所やピンニング工頭部を景観に馴染むように修景する「擬岩処理工」などがあり、劣化状況に応じて必要な保存対策を行います。
写真-2 2022年度工事範囲
写真-3 亀裂充填工
写真-4 基質強化処理工
当社が最初に名越切通の保存工事を行ったのが2004年度の第一切通路崩落対策工事でした。その後、大切岸の保存工事(2012、2013年度)、そしてまんだら堂やぐら群の保存工事(2014年度から8期)を行い、貴重な経験を積み上げることができました。今後も、ここで培った経験を生かして文化財保存に取り組んでまいります。
工事名称 | 史跡名越切通まんだら堂やぐら群保存工事 |
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工事場所 | 神奈川県逗子市小坪7丁目1248-1他 |
発注者 | 神奈川県逗子市 |
設計・監理 | (株)鴻池組 |
工期 | 2022年9月~2023年1月 |
工事内容 | 足場仮設工、清掃工、伐採・除草工、 亀裂充填工、基質強化処理工 |