技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

放射性セシウム含有灰を安全・着実に固型化処理

509号(2023年4月1日) 特定廃棄物セメント固型化処理業務 東北支店 工事事務所 間島 昂彌 / 安達 忍

はじめに

東京電力福島第一原子力発電所の事故で大量に発生し、福島県内各地に保管されている放射性物質に汚染された特定廃棄物の迅速な処理は、福島の復興・再生の最優先課題の一つです。
当業務は、福島県内で発生する10万Bq/kg以下の特定廃棄物(対策地域内廃棄物等、福島県内の指定廃棄物)および福島県双葉郡8町村の住民帰還後の生活ごみのうち、放射性セシウムの溶出量が多いと想定される「焼却または溶融飛灰、焼却飛灰と主灰の混合灰など」(以下、総称して処理対象物)を、放射性物質汚染対処特措法に基づき、特定廃棄物埋立処分施設に安全に埋立処分できるようセメント固型化処理を行うものです。

セメント固型化処理の流れ

当施設では、受入、固型化処理、養生・脱枠、搬出という流れで処理を行っています(写真-1、図-1)。

写真-1 固型化処理施設全景(空中写真と模型の合成イメージ)

写真-1 固型化処理施設全景(空中写真と模型の合成イメージ)

図-1 セメント固型化処理フロー

図-1 セメント固型化処理フロー

①受入
運び込まれた処理対象物について、収納されてきた密閉容器の破れの確認や表面線量率(μSv/h)の測定により放射能濃度(Bq/kg)を推計・確認し、破れがなく、放射能濃度等の基準を下回るもののみを当施設で受け入れます。受け入れた処理対象物は、固型化処理開始までの間、放射線を遮へいする壁等の安全設備を備えた受入保管室に一時保管します(写真-2)。

写真-2 処理対象物受入状況

写真-2 処理対象物受入状況

②固型化処理
封入されている容器を破袋し、中身(処理対象物)を取り出します。取り出した処理対象物のうち、固まって大きな塊となっている場合は、粗く破砕します。また、異物(焼却時に残った金属等)があった場合は、これを取り除きます。セメントと均質に練り混ぜることができるように、さらに細かく破砕するとともに、粒度の調整をします(写真-3)。異物がなく、粒度調整された処理対象物を、セメント・水と練り混ぜ、あらかじめ型枠内に設置した収納容器に流し込みます(写真-4)。養生ラックへの移動や取り出しは、自動搬送フォークリフトにて行います。

写真-3 粒度調整・異物除去設備

写真-3 粒度調整・異物除去設備

写真-4 混練物充填設備

写真-4 混練物充填設備

③養生・脱枠
混練物は静置することで徐々に硬くなり、セメント固型化物となります。混練物は、セメント固型化物として定める強度が発現するまでの間、養生ラックに静置(養生)保管します(写真-5)。所定の強度が発現したセメント固型化物は、型枠から外し(脱枠)、一時保管施設へ運びます。

写真-5 セメント固型化物の養生ラック

写真-5 セメント固型化物の養生ラック

④搬出
処分場への搬出が開始されるまでの間、放射線を遮へいする壁等の安全設備を備えた保管棟に、セメント固型化物を一時的に保管します。搬出前に、積み荷としての運搬中の安全や埋立時等の各種基準の適合を確認します。安全や基準の適合が確認されたものに限り、当施設から処分場へ搬出します。

固型化処理施設の安全対策

①管理区域の設定
汚染管理区域および非汚染管理区域の設定は、労働基準監督署等の担当行政機関の指導や電離放射線障害防止規則およびダイオキシン類ばく露防止対策要綱に基づき行っています。管理区域への出入り(車両や作業員、物品等)は、担当行政機関の指導や法令等に従い、厳格に管理します。高被ばくゾーンで使用する重機は遠隔操作もしくは自動運転により稼働させ無人化処理を行っています。また、施設内に設置した16箇所のエリアモニタで、空間線量率を常時モニタリングして管理しています。

②作業環境の安全対策
管理区域の入退室管理フローを定め、作業員の入退室、区域に応じた保護具の着用状況および退域時の汚染検査・被ばく線量管理を確実に行います。また、作業員の累積被ばく線量についても厳格に管理し、被ばく線量が管理基準を上回らないような作業員配置計画を策定しています。

③粉じんの建物外部への漏出・飛散防止
建屋は密閉構造で、内部は負圧化されています。粉じんの発生が想定される設備には局所集じんにより粉じんの飛散を抑制し、さらにダブルフィルター方式の大型集じん機で、粉塵の飛散防止や負圧の維持などを行います。また、搬入・搬出口は二重扉となっており、同時に開かないように設定しています。

破砕・改質処理施設の新設

処理対象の灰は、長期の保管によりコンクリートのように強く硬化した大きな塊の状態で、そのままでは破砕機に投入することができず、事前に粗く破砕する必要がありました(写真-6)。コンクリート圧砕機を使用した破砕試験を実施した結果、所定の大きさに圧砕するためには時間を要し、1日の処理量に大きく影響することがわかりました。
灰は高含水になるほど強い粘着性を帯びています。そのため、ダブルロール式の破砕機の破砕歯に灰が付着して破砕不能となり、設備停止するトラブルが頻発しました(写真-7)。また、異物選別用の振動フルイ上では、塊となった灰がフルイ目を通過せずに異物として排出され、次工程への搬送ができずに手戻り作業が多発しました。粒度調整が完了した灰を一時保管する灰貯留槽内では、送出し用スクリューコンベアに付着・固結して負荷がかかり、スクリューが破断する事象も発生しました。これらのトラブルが相次いで発生し、固型化処理量は大きく落ち込みました。
そこで、硬化した灰や高含水灰の効率的な固型化処理を可能にするため、「破砕・改質処理施設」を新設しました。
施設の建屋は、固型化処理施設と同様に大型集じん機により負圧状態とし、破砕・改質処理前後の灰を搬出入するための二重シャッターを設置しました。破砕処理では硬化灰を破砕するため、振動フルイ機および破砕機を主軸とし40mm以下に破砕し、手選別と磁選機で異物除去を行います。改質処理では高含水灰の含水率を下げて破砕・フルイ分けが可能な状態にするため、土質改良機にて生石灰を添加・混合して改質します。生石灰と混合した灰は養生ヤードに一時集積・養生して改質効果を確保します。改質後の灰に異物等が混入している場合は、破砕処理工程に送り、振動フルイ機および手選別により除去します(写真-8)。
破砕・改質処理後の灰は固型化処理施設に移送するため再度フレコンに詰め替えて搬出します。
破砕・改質処理施設の稼働により、硬化した灰や高含水灰が適切に粒度調整することが可能となりました。固型化処理施設の1日当たり処理量は、稼働前は約134tであったのに対し、稼働後は処理量が1日2割程度増加して約160tとなり、処理効率が大きく向上しました。

写真-6 強く硬化した灰

写真-6 強く硬化した灰

写真-7 破砕歯に付着した高含水状態の灰

写真-7 破砕歯に付着した高含水状態の灰

写真-8 破砕・改質処理施設

写真-8 破砕・改質処理施設

おわりに

セメント固型化処理予定量は当初の83,000tより増加して、約120,000tとなり、2023年2月時点で約103,000tの処理が完了しています。同年10月には固型化処理が終了する見込みです。
今後も安全で着実な処理を実施するため、日々のメンテナンスや設備の点検を確実に行い、福島県内の放射性物質を含む廃棄物の処理を通じて復興に貢献していきます。

業務概要

業務名称 特定廃棄物セメント固型化処理業務
業務場所 福島県双葉郡楢葉町大字波倉字細谷30
発注者 環境省 福島地方環境事務所
施工者 鴻池・前田・西武・株木特定建設工事共同企業体
工期 2017年6月~2024年11月
業務内容 施設の調査・設計・建築業務 1式
施設の運営、運営期間中の設備維持管理業務 1式
解体・撤去業務 1式

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