技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

改修と増築による研究施設の一元化/耐震改修と免震工事について

509号(2023年4月1日) 大阪健康安全基盤研究所等一元化施設整備 大阪本店 工事事務所 當房 武道 / 氏江 麻弥

はじめに

再開発により注目が集まっている大阪市の森之宮地区に、健康で安全な暮らしを守る拠点として大阪健康安全基盤研究所の「森ノ宮センター」と「天王寺センター」を一元化した施設が誕生しました(写真-1)。 付近には緑豊かな大阪城公園があり、JR森ノ宮駅から徒歩3分の場所に立地しています。この施設整備は、既存建物(旧健康科学センタービル)を改修し、不足するスペースを補うため敷地南側に建物を増築するという工事です(図-1)。施設整備の基本方針の一つとして「安全性・信頼性の向上」が掲げられていることから、既存棟には制振ダンパーによる耐震改修が施され、増築棟には免震構造が採用されました。ここでは、これらの安全性向上に関わる工事を中心に紹介します。

写真-1 竣工建物

写真-1 竣工建物

図-1 配置図

図-1 配置図

粘性制振壁による既存棟の耐震改修

既存棟は2001年に竣工した地上13階建ての高層建物(鴻池組JV施工)で、耐震性を高めるため制振装置の一種である「粘性制振壁」を用いた耐震改修をすることになりました。3~11階の合計41箇所にこの制振壁(最大減衰力556~1042kN)を取り付けました。
施工に当たって課題となったのは、取り付け階までの揚重方法、さらに逆梁(梁が床の上側に配置)のフロア上における部材の水平移動方法です。揚重に関しては中央吹抜部分を活用すると共に、既存スラブに仮設開口を設け電動ウインチによって材上げを行いました(写真-2、3)。また、逆梁の部分に関しては段差の明記や仮設による段差の解消など詳細な計画を行うことで、最大2t近くの部材を揚重・移動しました(写真-4)。なお、施工開始前に搬入動線、監視人の配置および立入禁止区域の確認などを綿密に行うことで、安全に取り付けることができました(写真-5)。

写真-2 制振壁の搬入

写真-2 制振壁の搬入

写真-3 制振壁の仮設開口からの揚重

写真-3 制振壁の仮設開口からの揚重

写真-4 天井クレーンを用いた制振壁の水平移動

写真-4 天井クレーンを用いた制振壁の水平移動

写真-5 取り付けが完了した制振壁

写真-5 取り付けが完了した制振壁

増築棟の免震装置設置工事

既存棟の南側に新設した増築棟は、地上8階建てのRC造・免震構造となっています。既存棟とは3階に設置の渡り廊下によって行き来ができるようになっています。
免震装置は4種類あり、その中で弾性すべり支承は基礎サイズが最大2.6m×2.6mと非常に大きいことから、密実なコンクリート充填に対して課題がありました。下部プレート下面とコンクリート天端の間にできるだけ空気が入り込まないようにする必要があり、目標値を充填率90%以上としました。充填作業は二段階に分かれ、一次打設ではシュートとカラーコーンを使用(写真-6)、二次打設では生コンホッパーとゴムパッキンを使用しました(写真-7)。ゴムパッキンを使用することにより、プレートとホッパー間の隙間が埋まり、コンクリートを隙間なく自重で押し出しながら充填することが可能となりました(写真-8)。このゴムパッキン作戦が功を奏し、試験施工の段階で目標値を大きく上回る99.6%の充填率を達成できました。

写真-6 シュートによる一次打設

写真-6 シュートによる一次打設

写真-7 ホッパーによる二次打設

写真-7 ホッパーによる二次打設

写真-8 特注ゴムパッキンを使用したコンクリート打設

写真-8 特注ゴムパッキンを使用したコンクリート打設

工期短縮に向けた隣接現場との連携

当初は比較的広い敷地での施工を想定していましたが、実際に施工を進めていくと搬入動線やクレーン用ヤード等の確保が難しいことがわかりました。そこで隣接の解体工事現場(当社施工)の敷地を共同で使用できるように協議した結果、120tクローラークレーン、200tクローラークレーンの2台を同時に使用することができ、工程を左右する揚重作業をスムーズに進めることが可能となりました(写真-9)。また、増築棟の大梁はプレストレストコンクリート(PC)造で、柱・大梁・床は工場製作のPCa部材であることから、工期短縮を図ることができました(写真-10)。当初は1フロア21日サイクルでの施工を予定していましたが、18日サイクルに短縮することができました。

写真-9 クレーン2台による増築棟の施工

写真-9 クレーン2台による増築棟の施工

写真-10 PCaPC梁の取付状況

写真-10 PCaPC梁の取付状況

おわりに

今回の工事は研究施設の一元化ということで、既存施設の改修と新施設の増築という2つの工事要素を持った施設整備でした。改修と新設を同時に効率よく進めるために、動線や敷地の活用など様々な工夫を行い、発注者をはじめ多くの工事関係者のご協力により無事竣工を迎えることができました。今後は西日本最大級の研究施設として、人々の安全な暮らしを守る研究拠点として活用されていくことを願っています。

工事概要

工事名称 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所等一元化施設整備工事
工事場所 大阪府大阪市東成区中道1丁目3-3
発注 (地独)大阪健康安全基盤研究所
設計・監理 (株)安井建築設計事務所
施工 鴻池組・大鉄工業共同企業体
工期 2020年4月~2023年2月
用途 研究所、事務所
工事内容 (既存棟)SRC造 地下1階 地上13階
(増築棟)RC造(一部PC造) 地上8階
建築面積(既存棟)1,421.06㎡、(増築棟)1,310.33㎡
延床面積(既存棟)12,023.10㎡、(増築棟)8,837.50㎡

509号(2023年4月1日)の記事

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