技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

東南アジアにおける環境負荷低減建物;SDGsへの取り組み

507号(2022年10月1日) フジキンダナンR&Dセンター 国際事業部 工事事務所 加藤 寛

はじめに

“環境”が声高に叫ばれ、17色に輝くSDGsのバッジを着けた人をあちらこちらで見かけます。その一方で「どこか他人事になっていないだろうか?」との疑問も浮かんできます。環境負荷低減への取り組みは一つひとつの積み重ねが重要であり、近道は許されません。自分たちが主役となり、ありきたりのことでもいいから取り入れて効果を積み上げていく。そういった観点からこのプロジェクトに取り組み、完成した建物を訪れるすべての人が環境について考えるきっかけになって欲しいという思いでした。ここではこのR&Dセンターに取り入れた環境への主な取り組みについて紹介します。

写真-1 完成したR&Dセンター

写真-1 完成したR&Dセンター

東南アジアの太陽の恵み

建設地であるベトナムダナンでは、海に入るのは朝と夕方のみです。なぜなら太陽光が強すぎるからです。この太陽を守護神に変え、恵みとして利用することを取り組みの第一歩としました。以下5つのタイプの太陽光発電を検討し、建物だけでなく駐車場や構内道路の外灯などに設置することで、多くの恵みを受け取れるようにしました。
①屋上設置の固定タイプ(図-1)
②屋上設置の追尾タイプ(図-1)
③外灯設置タイプ(写真-2)
④駐車場用の両面タイプ(図-2)
⑤ひまわり型追尾タイプ(写真-3)

図-1 屋上設置タイプ

図-1 屋上設置タイプ

写真-2 外灯設置タイプ

写真-2 外灯設置タイプ

図-2 駐車場用両面タイプ

図-2 駐車場用両面タイプ

写真-3 ひまわり型追尾タイプ

写真-3 ひまわり型追尾タイプ
注) 2期工事で設置予定のため、写真は
     (株)フジキンつくば先端事業所設置の装置

環境にやさしい空間除菌・水除菌装置

新型コロナウイルス感染症が蔓延したこともあり、空間除菌の導入を検討しました。通常のフィルタータイプは交換手間やランニングコストが掛かることから、深紫外線装置を利用した空間除菌装置を導入することとしました。この除菌装置として紫外線の中で最も波長が短く、強いエネルギーを持つ「UV-C」(LED光源)を採用し、天井内のダクトに組み込みました(写真-4)。
また、空間除菌と同じく「UV-C」を利用した水除菌装置を機械室の給水管に設置し、建物全体に除菌された水が行き渡るようにしました(写真-5)。何れの装置もこの施設を訪れる人にアピールすべく、窓を設けるなどして実装置が見えるようにしています。

写真-4 天井内ダクトに組み込んだ空間除菌装置

写真-4 天井内ダクトに組み込んだ空間除菌装置

写真-5 機械室の水除菌装置

写真-5 機械室の水除菌装置

建築デザインによる環境負荷の低減

建物で使う電力等エネルギーを減らすために、建築デザイン上の工夫を行っています。

○外皮の断熱
外壁には白色の鋼板断熱サンドイッチパネルを採用することで、熱透過損失を抑制し遮熱効果を上げています。また、植栽したジャスミンが成長し1階のメッシュ部分を覆うことで日射遮蔽効果が期待できます(写真-6)。一方、屋上にはベトナムでは採用されることが少ない「断熱アスファルト防水+押さえコン(外断熱)」を採用して断熱効果を上げるとともに、設置した太陽光発電パネルによる日射遮蔽効果も加わります。

○窓の遮熱
南面ファサードのカーテンウォールには、遮熱効果のあるLow-Eガラスを採用しました(写真-7)。今回採用のLow-Eガラスは、一般の単層ガラスに比べて1/3程度まで日射を抑制する効果があります。ただし、現地の協力会社は施工に不慣れであることから、遮熱塗料が施された面を外側に配置することなど、施工時に細かく指導する必要がありました。一方、環境にやさしい特殊ガラス設置の経験は、現地での環境にやさしい建物づくりに役立つものと感じています。

写真-6 外壁

写真-6 外壁

写真-7 Low-Eガラスのカーテンウォール

写真-7 Low-Eガラスのカーテンウォール

○ルーバーによる遮蔽
太陽高度の低い東西面にはデザイン性の高いルーバーを配置することで、景観デザインと日射遮蔽機能を兼ね備えたものとしました(写真-8)。アルミ製のルーバーには、ベトナムダナンの高い気温を考慮した熱伸縮対応スリットを配置するなど、細かい配慮を行っています。なおルーバーには、空調室外機や配管類を適度に遮蔽する効果や研究室内を外から覗かれない視線遮断効果もあります。

写真-8 デザインと日射遮蔽を兼ねたルーバー

写真-8 デザインと日射遮蔽を兼ねたルーバー

○住環境を向上させる中庭
中庭には気分転換に木陰でくつろぐことをイメージして、地元で馴染みの大樹(ロイヤルポインシアナ)を列植しました(写真-9)。数年後には樹木も成長し日射遮蔽効果も期待できます。また、大樹の足元には当建物の建設時に排出された岩盤のかけらをオブジェとして配置しました(写真-10)。掘削施工時には苦労させられた硬い岩盤も、この場に「リユース」されることで過去の記憶と研究者の癒しや発想のヒントになるのではと思っています。

写真-9 中庭

写真-9 中庭

写真-10 大樹足元の岩盤のかけら

写真-10 大樹足元の岩盤のかけら

おわりに

環境負荷の低減という視点からベトナムでの研究施設の建設について紹介しました。工事を終えて強く感じたのは、採用した技術の多くが初体験である現地の協力会社とじっくり対話を重ねながら建物を造り上げるという過程が、SDGsへの取り組みそのものだったのだということです。完成した建物は、環境意識が高いグローバル企業である発注者の新たな拠点となり、多くの人を巻き込みながら環境にやさしいモノづくりに活用されていくものと期待しています。

工事概要

工事名称 フジキンダナンR&Dセンター新築工事(1期)
工事場所 ベトナム社会主義共和国 ダナン市
発注 DANANG FUJIKIN CO., LTD.
設 計・監 理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 2021年6月~2022年8月
用途 研究施設
構 造・規 模 RC造 地上2階
建築面積2,135m2 延床面積3,530m2

507号(2022年10月1日)の記事

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