技術広報誌ET

技術広報誌ET 2022年発刊号

低土被り下での多くの曲線を含む長距離推進

507号(2022年10月1日) 山田排水路改修工事 大阪本店 工事事務所 宮崎 勇人 / 技術本部 土木技術部 福嶋 渉

はじめに

和歌山県北部の紀の川右岸地区西側にある藤崎井用水は、約24kmの大規模な用水路で、約500haの農地を潤しています。しかし、近年のゲリラ豪雨の多発や都市化による農地の減少により、しばしば浸水被害が発生しています。当工事では、この浸水被害を軽減させるため、藤崎井水路から山田川への排水専用の直径1.1mのバイパス水路(山田排水路)を推進工法により施工しました(図-1、2)。
当工事の路線は、田畑、民家が近接する路線延長600mのなかに曲線半径R=50mの急曲線を含む曲線部が9箇所ありました。最小土被りも2m程度(図-3)と小さく、土質も洪積粘性土層から洪積砂質・砂礫土層が混在する互層地盤という難条件でした。施工において、「互層地盤での確実な掘進」、「長距離推進において総推力増加に伴う掘進停止を未然に防止して確実に到達すること」、「低土被り区間での地表面変状を発生させないこと」、「R=50m以下の急曲線を含む多曲線における推進の線形精度を確保すること」が課題でした。

図-1 路線概要図

図-1 路線概要図

図-2 土質縦断図

図-2 土質縦断図

図-3 低土被り部断面図

図-3 低土被り部断面図

泥濃式推進工法の採用

工事箇所の地盤条件は、洪積粘性土層および砂質土層の互層に加え、路線中間部より卓越する洪積砂礫土層は想定最大礫径180mm(調査ボーリングの礫径60mmの3倍を想定)、礫率79.5%、透水係数1.0×10-2m/sでした。これらの土質条件と低土被り、長距離推進および急曲線への対応が可能な工法として、推進管外周を25~45mm程度のオーバーカットで掘進できる泥濃式推進工法を採用しました。

土質に対応した推進機の改造

推進機は、当初以下の理由により、礫破砕型推進機(写真-1)を採用していました。

互層地盤に対し、採用した礫破砕型推進機は攪拌能力もあり、掘削土砂の取り込みも可能と判断して、初期掘進を行いました。しかし、発進坑口から8m進んだ地点で全面が硬質粘性土層となり、カッタトルクが急上昇し、発進坑口から9.2m地点で推進機チャンバー内の閉塞による排土不能となり、掘進を一時停止しました。停止位置が発進立坑ヤード内であったため、一旦推進機を引き抜き、取り込み型推進機へ改良しました。
推進機は、固結した粘性土層や洪積砂礫層の互層地盤へ対応するために、以下の改造を行いました(写真-2、図-4)。
○粘性土の取り込み対策
 ①開口を大きくとれるスポークタイプの面板に変更
 ②チャンバー内に攪拌翼を2段で配置
○チャンバー内の粘性土付着防止対策
 ③カッタ外周背面にスクレーパを設置
○礫層、支障物への対応
 ④排土口を拡大(Φ400mm程度の礫を取り込み可能な450mm×400mmの楕円形)
 ⑤切削能力の高い強化型切削ビットの配置

写真-1 礫破砕型推進機

写真-1 礫破砕型推進機

写真-2 取り込み型推進機(前面)

写真-2 取り込み型推進機(前面)

図4 取り込み型推進機(改良型)

図4 取り込み型推進機(改良型)

長距離推進における総推力管理

急曲線を含む長距離を1スパンで推進する必要があったため、推力低減対策として、推進管外周部の滑材層を強制的に拡幅、再構築して2次滑材を充填できるテールボイド拡幅再構築装置(TRS:Tail Void Restructuring System)を採用しました(図-5)。TRSは約150m毎に設置し、さらに、推進ジャッキが装備できる中押し推進管を坑内に2箇所配置しました。推進時、発進坑口より500m付近までは計画推力の約半分で掘進していましたが、570m付近では瞬間的に管耐荷力4,374kNに近い推力となりました(図-6)。これは、長距離かつ多曲線部の通過に加え、粒径200mm程度の礫(写真-3)を10~20%程度含む礫質土層に当たったことで、管周面摩擦力が急激に増大したためと考えられます。このため、装備していた中押し管の推進ジャッキを元押しジャッキと併用することで、元押し推力の低減を図り、最終には3,800kN(計画推力4,312kNの88%)で到達できました。

図5 TRS概要図((株)アルファシビルエンジニアリングHPより)

図5 TRS概要図((株)アルファシビルエンジニアリングHPより)

図-6 推力管理図

図-6 推力管理図

写真-3 出現した礫

写真-3 出現した礫

徹底した掘進管理による沈下抑制

泥濃式推進工法における排土量の管理は、地上の貯留槽の増減を測定する方法が一般的ですが、推進中には随時、排泥貯留槽内の排泥処分を実施するため、推進管ごとの排泥量管理は難しく1日単位の排泥量管理となります。そこで、排泥貯留槽のライン手前に計測用の1m3のタンクを2基配置し、この2基を交互に使用してタンク毎に計測管理を行いました(写真-4)。さらに、切羽圧力は上記の排泥量計測に基づいて0.01~0.03MPaで管理するとともに、送泥圧力および滑材注入圧力も上限を0.02MPaで管理しました。
埋設物近接箇所や低土被り区間の地表面変位は自動追尾トータルステーションを使用し、毎時計測を行いました。これらの掘進管理、計測管理により、排土量は全線にわたり管理基準値(計画排土量の110%)以下であり、地表面の変位は管理値(-20mm)に対して、最大-12mmに収まりました。

写真-4 排泥量計測用タンク(1㎥、2基)

写真-4 排泥量計測用タンク(1m3、2基)

狭小、多曲線条件下での線形精度の確保

推進の路線測量は開放トラバース測量となるため、立坑下に設置する基本線の精度確保は重要です。基本線は、定期的にジャイロトランシット測量で確認することで精度維持を図りました。また、日常の坑内線形管理では、狭小かつ多曲線の坑内測量が長距離にわたるため、通常のトランシットによる手動測量は測量機の盛り替えが多くなることによる誤差発生や、測量に多くの時間を要するため、線形精度、進捗がともに低下することが懸念されました。対策として、通常の自動トータルステーションより小型で自動水準が可能な測量機「パイプショット」(写真-5)を使用しました。最大20台を常設して、蛇行量および水準測量を推進管1本掘進ごとに実施しました。1回あたりの測量時間は約20分と短く、到達精度は基準高+24mm、左27mmと高い精度を確保できました。

写真-5 管内自動測量

写真-5 管内自動測量

おわりに

掘進初期に土質への対応のため推進機の改造が必要になったものの、2021年9月の推進再開から掘進延長589.5mの小口径トンネルを平均日進量6.1m(当初計画では3.8m)の進捗を確保し、同年12月下旬に到達しました(写真-6)。
今回のような長距離・低土被り、かつ砂礫や粘性土などが混在する複合地盤での推進工事の経験を今後の類似工事に活かし、浸水被害の軽減に貢献していきたいと思います。

写真-6 到達状況

写真-6 到達状況

工事概要

工事名称 和歌山平野農地防災事業
藤崎井(山田排水路)改修工事
工事場所 和歌山県岩出市中迫地内
発注者 農林水産省 近畿農政局
施工者 (株)鴻池組
工期 2020年10月~2022年9月
工事内容 泥濃式推進工 L=589.5m
立坑・人孔工  2箇所(発進・到達)
仮設工     1式

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