現在、国土交通省では、3Dマシンコントロールなどを使った情報化施工、3次元モデルを使って設計・施工を行うCIM、UAVやロボットを活用した施工・点検・補修など、様々なICTを活用した「i-Construction」を推進しています。中でも、社会資本の整備、維持管理を効率化していくために有効なCIMは、土工・トンネル・橋梁・ダム等の土木工事への導入が進められており、今年度中に「CIM導入ガイドライン」が策定されることになっています。
今回は、CIM試行工事である五井トンネル工事において、CIMを切羽前方予測や補助工法の検討等に活用した事例について紹介します。
当工事では、地質・岩盤などの地下情報を一元的に管理できるCIMソフト「Geo-Graphia」(地層科学研究所)を使用しました。Geo-Graphiaは、一般的に使用されるCIMソフトと比べると、データ容量やメモリー消費量が少ないため、日常業務で使用するパソコンで運用が可能です。一つのソフトで地形・地質やトンネル支保の3次元モデルの作成、属性データの紐付け、切羽前方探査結果の3次元表示などが行える山岳トンネルに最適なCIMソフトです。
本トンネルは、延長299m、最大土被りが24mで、トンネル全線に亘って2D以下(D:掘削幅)となっているため、全線で支保パターンDⅢ(坑口部などの土被り2D以下で適用されるゆるみやすい地山に対応した支保パターン)が採用されています。地質は地表付近に崖錐堆積物(崖などから落下した岩石が堆積したもの)や扇状地堆積物、トンネル断面内には領家花崗岩類の土砂化した非常に軟弱な強風化~風化片麻岩が分布していました。また、起点側坑口部から150m付近に中部電力の鉄塔がトンネルと35mの離隔で近接し、200m付近に土被りが3m以下となる最低土被り区間が約40mにわたって連続していました(図-1)。また、本トンネルの覆工コンクリートは、将来的に施工されるⅡ期線トンネルの掘削影響を考慮し、覆工厚350mm、複鉄筋構造(D19@200)が採用されています。
図-1 地形・地質概要図(CIMモデル)
本トンネルは、上半先進ベンチカット工法(トンネル断面を上・下半に分け、上部の半断面を先行して掘削することで、地山の安定を図る工法)による機械掘削を平成27年10月から開始しました。
起点側坑口部の23m間において、土砂化した扇状地堆積物の天端安定対策として長尺鋼管先受け工法を実施しました。その後、トンネル断面内に茶褐色の軟弱な強風化片麻岩や亀裂の発達した風化片麻岩が出現して切羽が不安定化したため、肌落ちや小崩落を繰り返しながら掘削を進めていました(写真-1)。しかし、起点側坑口部から約120m付近まで掘削した段階で切羽の不安定化が顕著になったため、トンネル掘削を中断し、削孔検層による切羽前方探査を実施しながら補助工法等の施工方法を検討しました。
写真-1 小崩落状況(120m付近)
一般にトンネル施工中に実施されている切羽前方探査には、発破等で岩盤を伝わる弾性波速度を解析して地層境界や断層位置を推定する弾性波探査、ドリルジャンボに搭載した油圧式削岩機から得られる削孔時の油圧データから切羽前方の地山性状を推定する削孔検層(探りノミ)などがあります。
今回採用した削孔検層は、長尺(L=20m)の探りノミ時に削岩機の機械データ(穿孔速度、打撃数、フィード圧、トルク圧等)から単位体積あたりの岩盤を削孔するのに要する穿孔エネルギーを算出し、この結果により地山の硬軟を評価するものです。
切羽の不安定化が顕著になった起点側坑口部から120m付近の不良地山の地山状況を定量的に評価するために、5カ所の削孔検層を実施した結果、穿孔エネルギーがE=50J/cm3程度と低い強風化片麻岩が分布していることが確認されました(図-2)。
その後のトンネル掘削では、これらの穿孔エネルギーを参考に、トンネル全線の天端2カ所と中央部1カ所で削孔検層を実施し実施しました。その結果、トンネル全体にわたって120m付近の不良地山と同様、穿孔エネルギーがE=50J/cm3程度の土砂化した崖錐堆積物~強風化片麻岩が分布していることが確認されたため、補助工法が必要と判断しました(図-3)。
図-2 削孔検層結果(120m付近)
図-3 削孔検層結果(120m以降)
天端安定対策として長尺鋼管先受け工(φ114.3mm、L=12.5m@450mm、n=25本)、鏡面安定対策として鏡吹付けコンクリート(t=50mm、毎切羽)および長尺鏡ボルト工(φ76.3mm、L=12.5m@1500mm、n=11本)を実施しました(写真-2、図-4)。
写真-2 長尺鋼管先受け工法施工状況
図-4 補助工法概要図(CIMモデル)
しかし、起点側坑口部から200m付近の最低土被り区間では、穿孔エネルギーが20~30J/cm3と特に低い値を示す崖錐堆積物が分布していることが確認され、これらの補助工法では天端沈下および地表面沈下を抑制できずに管理値を超過しました。そのため、追加の補助工法として吹付けインバートによる断面閉合(t=200mm)を実施し、変位を収束させました(写真-3、図-5)。
写真-3 吹付けインバート断面閉合
図-5 地表面沈下の経時変化(最低土被り区間)
以上の補助工法を実施した結果、平成28年7月にトンネル掘削を無事完了しました(写真-4)。
写真-4 トンネル貫通
今回、低土被り未固結地山でのトンネル工事において、削孔検層による切羽前方探査を実施し、CIMを活用して地形や地質、トンネル支保部材、切羽前方探査結果を3次元表示することで、現場の施工管理や発注者との協議に効率化が図れ、無事施工を完了することができました。一方でCIM運用にあたっては、技術者の育成や外注コストの増大などの課題も抱えており、一層の改善が必要です。
今回の経験を活かし、各工種に応じたCIM活用時の課題の抽出・解決を進め、施工管理の効率化に寄与するCIMの導入を図っていきたいと思います。
工事名称 | 平成26年度23号蒲郡BP五井トンネル工事 |
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工事場所 | 愛知県蒲郡市五井町 |
発注者 | 国土交通省 中部地方整備局 名四国道事務所 |
施工者 | (株)鴻池組 |
工期 | 平成27年2月~平成29年1月 |
工事概要 | 工事延長700m トンネル延長299m (NATM、機械掘削、上半先進ベンチカット工法) |
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