巨礫地盤における急曲線推進工法で内水圧管路を築造

粉河サイホンその1改修工事

大阪本店 工事事務所
林 茂郎

はじめに

今回ご紹介する「平成21年度紀伊平野県営右岸幹線水路その1小田井水路粉河サイホンその1改修工事」(以下「本工事」と称す)は、昭和27年~59年度に実施した国営十津川紀の川土地改良事業により整備した水利施設を改修再編整備する工事で、紀ノ川右岸の農業用水路の一区間にあたります。
本工事は開削による改修が困難なため、一部路線を既設県道下に移設して、2つの急曲線と2カ所の縦断曲線を組み合わせた複雑な線形の推進工事(内径φ1,500㎜)で設計されました(図-1、写真-1、2)。
これまでの内水圧管路にはダクタイル鋳鉄管が適用されていましたが、本工事では近畿農政局管内で初めて鉄筋コンクリート管が用いられました。

本工事では急曲線が可能な半管(L=1.2m)と継手許容抜け出し量70㎜のGJC継手を持ち、内水圧0.169MPaに対応できる下水道協会規格A-8の推進工法用ガラス繊維補強鉄筋コンクリート管(SSP管)で設計されましたが、水密性を発注者はかなり懸念されていました。
さらに用地条件より急曲線に近い上流側を発進立坑としたことから、管端部のひび割れが発生しやすい急曲線部に大きな推進力が作用するという、品質管理上の難度が高い工事となりました。

 

本工事の課題

本工事の課題は以下の3つです。

  1. 推進工法・推進機の選定(推進力・巨礫)
  2. 急曲線の精度確保と工程短縮
  3. 継手の水密性の確保(目開き量の抑制・ひび割れの防止)

対象土質はN値=27~50、想定最大礫径はφ240㎜の巨礫を含む砂礫層でした。しかし、当社は紀ノ川中流の段丘砂礫層という特徴から、礫径はさらに大きなものが出現すると考えました。

 

推進工法・推進機の選定

推進工法は巨礫、急曲線、推進力の3点の比較から表-1に示すように泥濃式推進工法で設計されていました。
実際の工法選定にあたっては、工事着手前から各種の泥濃式協会の急曲線における推進力を詳細検討し、超流バランスセミシールド工法を選択しました。この工法は、劣化(=縮小)したテールボイド(推進管と地山の隙間)層を管外周に配置した排土板により拡張して滑材を再注入し推進力を低減するTRS(テールボイド拡幅再構築)装置が特徴です。急曲線での推進力増加が最も低く、中押し管を使用せずにSSP推進管の許容強度(2種、70N)以内で施工が可能です(写真-4)。また、上下左右に作動する3段中折ジャッキを装備し、想定の2倍の巨礫まで破砕せず取り込み可能な推進機を適用しました(写真-3)。
また、曲線部では推進管端面の半分以下しか推進力伝達に使えないため、管の軸方向許容耐荷力の半分以下で施工する必要があり、BC1地点での推進力の増加抑制は最重要項目です。そこでTRS装置を設計の3カ所から4カ所に増設して礫層への滑材逸散による万一の周面摩擦力の増大に備えました。

急曲線の精度管理

本工事の急曲線部は、隣接する民家やガソリンスタンドの用地境界から30cm程度しか離隔が無く、高度な掘進精度が求められました。また、交角が大きく曲率半径が小さい坑内測量は測量器の盛替え数が多く、多大な時間が必要になるとともに測量誤差も懸念されたため、自動追尾式トータルステーション11台を用いた自動測量システムを適用しました。さらに、掘削中の推進機姿勢を把握できる機内ジャイロと水位センサーを設置し、測量時間の短縮と掘進制御の精度向上を図りました(写真-5)。

先頭部の管緊結と継手部の緩衝材の配置

水密性確保のためには継手部の目開きが許容の70㎜以下であること(R=50mでは43㎜必要)と、端部のひび割れを防止する必要があります。しかし、使用する半管はその形状(外径1,780㎜、管長1,200㎜)のため水平方向へ回転しやすく、曲線通過中に継手間隔が変動しやすい懸念があります。
その対策として、推進機直後から10本の推進管はプレートを用いて緊結し、さらに緩衝材の配置方法を工夫して半管の水平回転を抑制しました。通常の継手部は管端面全周にコルク製の緩衝材を貼り付けますが、ここでは大きな圧縮力にも対応できる厚さ10㎜の硬質発泡プラスチック製(2倍発泡品)のFJリングを適用しました(写真-6)。また配置方法は管の上下方向に緩衝材を部分配置し(図-2)、推進延長の増加にともなう推進力の増加に対しては緩衝材を重ねて対応しました。曲線への追随性や受圧面積の確保を考慮し、90度と120度の緩衝材を重ねる段差配置とし、さらに万一の計画以上の推進力増加時の保険として全周配置も加えました。

内水圧管における施工管理

近畿農政局での内水圧管路で初めてコンクリート管を採用することから、通常の外観検査や外圧試験に加え、継手曲げ水密試験(許容抜け出し長での内外面)や管体の内圧試験などの項目を追加しました。現場での施工中の管理としては、推進力管理に加え、急曲線内の継手緩衝材の圧縮量に一番注意を払いました(図-3)。

おわりに

施工は11月10日に発進して1月8日に到達しました。自動測量システムの効果で日進量は設計の約2倍(10~12m/日)を記録しました。また、到達直前で約2週間の施工中断があり、推進力の超過が懸念されましたが、全線にわたり停止前と再開時に滑材の補足注入を入念に実施することで、計画推進力以下で到達できました。到達精度や曲線中の蛇行量も管理値以内に収まり、継手間隔や継手水密試験においても全て基準を満たす内水圧管路が築造できました。
なお、本工事は初めての材料を用いて試験的に施工した事例であり、供用一年後の経過調査を実施して性能検証を行う予定です。

工事概要
工事名称 平成21年度紀伊平野県営右岸幹線水路その1
小田井水路粉河サイホンその1改修工事
工事場所 和歌山県紀ノ川市
発注 農林水産省近畿農政局
監理 近畿農政局 紀伊平野農業水利事業建設所
施工 (株)鴻池組
工期 平成22年7月~平成23年3月
工事内容 工事延長:446.85m 
泥濃式推進工(超流セミシールド工法):
仕上がり径 φ1,500mm
推進延長  325.68m

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463号(2011年10月01日)