パイプインパイプ(PIP)工法による管水路改築
宮川サイホン
名古屋支店 工事事務所 山崎健二郎
/ 市川裕一
はじめに
宮川用水事業は三重県の中南西部に位置し、伊勢神宮で有名な伊勢市を流れる清流宮川から約5,800haの農地にかんがいを行うため、昭和32年~41年度に施行されました。しかし約40年経過したことによる施設の老朽化、その後の営農形態の変化などから、用水計画の見直し、施設の改修が必要となっております。そこで平成7年度から「宮川用水第二期農業水利事業」として地区内調整池(V=200万m3)を築造するとともに、幹線用水路(L=20km)の改修整備を行っています。
本工事は、そのうち一級河川である宮川を横断している既設PC管φ1,100の中に鋼管φ900(管厚t=6mm、管長L=4,900mm)を布設・現地溶接し、裏込め注入を行うパイプインパイプ(PIP)工法で施工しましたのでその概要を紹介します(写真-1、図-1、2)。
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写真-1 工事平面図 |
![]() 図-2 PIP部断面図 |
図-1 宮川サイホン施工概要図 |
パイプインパイプ工法の特徴
- 既設管路の断面に対し最も近い断面の新管が敷設でき、通水断面の減少が極めて小さくできます。従って、新設工事に比べて工期の短縮・全体工事費の低減が図れます。
- 既設管路(PC管)は中性化が進んでおり、その安全性が期待できないことから、既設管の強度を期待しない自立管としての安全性が確保できます。
- 地上および地中環境に左右されないため、連続施工が可能です。
- 耐震性、沈下への追従性、水密性等に対し、長期に信頼性の高い管路が敷設できます。
鋼管の運搬方法
本工事は狭小な管内の施工です。管挿入にウィンチ等の動力を使用することは挟まれ事故を誘発する危険性があり、図-3、写真-2のようにキャスターを設置し、平坦部では人力で運搬することで簡易かつ安全な搬入方法を採用しました。
傾斜部等の人力での困難な個所では、チルクライマー、ワイヤー、レバーブロック等を併用します(図-4、写真-3)。急勾配個所の重量物の運搬であり、逸走防止としてボルト固定による金具を設置し、搬入している鋼管の下へは立入禁止にして作業を行いました。
図-3 運搬用キャスター取付図 |
![]() 写真-2 運搬状況写真 |
![]() 図-4 傾斜部搬入状況図 |
写真-3 傾斜部搬入状況 |
鋼管溶接
鋼管の接合は作業員がφ900の鋼管の中に入り、現場溶接で行いました。この溶接作業時に大量の溶接ヒュームが発生するため、φ300の送風機2台を坑外に設置し、エアーを送り込み(138m3/min)作業を行いました(図-1)。
裏込め注入
裏込め注入は施工距離が545mあるため、長距離圧送が可能で、流動性・充填性が優れているセメントベントナイトを採用しました。施工はグラウトホールから注入を行い、間仕切壁の間を上半、下半の2回に分けて行い2日で全断面の注入を行いました。注入圧力は0.1MPaを上限値として注入を行い、過剰な圧力がかからないようにしました(図-5・6、写真-4)。
![]() 図-5 注入断面図 |
![]() 写真-4 裏込め注入 |
図-6 注入状況図 |
おわりに
当初心配された傾斜部での鋼管運搬や作業時の換気も特にトラブルなく、平成19年3月に無事竣工しました。施工前の既設管の確実な測量とそれに基づいた管割図の作成により、スムーズな施工を行うことができました。
同工法は新設工事と比較して大幅なコスト縮減が図れるため、これからのリニューアル工事に数多く採用されることが予想されます。この事例が今後の参考になれば幸いです。
工事名称 | 平成18年度宮川用水第二期地区1号幹線水路宮川サイホン工事 |
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工事場所 | 三重県伊勢市小俣町元町及び御薗町高向地内 |
発注 | 農林水産省東海農政局 |
施工 | (株)鴻池組 |
工期 | 平成18年9月~平成19年3月 |
構造・規模 |
管水路: FRPM管φ1,000 70m 鋼管φ1,000 112m 鋼管φ900 570m |
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