PROJECT STORY プロジェクトストーリー #4

隠岐の島町
再生可能エネルギー
事業

「KONOIKE Next Vision for SDG’s 」の実現に向けた事業の一つとして始動した、
島根県の隠岐の島での再生可能エネルギー事業。
水力、バイオマスという2つのエネルギー源を活用した発電事業は、
長きに渡る鴻池組の歴史においても前例のない挑戦となった。
2024年の完成を見据え、地域企業や住民と連携しながら
今なお挑み続けるメンバーたちが、このプロジェクトを語った。

PROJECT MEMBER

井澤 武史

施工部門 1989年入社 井澤 武史 Izawa
Takeshi

本社土木事業総轄本部環境エンジニアリング本部環境イノベーション部所属。「KONOIKE Next Vision for SDG’s 」の推進メンバーとして、当プロジェクト立ち上げから統括まで行うプロジェクトリーダーとして陣頭に立つ。

森田 俊成

設計部門 1983年入社 森田 俊成 Morita
Toshinari

本社土木事業総轄本部環境エンジニアリング本部環境イノベーション部環境イノベーション課所属。既存の施設をリプレースするための図面作成を担当。長年、電機設備関連に携わってきた経験を活かし、申請に関わる行政との調整役も務めた。

大島 徳行

管理部門 1988年入社 大島 徳行 Oshima
Noriyuki

本社経営管理総轄本部経営戦略本部機材部所属。設備選定や配置、電力会社との交渉から、発電設備の稼働時においてはその管理・運用を担う。譲渡交渉においては、主担当として現場を仕切った。

巴月 勝三

営業部門 1989年入社 巴月 勝三 Hazuki
Katsuzo

山陰支店建築営業部所属。隠岐の島で行われた各プロジェクトのプランニングを手掛け、再生可能エネルギー事業にも参画。地元住民や企業とのネットワークを活かしながら、地域の関係各所との調整役を担当した。

INTERVIEW

SECTION 01 隠岐の島の課題を解決することが、
鴻池組の未来にもつながっている。

SECTION 01

「鴻池組にとっての新たな試みと、
隠岐の島のニーズがうまく合致した」

  • 井澤 武史

    2017年、鴻池組がこれまでに手掛けてきた土木や建築の請負業とは別に新規事業を立ち上げようということで新しい部署ができ、そこに配属になりました。何をしようかと色々と考えている時に、隠岐の島には古い発電所があると知り、当社がそれを引き継ぎ、再生できないかと思いついたのがこのプロジェクトのはじまりです。2018年の夏に初めて隠岐の島を訪問しました。

  • 大島 徳行

    地元の方々にそのプロジェクトの話を持ちかけた時は、大変、喜ばれたそうですね。ニーズもタイミングも良かったと聞いています。

  • 井澤 武史

    特に、バイオマス発電所について言いますと、燃料となるペレットを製造している島の工場では、その利用先が限られていたため生産能力の10分の1程度しか稼働していませんでした。そこで、当社がそのペレットを買い取って発電する仕組みをご提案しました。それが実現すれば工場の稼働率が上がり、山の間伐が盛んになることで災害時の倒木の危険性も減りますし、排出される炭は隠岐特産の黒松の松枯れ対策や畑の土壌改良材として活用できるのではないかと考えました。

  • 巴月 勝三

    水力発電所に関しても、昭和初期に建設されたもので、これまで改修されてきたとはいえ、やはり設備としてはかなり老朽化が進んでいました。2年ほど前には、災害時に島全体が停電したこともあると聞き、何かしら対策を講じなければいけない状態だと感じました。

  • 井澤 武史

    とてもタイミングが良かったと思います。また、今回のプロジェクトは、地域創生という観点から見ても、新しい発電所が生まれることで、働く場所を提供できます。電力はライフラインの一部として電力会社に買い取ってもらう制度を利用することで、鴻池組ばかりではなく島全体の活性化にも寄与できるはずです。

  • 大島 徳行

    このプロジェクトには、鴻池組の新たな活路を切り拓くという意義もありました。その思いと、過疎化が進み続ける隠岐の島とのニーズが一致した事業と言えますね。

「100年以上積み重ねてきた信頼関係のおかげで、住民も企業もプロジェクトに協力的だった。」

  • 森田 俊成

    鴻池組は100年以上前に山陰支店を開設しています。資料では、1939年に創建した後鳥羽上皇をお祀りする隠岐神社建設工事を請け負ってから、数々の隠岐諸島の公共インフラを手掛けたそうです。

  • 井澤 武史

    実際に、地元住民や企業の方と接すると、その歴史の深さを感じられますよ。「鴻池組の人やね!」と気さくにお声がけくださったり、地元の企業の方が何かと協力してくださったりします。その理由の一つに、安全な建物を着実に手掛けてきたことがあると思います。

  • 巴月 勝三

    そうですね。それと、島独特の文化やここにしかない景観を損なうことなく、島並みに溶け込む仕事を心掛けてきたことも理由ではないでしょうか。その心遣いが住民の方々にもしっかりと届いているように感じますね。

  • 井澤 武史

    信頼関係があったからこそ、行政はもちろん、中国電力や地元住民の方々も快く協力をしてくださいました。最も驚いたのが、境界線の管理を行う時です。社内では従来通り、時間をかけて正確に測量すべきという声が挙がったのですが、地元住民の方は、これまでの関係性もあり、話し合いのみでこの業務を終えることを承諾してくださいました。

  • 巴月 勝三

    特に都市部では、境界線に関するトラブルが発生するケースも少なくないのですが、このときは、それほどまでに信頼していただいているのかと、より身を引き締めて業務に当たろうと思いました。

  • 大島 徳行

    地域住民の方々ばかりではなく、企業の方の支えもありました。私たちの仕事は、実際に現場で仕事をされる職人の方の協力がなければ成り立ちませんが、今回のプロジェクトでは、地元の企業の方々にも数多く賛同していただきました。先人が築いてきた絆の強さを実感しましたね。

  • 井澤 武史

    こうした信頼関係を裏切らないためにも、プロジェクトに関してご説明する機会も大切にしました。顔を合わせてお話することで理解できることも多く、例えばペレット工場の方々は、鴻池組が山を買い占めれば、自分たちの仕事が奪われるのではないかと当初心配をされていたようです。

  • 森田 俊成

    直接でなければ、プロジェクトの細部までお伝えするのは難しいものです。鴻池組の利益を追い求めるだけではなく、隠岐の島の活性化に寄与するための取り組みでもあると理解していただくことが何より重要と言えますね。

  • 井澤 武史

    はい。地元の方々と一緒に取り組むことが主目的であることをしっかりとお伝えしました。その思いの一つとして、鴻池組と、地元島根県の藤井基礎設計事務所、広島県の御池鐵工所の3社で隠岐グリーンパワー合同会社を設立しました。今後はさらに、地元の方々との協力体制を強化しながらプロジェクトを進めていきます。

SECTION 02 技術と知識を結集させ、
前例の無い再生プロジェクトに挑む。

SECTION 02

「プロジェクトの目的を重視し、
最適かつ最良のプランを作り上げる。」

  • 巴月 勝三

    バイオマス発電所については、当初の計画地であった温泉施設の近くから別の場所に変更をしましたよね。当時は油を燃料とするボイラーでお湯を沸かしていた点に着目し、バイオマス発電の廃熱を利用すれば、コストやCO2の排出量をカットできるということで候補になっていたのですが。

  • 井澤 武史

    島の環境や、温泉施設にとっても良い選択だと思ったのですが、色々と調査を進めていくうちに、温泉施設の配管の問題が浮上してきました。老朽化が進んでおり、危険な箇所の改修を行っても、また別の場所で発生しかねない。安全性の観点から断念せざるを得ませんでした。

  • 巴月 勝三

    結果的には、温泉施設を新しく建て変える話が出た時に、改めて計画の中に組み込もうということになりました。歴史ある施設が多いため、そうした問題は各所で発生しますね。

  • 森田 俊成

    バイオマス発電所建設の次なる候補地は隠岐の島町役場の近くなのですが、もともと田んぼの跡地なので、地盤自体がとても弱いというネックがあります。地盤からマイナス15メートルあたりまでの地層が軟弱なため、そこに建設をすると建物が傾くなどの危険性があります。そのため、支持地盤の15メートル以下まで改良杭を設置し、揺るがない基礎を作らなければいけません。コスト面の問題もありますし、大きな時間と労力も必要となります。

  • 井澤 武史

    もちろん、安全性を担保できなければ、地盤自体が堅い建設地に変更する必要があります。しかし、役場の近くに建設をすれば、災害が発生した際に電力を供給できるというメリットがありました。今回のプロジェクトでは、隠岐の島の機能を高め、活性化させることに重点を置いていましたので、これが現在の最良のプランだと考えています。

  • 大島 徳行

    このプロジェクトでは、利益の追求だけではない選択が数多くされていますよね。バイオマス発電所で使うペレットに関しても、コスト的には割高になりますがより安全な仕様に加工を施す予定です。

  • 井澤 武史

    通常は、木材を砕いてブロック状になったものを使用しますが、今回建設する発電所では、直径が6ミリ程度のカプセル状のペレットを使用します。品質が良く安定して燃焼できるため、稼働がストップするリスクが減ります。不測の事態にも対応できることが大切ですからね。

「先人が作った技術や価値を、鴻池組のノウハウで未来へつなぐ。」

  • 大島 徳行

    ところで、今回再生させる水力発電所は、かなり老朽化が進んでいました。しかも、当時の図面などが残っていないものもあると聞きました。

  • 森田 俊成

    一応、戦後間もない当時の図面はあるんですよ。完成後、改修した記録も残っています。ただ、今の状態と照らし合わせなければ、本当にこの図面が正しいのかわからないんです(笑)。結局は、現場に足を運んで、測定した結果を持ち帰り、図面から作るような状態でした。

  • 井澤 武史

    今まで、電気を使用する設備は数多く手がけられたと思いますが、電気を作る設備は初めてですよね?

  • 森田 俊成

    はい。ですから、全く初めて目にするものばかりでしたね。例えば、電気事故から人や設備を守る継電器というスイッチは、これまで3つ程度だったのが、発電所になると、電気の品質を守るものも含めて6つも7つも付いている。それらをすべて網羅して、これまでの経験値もプラスしながら安全なものを作らなければいけません。設備の導入はこれからですので、実際は、工事が進む中でわかってくることも多いと思います。

  • 大島 徳行

    設計の方は、現場の状況に合わせて、迅速に対応して内容を変更していくことになりますね。

  • 森田 俊成

    実際にコンクリートを割って、構造が明るみになれば、より正確な発電所の床版図面を描けるはずです。今の段階は、図面と実物との誤差をどれだけ小さくできるかという作業です。

  • 井澤 武史

    新しく建て替えるのではなく、既存の建物を残しつつ、再生させることがミッションなので、より難易度は高いと言えますね。

  • 森田 俊成

    確かにそうです。ただ、人が歩けないような道を進んだ先にあるダムを見た時に、「あの時代に、これほどのものを作るなんてすごいな」と心から感じました。先人が作ったその価値を、中国電力や周囲の方々が管理し、今の時代につないでくれました。たとえどれだけ難易度が高いものでも、私たちのノウハウを駆使し、未来にこのバトンをつなぎたいという思いで取り組んでいます。

SECTION 03 地域活性化という意義を果たすことで、
新しいスタートラインに立てる。

SECTION 03

「過疎化する隠岐の島の未来を、
自分の手で変えたいという思い。」

  • 井澤 武史

    隠岐の島を活性化させたいという思いは、年を追うごとにどんどん増しています。現在は、隠岐の島にも住まいを構えて暮らしていますが、周囲には20世帯ほどしかないうえ、毎年少しずつ減っているようです。この状況を目の当たりにすると、より一層、このプロジェクトを成功させようという思いになります。

  • 巴月 勝三

    とてもよくわかります。学校の統廃合が進み、小学校では全学年で数十人ということも珍しくありません。また、隠岐の島に働く場所がないため、若い世代がどんどん島から離れてしまい、日に日に島から活力が失われていくような印象です。私も、この状態を何とか変えたいと強く思うようになりました。

  • 大島 徳行

    このプロジェクトが完了し、新しい取り組みが注目されると同時に、そこに働く場所が生まれると、自然と島に活気が生まれると思います。井澤さんが思い描くイメージはあるのですか?

  • 井澤 武史

    私個人の思いでは、発電所に関わる自然エネルギーを使った教育の場を、子どもたちに提供したいと考えています。山の木が燃料となり電気が生まれ、排出される炭が畑や海の栄養分となって、食べ物がとれる。そうした循環を知り、隠岐の島や自然全体に関心を持ってもらいたいと思いますね。

  • 大島 徳行

    そうですね。例えば、バイオマス発電所で発生する廃熱を活用することで、ビニールハウス栽培や魚の養殖など、その副産物として新しい計画も立ち上がってくる可能性も大いにあると思っています。そのきっかけの部分に関われることには、意義があると感じています。

  • 森田 俊成

    その時だけではなく、長いスパンでこの隠岐の島が発展できるような視点が必要ですね。私も、発電所の設計では、メンテナンス性や保守管理の手軽さも大切にしています。利便性を高めることが、この発電所が長期的に活用されることにつながっていくと思います。その部分を忘れず、このプロジェクトに関わっていきたいですね。

  • 井澤 武史

    これまで鴻池組でも、何十年と残る建物を手掛けてきましたが、こうした形で価値を残せることに大きな喜びを感じています。2024年4月の稼働に向けてこれからが正念場という時期になりますが、その思いを大切に、ゴールをめざして走り続けていきましょう。

「フラッグシップモデルとなる、
プロジェクトとして完成させたい。」

  • 巴月 勝三

    営業の立場として、色々な地域の方と関わりを持ちますが、プロジェクトが進むにつれて、皆さんからの期待の声が大きくなり、好意的な方々がどんどん増えている印象です。これだけ大きな反響を得られるのであれば、別のエリアでも展開することができると思っています。

  • 井澤 武史

    隠岐の島と同様に、過疎化をはじめとしたこのような問題は、今や全国各地で広まっています。そのエリアごとの特性や環境に合わせたご提案をしていきたいですね。

  • 大島 徳行

    当初、再生可能エネルギー事業と聞いた時は、「何をすればいいんだろう」という状態でしたが、時間が経つに連れて、井澤さんの情熱や、地域の方々の温かさに惹かれ、今では没頭するようにプロジェクトに取り組めています。もともと、電気設備に関わっていたので、発電所についてじっくりと調べていくと、自身の関心と重なる部分が多くあり、この年齢になっても学べることがたくさんあることを実感しました。大変ですけど、楽しいですね。

  • 井澤 武史

    新しいことを学べるのは、年齡やキャリアに関係なく楽しいですよ。その気持ちはとてもわかります。

  • 大島 徳行

    また、このプロジェクトは、鴻池組が新たなスタートラインに立つ、重要な仕事になるという思いがあります。その大切な仕事を担う責任感を持ち、最後までやり遂げたいと思っています。

  • 森田 俊成

    私も同じです。鴻池組に入社して約40年になりますが、これほど大きな挑戦に出るとは思いもしませんでした。このプロジェクトは、今までの経験の延長ではなく、新しい挑戦をたくさん含んでいます。それだけ、得られることや学べることも多いと思います。このプロジェクトの先には、これまでと違った鴻池組の新しい価値が生まれると思うので、しっかりと完成を見届けたいと思っています。

  • 井澤 武史

    お客様に頼まれた仕事をきっちりとこなすのが、鴻池組のこれまでの姿でした。これからは、自分で考えて何か新しいことをやろうという部分が求められてくるように思います。次の世代の人たちが活躍できる、新たな土壌を作るきっかけとなるプロジェクトを、このメンバーでしっかりと成功させましょう。