PROJECT STORY プロジェクトストーリー #3

うめきた
東海道線支線北3地区
地下新設他工事

大阪北部エリアを指す、通称“うめきた”の再開発事業の一つとして進められた
東海道線支線の地下化および新駅の整備。
都市部での大規模工事ゆえの万全な地盤検査や周辺地域への配慮など、
限られた時間の中で課題をクリアするために数々の調整が繰り返された。
大阪の中心部を活性化させるこのプロジェクトを成功に導くため、
経験豊富なベテランと有望な若手がチームとして結束。
その中心的メンバーである5名がこれまでを振り返った。

PROJECT MEMBER

松田 佳明

施工部門 1991年入社 松田 佳明 Matsuda
Yoshiaki

大阪本店土木部所属。当プロジェクトの現場所長として社内外のメンバーを編成し、品質や安全、コスト管理など、全体の統括管理を担当。関西の新たな動脈の安全を担うこの大規模プロジェクトを無事に成功へ導いた。

吉田 幸弘

施工部門 2006年入社 吉田 幸弘 Yoshida
Yukihiro

大阪本店土木工事事務所所属。現場主任として、発注者との協議を含め、施工・工程管理を行い、現場所長と連携しながら滞りなく工事を進める役割を担った。再開発プロジェクトゆえ、周辺の他工事との調整業務にも奔走した。

尾濱 太一

施工部門 2013年入社 尾濱 太一 Ohama
Taichi

大阪本店土木工事事務所所属。発注者の意向や、現場での状況を加味しながら、設計図面の変更点を現場に反映するため、協力会社との連絡・調整業務を広く担当。鉄道関連のプロジェクトは初となるが、これまでのコンクリートを扱った大規模工事での経験を見込まれ、プロジェクトに参加。

笹川 基史

営業部門 1994年入社 笹川 基史 Sasakawa
Motofumi

本社土木事業総轄本部営業本部所属。本プロジェクトのスタート以前から、発注者であるJR西日本の大阪本店営業担当として、営業活動と受注戦略のプランニングを担当。工事着手後も、顧客の現場視察や契約に関する調整など、顧客と現場作業員とのつなぎ役として信頼関係の構築に努めた。

國富 和眞

土木技術部門 1988年入社 國富 和眞 Kunitomi
Kazuma

本社土木事業総轄本部技術本部所属。技術検討を行う土木技術部の設計技術課長として、受注時の設計図書(設計図面・計算書)の照査をはじめ、現場での問題発生時の対策検討など、技術面からこのプロジェクトを支えた。

INTERVIEW

SECTION 01 地下工事と大阪の土地に精通した知見を活かし、
プロジェクトの課題をクリアするアイデアを創出。

SECTION 01

「鴻池組が培った技術と経験が評価され、
大規模プロジェクトの担い手に選ばれた。」

  • 松田 佳明

    大阪の中心地である“うめきた”エリアの再開発事業として、東海道線支線の地下化と新駅の整備に関する話を聞いた時、「意義のあるこの仕事を、絶対に鴻池組でやりたい」と強く思ったことを覚えています。このプロジェクトの発注が正式に決まったのは2013年頃までさかのぼります。

  • 笹川 基史

    そうでしたね。2013年4月に都市計画が決定し、許可申請や設計内容などを含めて、約4年後に着工することになりました。北と南で分断されているうめきたの街を一体化すると共に、踏切事故の防止や輸送改善などが期待される、一大プロジェクトとしてスタートしました。

  • 松田 佳明

    受注に向けては、複数社が参加するコンペが実施されましたが、最終的に鴻池組の提案が選ばれたのは、やはり鉄道事業のこれまでの実績が大きかったですよね。

  • 笹川 基史

    都市部の中で行う関西でも有数な大規模工事ということで、お客様はもちろん、私たちにとっても確かな安全性を担保したプロジェクトにすることが大命題でした。そこで、これまで鴻池組で請け負った、中之島駅、新福島駅などの関西の地下鉄プロジェクトで培ったノウハウを整理し、たとえ不測の事態が発生しても速やかに対処できる技術力をプレゼンに盛り込みました。

  • 吉田 幸弘

    地元での数ある地下工事の実績から、大阪の地盤を熟知している点も支持されたポイントだと思います。特に、梅田層といわれる粘土地盤は掘ると強度が低下するという軟弱な性質を持っていましたので、それを踏まえた検討を行って掘削作業をする必要があります。そのような土の性質を知っているかどうかで、工事の安全性は大きく変わってきますからね。

  • 笹川 基史

    もう一つ挙げるとすれば、大阪に拠点を置く企業としての安心感も大きかったのではないかと思います。地元、関係各所の方と強いネットワークで結ばれているため、プロジェクト期間中に万が一のトラブルが発生したとしても、安全性と工期の遵守を念頭におきながら、最適なチーム編成を構築できるのも、鴻池組ならではの強みですから。

  • 松田 佳明

    実際、着工後にコロナ禍となり、工事の延期に度々見舞われましたが、その都度、協力会社の方々の支えによって、事故が起きなかったのはもちろん、大幅な遅れもなく予定通り計画を遂行することができました。そういう面でも、地元大阪にある企業としての利点を活かせたように思いますね。

  • 笹川 基史

    そうした同種工事の数多くの実績や大阪に根ざした企業であることがお客様からの信頼性に繋がり、このプロジェクトを請け負うことができたと考えています。

「緻密な検証を積み重ね、安全性と効率性を両立させた新たな挑戦。」

  • 吉田 幸弘

    今回の工事で大きな懸念材料であったのが、地下水の問題でした。このエリアの地下水位は高く、掘削によって掘削域内の重量が軽くなるので、下からの水圧で掘削底面が持ち上がる危険性がありました。安全性を確保するため井戸により掘削域内の水位を下げる対策をとりましたが、施工中は常に地下水位の計測や揚水の量を調整する必要がありました。

  • 松田 佳明

    この地下水については、万が一排水ポンプが止まって水位が回復してしまうと、掘削坑内の安全性はもちろん、工期の遅れにも繋がるため、絶えず心配で仕方がありませんでした。対策として、24時間水位を検知できるシステムを導入し、何か異常な水位変動があればすぐに点検ができる体制を整え、さらには隣接する別の工事会社の方々との状況の共有も積極的に行いました。あと、掘削中の側部の土を止める仮設壁の動きも安全対策上注視する必要があったので、計測管理はとにかく徹底しましたね。

  • 國富 和眞

    はい。土木技術部門でも、梅田層と言われる地盤は軟弱で問題が生じやすい性質を持つため、検討では細心の注意を払いました。掘削によって強度低下する地盤の性質を考慮して行った仮設壁の安全性の検討や、計測計画立案の支援、仮設壁の動きが計算結果を越えた場合の安全性の検討など、現場の安全を確保するうえでさまざまな検討を行いました。

  • 尾濱 太一

    24時間自動測定できる計測工で、仮設壁の変位が想定していた以上に変位していることが判明したとき、作業手順や施工方法を変えたことがあります。土木技術部でそのあたりを徹底して分析・検討をしてくれたことで、その都度、変更点を設計図面に反映し、必要な材料や資材などを滞りなく仕入れられました。また、掘削工事の際に仮設壁を支える水平部材に高強度部材を採用する新しい工法を取り入れることも、今回初めてとなる挑戦でしたね。

  • 吉田 幸弘

    新しい工法の実施については、協力会社の皆様と何度も協議を重ねて決めました。この工法を採用することで、仮設壁を支える水平部材の本数を減らした上に、その水平部材を鉛直に受ける支柱杭の本数も減らすことができるため、効率性には断然優れていました。唯一の課題が、まだまだ新しい技術であるため、この梅田層のような軟弱な地盤で安全に工事を行えるかということでした。この部分は、國富さんの力をお借りしました。

  • 國富 和眞

    水平部材となる高強度部材の使い方に着目しました。水平部材は数本の部材をつないで使いますが、つなぎ方は数本のボルトのみになっていました。この方法だと壁を支える方向の力には問題ないのですが、直角方向の力に対しての安全性が不明でした。そこで、不測の状態を早期に判断できるよう、使用するボルトに掛かる負荷を計測できるシステムを現場に提案し、安全性を確実に担保できるようお願いしました。

  • 松田 佳明

    途中で掘削に伴って底面地盤が持ち上がる現象が見られ、水平部材に鉛直方向の変位が発生しましたが、このシステムを導入した甲斐もあり、迅速に対応することができました。結果的には、安全にかつ従来よりも効率性を高めながら施工を進めることができたと思っています。

SECTION 02 社内の枠を越えた強い結束により、
誰もが責任と使命感を持つ現場に。

SECTION 02

「鉄道や地下工事のスペシャリストが揃い、
若手が大きく成長できる環境となった。」

  • 尾濱 太一

    このプロジェクトがスタートした頃は、東北エリアの配属だったのですが、心の中でずっと、自分もいつかこのプロジェクトに携わりたいと思っていたので、担当を知らされた時の喜びは格別でした。チームの世代的には中間の立場だったこともあり、若い社員たちにこの仕事で学んだ経験をしっかりと伝えることも一つの目標としました。

  • 松田 佳明

    現場を進めるためには、経験豊富なベテランばかりではなく、人材育成も含め、柔軟な対応ができる若い世代も欠かせません。そういう意味では、鉄道や地下工事のスペシャリストが揃ったことや、年代的にもバランスの取れたベストなメンバーになったと思います。

  • 笹川 基史

    チームとしてのまとまりも強かったですね。営業の立場から申し上げると、お客様とのコミュケーションも円滑に進んでいた印象です。

  • 吉田 幸弘

    そのチーム力の賜物と言えるのが、地下歩道の撤去と仮歩道の設置工事です。法定規則などが理由で、この工事を終えなければ本体の工事に着手できないため、限られた時間の中でチーム全員が一丸となってこの業務にあたりました。

  • 松田 佳明

    200mに渡る仮歩道は南北に分断する場所に位置し、現場内での南北間での移動ができないため、2つの現場を同時進行で進める必要がありました。何より大変だったのが、現場内での資材や重機の移動です。そうした調整を行ったり、機械の配置計画を順次見直したりしながら、予定通り工事を終えられたのは現場の協力があってこその成果だと言えます。

  • 尾濱 太一

    これだけ制約が多い中で、無事に工事を進められたこの経験は、私を含めて若い世代にとっては、本当に学ぶことが多かったと感じます。知識だけではなく、経験やチームワークの大切さを改めて思い知らされました。

「協力会社や他工事との連携も大切に、
都市部だからこその第三者に配慮した
現場づくり。」

  • 松田 佳明

    今回のプロジェクトではとにかく、第三者に配慮した現場づくりに努めました。都市部の中心で、周辺には人通りも多く、一般の方や周辺の方々に迷惑や不安を感じさせない作業をするため、現場の協力会社と何度も話し合いました。

  • 笹川 基史

    現場のすぐ近くにはお客様であるJR西日本様の本社もあり、毎日多くの人で賑わっている場所なので、何かと気を遣われていたのは想像できます。粉塵や騒音などは日頃から気をつけているところだと思いますが、それ以外で特にこの現場で気を使われた部分はどんなところでしたか?

  • 吉田 幸弘

    現場での作業中はもちろん、それ以外の場面でも、常に周囲の目を気にするように現場での意識徹底を図りました。例えば、現場内を歩く時にポケットに手を入れないことや、ちゃんと屋内で着替えを行うことなど、そうした行いを良くするだけで、現場の雰囲気も変わりますし、外部からの印象も大きく変わります。

  • 尾濱 太一

    あと、現場内を歩く時は2人以上が横に並ばないというルールも設定しました。仕事が忙しくなったり疲れてきたりすると、思わず気が緩んでしまうところを、お互いに気をつけて声掛けをするようにしていました。

  • 國富 和眞

    この現場では、そういった協力体制が、鴻池組の関係者ばかりではなく、他のエリアの工事会社の方々にまで広がっていたのが素晴らしかったですよね。

  • 松田 佳明

    現場周辺は多くの人が行き交うエリアで交通量も多いことから、資材置き場へ繋がる出入り口を一箇所にまとめることや、一度の信号で通行できる大型車両を3台までに制限することなど、細かいルールを他の工事会社の方々とも協議しながら決めていきました。皆さんも同じく工期に追われながら作業を進めている中、快く協力してくださいました。

  • 吉田 幸弘

    これだけ多くの方に注目される再開発プロジェクトを請け負う責任として、事故を起こさず、安全に工事を完了させたいという共通の強い思いを持っていたので、個々に工夫をしながら結束できたのでしょう。その気持ちが結果として周囲にも伝わったのかもしれません。

  • 松田 佳明

    そうですね。思い返せば、点検や計測の段階で異常が発生すると、國富さんたち土木技術部の方々がすぐに駆けつけて対応してくださいました。そうした使命感が、社内はもちろん、枠を越えて社外にも広がっていったのだと思います。

SECTION 03 数々の苦難の先に見えた
鴻池組が切り拓く、次なる可能性。

SECTION 03

「この仕事をやり切るという熱い思いが、
メンバーの気持ちを前進させた。」

  • 吉田 幸弘

    プロジェクトスタートから、まもなく完成という時期になりましたが、ほぼ予定通りにスケジュールを進めることができました。多くの新しい試みを取り入れながらも、このように無事に終える段階まで進めることができて非常に感慨深いです。

  • 笹川 基史

    プロジェクトの途中、コロナ禍はもちろん、さまざまな事情で工事をストップしなければいけない状況もあった中で、それぞれが四苦八苦しながら業務を進めていきましたからね。

  • 松田 佳明

    本当に、そう思いますね。チームの中には、こうした工事の経験がほとんど無いという社員も多数いました。正直、不安を抱えながら業務に向き合う社員も多かったと思いますが、未経験だからこそ発揮できるパワーや、連携することで生まれる力を目の当たりにできました。何より、「最後までやり切ろう」という熱気がすごかったですよ。

  • 國富 和眞

    現場の熱気や、「良いものをつくろう」という思いはひしひし感じていました。特に土木技術部では、現場の進捗や状況を見ながら、担当者とともにより良い方向へと修正していくのですが、その都度、誰もが真剣に向き合ってくれました。私もその思いに応えたい一心で、呼ばれたら現場へすぐに駆けつけるように努めていました。

  • 尾濱 太一

    私も、そうした熱気を身近に感じられたのも一つですが、自分が手掛けたこのような大規模な構造物を後から目にすることができるというのが、この仕事に向き合う大きな原動力になりましたね。これは、土木特有の仕事の魅力なのかなと思います。

  • 吉田 幸弘

    この仕事は、土木の面白さや醍醐味がつまったプロジェクトと言えますよね。私も、地下の構造物に関わるのは初めての経験でしたが、各工程を通して発見や学びがたくさんあったので、この仕事がもっと好きになりました。このプロジェクトに携わることができてよかったと心から思っています。

「長い道のりの中で培ったこの経験を
次の未来へ繋げていきたい。」

  • 松田 佳明

    このプロジェクトを振り返ってみると、社員たちにとって良い経験がたくさんあったなと思います。これまでにない工事の規模感や新しい工法を目の当たりにできたことは、土木事業に関わっていく上で必ず役立つ時がくると思います。細かいことを言えば、お客様や協力会社の方々への対応の仕方など、言葉では伝えづらい貴重な場面にもたくさん出会えたはずです。それを、しっかり活かしてほしいですね。

  • 尾濱 太一

    私は今、別のプロジェクトに移り、難波エリアの中心地で工事を担当しているのですが、まさにこのプロジェクトでの経験が活きているように感じます。うめきたと同じく人通りが多いため、第三者の方に不快さを与えないキレイな現場づくりを心掛けています。また今の現場は、若手の社員も数多く所属しているので、このプロジェクトがスタートした時と同じように、なぜ周辺の第三者の方に配慮が必要なのかというところから丁寧に伝えるようにしています。

  • 吉田 幸弘

    尾濱さんが、今回のプロジェクトでもしっかりと若手の方のサポートをしてくれたので、私は自分の業務に集中することができました。そのおかげで、現場をとりまとめながらプロジェクトを円滑に進めるためのスキルを、もっと磨きたいと思うようになりました。キャリア的にはその段階に来ていますので、この現場で松田所長がどのように仕切っておられたのか。その様子を何度も思い出しながら、いざ自分が所長として現場を管理する時には胸を張って対応できるようにしたいですね。

  • 國富 和眞

    今回、たくさんの学びがあった中で、社内のみならず、社外の方からもわからないところを教わったり、また時には知識を共有しながら課題解決に取り組んだりしたことは、個人的にとても印象的でした。そうした社外の方から得られた学びも、いつかきっと仕事の成果に繋げられると感じています。

  • 笹川 基史

    私たちにとっても得難い経験となりましたが、鴻池組にとってもより大きく飛躍するための学びがたくさんあった現場だったはずです。このプロジェクトでの成功を糧に、また新たなフィールドに挑戦することができればと思っています。

  • 松田 佳明

    そうですね。色々な方に支えられたことで、多様な視点を培うことができました。その経験を忘れることなく、自身の将来や鴻池組の未来を見つめながら、チーム一丸となってスキルを磨き続けていってほしいと思います。