技術広報誌ET

技術広報誌ET 2024年発刊号

水素燃焼式高温過熱水蒸気を用いたPFAS分解処理技術の開発

512号(2024年1月1日) クリーンな燃焼技術で有機フッ素化合物を熱分解 技術研究所 大阪テクノセンター 大山 将

はじめに

近年、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)といった有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス);per- and poly- fluoroalkyl substances)による環境水や土壌の汚染に注目が集まっています。PFASは親水基と疎水基を併せ持つ界面活性剤で、撥水性および撥油性という特性を持ち、化学的および熱安定性等に優れている(非常に難分解性である)ことから、撥水剤、コーティング剤、泡消化剤等に70年以上広く使用されてきました(図-1)。しかしながら、環境残留性や一部の物質が示す発がん性、生物蓄積性、廃棄物の分解処理が困難であるといった、有機フッ素化合物の「負の側面」が近年顕在化してきており、水、土壌、大気など環境を取り巻く種々の媒体での汚染が懸念されています。
当社では河川や地下水といった環境水に含まれるPFASを低コストで浄化するため、粉末状の活性炭(粉末活性炭)にPFASを吸着させて環境水等を浄化する技術の開発を進めています。PFASは難分解性の化学物質であるため、粉末活性炭に吸着させたPFASは、最終的には、適切かつ確実に分解処理する必要があると考えています。
環境省が令和4年9月に策定した「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」(以下、「技術的留意事項」と称します)では、PFOSやPFOAの分解処理方法として約1,000℃以上(約1,100℃以上を推奨)の焼却処理が想定され、分解効率(99.999%(ファイブナイン)以上)や管理目標値などの要件が示されています。

図-1 PFAS類の用途(出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA) PFAS(有機フッ素化合物)汚染 環境と人体を蝕む「永遠の化学物質」の規制に向けて)

図-1 PFAS類の用途(出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA)
PFAS(有機フッ素化合物)汚染 環境と人体を蝕む「永遠の化学物質」の規制に向けて)

水素燃焼で生成する高温過熱水蒸気を用いた
分解処理技術の共同開発

当社は中外炉工業(株)と共同で「技術的留意事項」を満たし、従来の処理方法よりも環境負荷を低減させた、PFASの新たな分解処理技術として、水素を燃焼させて生成する1,100℃を超える高温の過熱水蒸気を活用した手法の開発を進めています。過熱水蒸気は沸点以上に加熱された水蒸気で、1,100℃を超える高温の過熱水蒸気はダイオキシン類やPCBといった汚染物質も熱分解することが可能であり、高温水蒸気分解法としてフロン類破壊技術としても活用されています。
PFASを分解するための高温過熱水蒸気を生成させる手法として、中外炉工業が保有する「水素燃焼式過熱水蒸気発生技術」を採用しています。これは、水素と酸素を水素バーナーで燃焼させて生成する高温の水蒸気を活用するもので、①最高1,600℃までの高温が実現可能、②燃料燃焼由来CO2の排出がゼロ(クリーンな燃焼技術)、③排ガス量が極めて少量(排ガスを急冷させると過熱水蒸気は水(液体)になるため)、④水素バーナーから液体、スラリーの供給が可能(燃焼火炎に直接供給)、などの特徴を有しています。
PFAS分解処理技術の共同開発にあたっては、水素バーナーを装着して所要の滞留時間を確保できる過熱水蒸気分解炉、高温の排ガスを急冷するスクラバー(クエンチャー)、炉内の負圧を維持する吸引ファン(排風機)等からなる「水素燃焼式高温過熱水蒸気分解処理試験装置」(写真-1)を新たに作製しました。試験装置の主な仕様は、水素バーナー燃焼容量:35 kW(約30,000 kcal/h)、炉内寸法:φ400 mm×L 1,585 mm、炉内温度:最大1,250℃、液体・スラリー供給量:2.5 kg/h(常用)、炉内圧力:0~−0.3kPa程度(負圧制御)、燃焼ガスの滞留時間:2秒以上となっています。

写真-1 水素燃焼式高温過熱水蒸気分解処理試験装置

写真-1 水素燃焼式高温過熱水蒸気分解処理試験装置

写真-2 粉末活性炭スラリー供給時の燃焼状況(別の装置で撮影)

写真-2 粉末活性炭スラリー供給時の燃焼状況(別の装置で撮影)

図-2 高温過熱水蒸気分解処理試験概要

図-2 高温過熱水蒸気分解処理試験概要

PFAS吸着粉末活性炭スラリーの分解処理実証試験

この試験装置を用いて、過去に使用されていた泡消火薬液由来のPFOS等のPFASを粉末活性炭に吸着させて作製した「PFAS吸着粉末活性炭スラリー」を用いて実証試験を行いました。分解処理試験の概要を図-2に示します。その結果、泡消火薬液に主に含まれているPFOSの分解効率が「技術的留意事項」の要件である99.999%(ファイブナイン)以上であることを確認しました。この結果、水素燃焼による高温過熱水蒸気を活用して、粉末活性炭に吸着させたPFASが適切に分解処理できているものと判断しています。

おわりに

当社と中外炉工業(株)が共同開発している「水素燃焼による高温過熱水蒸気を活用した有機フッ素化合物(PFAS)の分解処理技術」は、有害化学物質の熱分解処理においてもCO2排出量を低減し、将来的なカーボンニュートラルの達成に寄与し得る技術と考えています。また、あらゆる有機化合物の分解処理ににも適用可能であることから、共同開発をさらに強力に推進してまいります。

有機フッ素化合物の規制動向

PFASとは有機フッ素化合物の総称で、その種類は10,000種以上にのぼると言われています。その中でも最も広く使用されていたのが、ペルフルオロオクタンスルホン酸(Perfluorooctane Sulfonic Acid:PFOS)とペルフルオロオクタン酸(Perfluorooctanoic Acid:PFOA)です。
「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)において、PFOSは2009年に附属書Bに掲載されてその使用が制限され、PFOAは2019年に附属書Aに掲載され廃絶対象物質となりました。その代替物質であるペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)についても2022年に附属書Aに掲載され廃絶対象物質となりました。国内におけるPFAS類規制の流れは下記のとおりです。

■ 国内におけるPFAS類規制の流れ

512号(2024年1月1日)の記事

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