技術広報誌ET

技術広報誌ET 2023年発刊号

稼働しながらの大規模工場の解体・新築

508号(2023年1月1日) レンゴー株式会社 東京工場リニューアル 東京本店 工事事務所 大磯 徳人 / 設計本部 笹部 薫

はじめに

レンゴー株式会社は段ボール業界の先駆者で、板紙・段ボールの最大手専業メーカーです。「段ボール」という呼称は、同社創業者の井上貞治郎氏が命名したことで知られています。今回、全国に26か所ある段ボール工場の1つである東京工場をリニューアルすることになりました(写真-1)。工事は3期に分けて行われ、解体および新築を繰り返しながら工場全体をリニューアルします(図-1)。工場の主な建屋としては、原紙を保管する「原紙倉庫」、原紙を貼り合わせて段ボールを製造する「コルゲーター室」、段ボールを加工・印刷する「製函棟」、出来上がった製品を保管する「製品倉庫」となっています。その他に事務・厚生棟や包装技術センター事務所、運送会社等の事務所があります。
ここでは、工場の生産ラインや製品出荷を止めることなく、大規模な工場施設をリニューアルするための工事計画、およびICTを活用した既存建物の調査等について紹介します。

写真-1 工事中の工場全景

写真-1 工事中の工場全景

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

工事概要

リニューアル工事には、製函棟の建て替え工事、事務所機能を有した新製品倉庫の新築工事に加え、工事に先立って必要となる解体工事、および外構工事があります。これらの工事を工場の生産と出荷を止めずに行なっていくために、工事を3期に分割して行います。なお、設計期間に約1年半、着工からは4年半の工期となっています(図-2)。

図-2 概略工程表

図-2 概略工程表

工事中の工場運営と工事計画

リニューアル工事は、以下に示すように3期に分けて工場を稼働しながら順次進めます(図-3)。
〇1期工事
2期および3期工事で解体する建物の引越し先を、本設もしくは仮設で新築する工事となっています。具体的には、平面駐車場を地上4階建ての自走式駐車場にする工事、点在している付属の諸室や関連会社の事務所などを集約するための仮設プレハブ建物を新築する工事があります。
〇2期工事
製函棟は東側、北側、南側の3つのエリアに分けて解体および新築を行います。3エリアに囲まれた中側では、既存のラインによる生産を続けます。また、出荷動線であった平面駐車場部分に新たに製品倉庫を新築します。新たな出荷動線は新製品倉庫の工事着手前に構内道路として造成を行います。
〇3期工事
中側製函棟にある既存の生産機器を2期工事で新築した北側製函棟と南側製函棟に移動し、解体および新築工事を行います。新しい中側製函棟が完成後、南側製函棟の生産機器を移設し、南側製函棟をシート倉庫に改修します。また、第1原紙倉庫および事務・厚生棟から製函棟への渡り廊下を新築します。

図-3 工事ステップ図

図-3 工事ステップ図

ICTを活用した既存建物の現状確認

〇設計段階での検証
当計画の設計にあたり、既存建物の現状を把握するため竣工図書や確認申請書類等の確認を行うとともに、現地で既存建物の現況確認を行いました。特に詳細な確認が必要な部分については、3Dスキャナーによる点群データの記録や360度カメラによる撮影を行い、既存建物に関するデータを収集しました。
○既存建物と新設建物の取り合い確認
既存建物の内部に関する点群データ上に、3次元ソフトを使用して一部をモデル化しました。このデータとBIMで作成した新設建物の3次元データを合成し、解体する既存建物との取り合いについて確認しました(図-4)。また、既存建物の外部をドローンにより上空から撮影し画像情報を点群化しました。これをBIMで作成した各ステップの新設建物の3次元データと合成することによって、各ステップにおける建物状況について確認しました(図-5)。

図-4 点群データとBIMデータの合成(内部)

図-4 点群データとBIMデータの合成(内部)

図-5 点群データとBIMデータの合成(外部)

図-5 点群データとBIMデータの合成(外部)

MRによる可視化

既存建物(製函棟)を部分的に解体して新築を行うケースにおいては、仮設の壁で工事中は既存建物の解体部分をあらかじめ塞ぐ必要があります。工場の生産機器などの移設も関係するため、MR(Mixed Reality 複合現実)で壁の設置場所を可視化して壁に干渉する生産機器および付随するインフラ関係の確認を行っています(写真-2)。
今後は盛り替えたインフラのルートも同様に可視化し、既存部分のどこに移設されるかを明確にします。図面だけではイメージしにくいものを可視化することで、事業主をはじめ一般の方にも理解しやすくなりスムーズな調整が行えると考えます。

写真-2 MRによる仮設壁の可視化

写真-2 MRによる仮設壁の可視化

おわりに

戦後からバブル期にかけて建設された多くの工場建築が全国に存在しています。道路などのインフラと同様に、企業が所有する生産施設についても安全性や効率性という観点から更新が必要とされています。しかしながら、大規模工場の更新には、顧客、資金、労働者などに関連する難しい課題が山積し、それへの対応が求められています。
当プロジェクトでは、発注者・設計者・施工者が一体となって設計および施工計画を練ることで、工場を稼働させながらリニューアル工事を進めています。今回の経験を活かし、より安全で合理的な工場更新方法を今後も提案してまいります。

工事概要

工事名称 レンゴー株式会社東京工場リニューアル工事
工事場所 埼玉県川口市領家5-14-8
発注 レンゴー(株)
設計・監理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期 2021年11月~2026年3月
用途 工場・倉庫・事務所・駐車場・その他
構造・規模 (全体計)
敷地面積57,420.70㎡ 施工延床39,262.82㎡
(製函棟)
S造 地上2階 延床面積 23,729.99㎡
(新製品倉庫棟)
S造 地上4階 延床面積 13,660.16㎡
(第1原紙倉庫)
S造 地上2階 延床面積 1,132.43㎡
(駐車場棟)
S造 地上4階 延床面積 4,650.00㎡
(その他付属棟)
S造/RC造 地上1階7 棟延床面積(7棟計) 343.82㎡
(仮設プレハブ)
プレハブ造 地上1階 5棟
延床面積(5棟計) 404.16㎡

508号(2023年1月1日)の記事

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