大型PC合成床版の施工と性能確認実験

刈谷市役所新庁舎

名古屋支店 工事事務所
松本重和

はじめに

刈谷市は愛知県のほぼ中央に位置し、最先端技術を駆使した自動車関連産業の工場が立ち並ぶ、活気に満ちた地方公共団体です。1954年に建てられた庁舎の耐震強度やバリアフリーの問題を解決するため、新庁舎が建設されることになりました。
建設建物は庁舎棟と駐車場棟に分かれ、庁舎棟は地上10階、塔屋1階で免震構造になっています。また、階高を抑えながら使いやすい内部空間を確保するため、大型PC合成床版が採用されました(図-1、写真-1)。
その結果、階高3.7mに対し3mを超える天井高と、スパン15mの空間が可能になりました(図-2)。
ここでは、大型PC合成床版の施工と部材製作に先立って実施した性能確認実験について紹介します。

大型PC合成床版の製作から搬入

床版は幅1.8m、長さ15m、高さ1.0m、重量が約13tある大型のPC部材です。また、コンクリート強度はFc60N、フロー60cmで、部材の中にはコンクリート打設前緊張用と打設後緊張用のPC鋼線が配線されています(図-3)。
部材がトレーラー1台に1部材しか積載できない形状であること、運搬時の車両全長が17mを超えることなどから、早朝6時までに現場搬入を済ませる必要がありました。

大型PC床版の支保工と架設

大型PC床版の支保工の位置は、確認申請書の中で構造上問題とならない位置との指示がされています。架設用支保工は過去の物件でもいろいろな方法が採用 されてきましたが、今回は床版架設後にSRC梁の躯体工事があるため、支保工をできる限り小さく、また、設置数を少なくするため、四角塔式支保工を採用しました(写真-2、3)。
1フロアの施工日数は、支保工組み立てが2~3日、58枚の床版架設には、搬入・ストックできる枚数の関係上、8日が必要となりました。
架設終了後、大型PC床版とSRC梁とは、機械式継手でつなぎ、スラブの増打配筋後コンクリートを打設して一体化します。
PC床版の両端に配置した支保工の内側は、躯体用資材および足場材などの仮置き場として利用でき、それらの通常の資材もRC造やSRC造と比較して少量で済むことから、狭い現場では特に有効です。

性能確認実験

本工事で採用するPC合成床版の設計荷重に対する構造安全性を検証するために、実部材の試験体による性能確認実験を行いました。実験は、積載荷重に相当する荷重をスパン中央部に載荷して行いました。その結果、初期ひび割れが発生した荷重は、長期設計荷重の約1.6倍であり、長期設計荷重時におけるPC合成床版の構造安全性を確認することができました。また、両端の支承部(PC合成床版が取り付く梁との取り合い)に対しても、それぞれ性能確認実験を行い、その構造安全性を確認しています(写真-4)。

おわりに

大型PC合成床版の採用により、階高を抑えた上でゆとりある開放的な空間を確保することができました。今後も防災拠点となる庁舎などの老朽化および耐震強度不足による建て替え工事において、今回の工法が採用されることが期待されます。

工事概要
工事名称 市役所新庁舎建設(建築)工事
工事場所 愛知県刈谷市東陽町1-1
発注 刈谷市
設計・監理 (株)日建設計 名古屋オフィス
施工 鴻池・角文特定建設工事共同企業体
工期 平成20年11月~平成22年9月
構造規模

[庁舎棟]

SRC造(一部S造) 地上10階 塔屋1階

建築面積 3,093m2 延床面積 25,644m2

[駐車場棟]
RC造 地上2階
建築面積 2,045m2 延床面積 2,393m2

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459号(2010年10月01日)