「国際歓迎・交流拠点」となる大学施設の施工
愛知大学 名古屋校舎(ささしま)
名古屋支店 工事事務所 金尾 弘司
はじめに
名古屋市が「国際歓迎・交流拠点」として魅力と活気に満ちたまちづくりを目指している名古屋駅南の大規模再開発エリア「ささしまライブ24」では、愛知大学を始め、映画館、ライブホール、JICA(国際協力機構)やブライダルホール等の施設が既に運営され、若者が集う活気あふれるエリアとなっています。
当工事はこの地区にある愛知大学の2期工事であり、キャンパスのシンボルとなる超高層の本館(研究棟)と国際シンポジウムや学会などが行われるグローバルコンベンションホールを建設しています(写真-1)。周辺では超高層の複合施設が建設中で道路整備も同時に行なわれており、平成29年度のささしまライブ24地区の街開きに向けて注目を集めています。
ここでは、施設の設計上の特徴を紹介するとともに、施工上の工夫例として、外壁のPC化、2階床先行工法およびBIMの活用について紹介します。
写真-1 施工中の建物 |
震災対策や環境に配慮した建物
当建物には、意匠的なこだわりだけでなく、震災ならびに風への対策や環境への配慮が随所にみられます。本館(研究棟)には、震災等の対策として地震エネルギーを吸収する座屈拘束ブレースや耐震間柱、粘弾性ダンパーによる地震の後揺れ対策が施され、風揺れに対する居住性向上にも効果を発揮します(写真-2、3)。また、屋上にはホバーリングスペース、1F出入口には防潮堤が設けられています。
写真-2 粘弾性ダンパー(ブレース) | 写真-3 粘弾性ダンパー(間柱) |
環境面では、隣接する1期工事の建物からDHC(地域冷暖房)の熱源を導入、また、17~19Fに設けたエコボイド(吹抜け空間)を利用した自然換気システムの採用によるCO₂排出量の削減やコンベンションホール棟の屋上緑化などにより、環境負荷の低減を図っています(図-1)。
コンベンションホール棟の2階は、同時通訳ブースを備えた国際会議が可能なホール(収容人員約600名)となっています。外壁の一部をガラス張りにすることで、隣接する新幹線や在来線などの車窓から内部のアクティビティーや、大学OBである平松礼二先生の作品画が見えるようになっています(図-2)。
図-1 エコボイド |
図-2 サイドホワイエ(パース) |
外壁PC化による工期短縮と品質向上
当初は、2階以上の外壁はPC板(約5,290㎡)と押出成形セメント板(約2,710㎡)を併用する計画となっていました。この場合、押出成形セメント板やアルミサッシの取り付け、コーキングや塗装工事は、せり上げ足場からの作業となりますが、押出成形セメント板をPC板に変更することで、工場にてアルミサッシの打ち込みや塗装を完了したユニットとして現場に搬入することが可能となり、工期短縮が図れました(図-3、写真-4)。
また、凹凸のある外壁形状に合わせたせり上げ足場が不要となり、安全性も飛躍的に向上しました。品質面においても、細かなコーキングが減少したことから漏水の懸念が少なくなり、耐久性も向上しています。
なお、PC化に伴う建物重量の増加により大臣認定や確認申請の変更等も発生しましたが、設計者を始め、関係部署の協力によりスムーズな対応ができました。
図-3 外壁PC板の変更計画 (北面) |
写真-4 PC板取付状況 |
2階床を先行構築する工法
通常の工法では、掘削終了後に建物最下部の基礎部分から順次上階へとコンクリートを打設し、建物を構築していきますが、当工事の超高層棟では、基礎柱脚部に仮設鉄骨柱を設置して基礎部や地下躯体に先行して2階床を構築することにより、工期短縮を図っています。
具体的には、鉄骨0節下部に仮設の鉄骨柱を設置することで本体鉄骨工事の着手を早め、基礎部躯体工事をクリティカルパスから外すことが可能となり、着手から上棟まで鉄骨工事を継続できるように計画しました。なお、2階の床スラブを先行して打設することにより上下の作業を区画し、地上鉄骨工事を行ないながら同時に地下躯体工事を安全に実施でき、工期を約1ヵ月短縮しました(図-4、写真-5)。
図-4 2階床先行構築工法 |
写真-5 仮設柱が付いた0節鉄骨柱 |
BIM活用による部材干渉チェック
コンベンションホール棟は、細かい構造部材が多く、床高さも一定でないことから従来の2次元の施工図では理解しにくい形状となっています。そこで、各専門工事会社(鉄骨・設備・電気)が施工図レベルの精度で作成した3次元データを共通フォーマットであるIFCデータとして当社が受領し、工事事務所において統合モデルとしてBIMデータにまとめました(図-5)。これにより各部材の干渉チェックや納まりの早期検討を行っています。また、市販の3D地図にBIMデータを重ねることで、新幹線等の車窓からどのように建物が見えるかをお客様と検証するなど、デザイン検討にも活用しました。
図-5 BIMデータ統合例 |
おわりに
厳しい工期の中で、安全に高品質な建物をつくるために関係者と協議し、採用した技術について紹介しました。この建物がキャンパスで学ぶ学生を始め、ささしまエリアを訪れる人々に愛されるものとなるように、今後も竣工に向け職員一丸となって取り組んでまいります。
工事名称 | 愛知大学名古屋校舎(ささしま)第2期工事 |
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工事場所 |
名古屋市中村区平池町4丁目60番6,13,15,16
および中川区西日置町字上鵜垂1番13 |
建築主 |
(学)愛知大学 |
設計・監理 | (株)日建設計 |
施工 | (株)鴻池組 |
工期 | 平成26年10月~平成29年3月 |
建築用途 |
大学校舎 [ 本館(研究棟)、コンベンションホール棟 ほか ] |
構造・規模 |
[ 本館(研究棟) ] S造 地下1階 地上20階 塔屋2階 [ コンベンションホール棟 ] S造 地上2階 建築面積 2,299.72m2 延床面積 13,929.46m2 |
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