東北地方太平洋沖地震における免震建物の地震観測記録

当社技術研究所(茨城県つくば市)

技術研究所 藤井 睦

はじめに

茨城県つくば市の当社技術研究所では、開所以来、建物の地震観測を行っています。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(以下本震,震央距離330km)では、地表観測点で震度6弱となる、これまでで最も強い地震動が観測されました。この本震における免震建物の観測記録について紹介します。

観測概要

観測対象のうち、管理研究棟は、RC造,3階建て,耐震壁付ラーメン構造,平面48m×24mの規模で、1階と基礎の間に免震層を有し、天然系積層ゴム27基,コイル状鋼棒ダンパー12基,U型鉛ダンパー8基の免震デバイスを用いています。実験棟は、RC造の地下1階地上部3階建てで、3層吹抜けの実験室(S造)が付随し、また、実験用の反力壁・反力床と振動台のための剛強な基礎を有します。地震観測では、これらの2棟と周辺地盤に合計24成分の常設の地震観測点を設けており、これまでに本震記録を含めて約400回の地震を記録しています(写真-1)。

本震記録

本震時の主な加速度波形を図-1に、各観測点の最大加速度と計測震度を図-2にそれぞれ示します。水平最大加速度について見ると、地表面では表層が柔らかいこともあり、800ガルを超える強い地震動となりました。2つの建物への入力値となる基礎上296ガルに対し、免震構造の管理研究棟で98~121ガルの応答となり、入力の約0.4倍に低減されました。一方、耐震構造の実験棟では461ガルと約1.5倍に増幅しました。両棟の応答は、約4倍の差があり、免震構造では、耐震構造に比べ、構造体への負担や内部の什器類への影響が大幅に緩和されたことがわかります。また、管理研究棟の1階と屋上の相対変位を変形量とみなしても、平均変形角で1/4,500に過ぎず、構造体の損傷は発生しないことがわかります。
免震層の水平相対変位、すなわち免震デバイスの水平変形は6cm程度で、最大ストローク(40cm)に対してまだ余裕があります(図-3)。今回初めて、鋼棒ダンパーはエネルギの吸収を開始する変形3cmを超えて動作し、防錆用塗装の一部に剥落が見られました。鉛ダンパーには、過去の地震同様、特に異常は見られませんでした。

屋内や近隣の状況

管理研究棟内は本震や余震でゆっくりした揺れ(実測周期1.6秒)が長く続きましたが、行動は充分可能でした。余震での長い揺れの繰り返しで図書室の一部の書籍が徐々にせり出して落下しました。事務室、研究室では書類などの落下もなく、緊急用電源の半日後の消失を除けば、業務に支障はありませんでした。近隣では外壁や内部の被害が多数見られ、復旧までに時間を要したようです。事業継続性の確保には、屋内の設備や什器を含めた損傷防止が重要と思われます(写真-2,写真–3)。

多数の記録から見た免震効果

本震を含む全ての地震記録を用い、加速度の増幅率を整理しました(図–4)。耐震構造の実験棟では揺れがつねに増え、大きめの地震では1.5倍ほどになりますが、免震構造の管理研究棟では大きい地震ほど増幅率の小ささが明確になり、大きめの地震では0.5倍ほどになります。本震時と同様に、免震構造はさまざまな地震動に対しても有効といえます。

おわりに

免震構造は、応答加速度を入力よりも小さくできることが特徴であり、構造体や2次部材の負担(変形)を大幅に緩和するだけでなく、人間や什器など屋内への影響(揺れ)を最小限にすることに繋がります。今回の震度6弱となる強震動においても、これらの特徴と効果が充分に確認できました。免震構造は、コストの割り増しが導入の障害となることが多いようですが、人命確保に加えて、事業継続性や財産保護も実現できる他に代え難い構造方法として推奨していきたいと考えます。
今後、免震構造で重要な免震デバイスの大変形時特性について、今回の記録を用いた応答シミュレーションを行い、確認する予定です(図–5)。

本誌掲載記事に関するお問い合わせは、経営管理本部 経営企画部CSR・広報課までお願いします。なお、記事の無断転載はご遠慮ください。

 

463号(2011年10月01日)