低層鉄骨建物用制振システムの開発

東京本店 建築設計部
関谷英一

はじめに

近年の制振構造の研究・開発に伴い、構造種別によらず超高層建物から木造住宅に至るまで幅広く制振構造が実用化されています。当社が木造建物用に開発した「仕口ダンパー」(関連記事ET340、416号参照)は、開口を塞ぐことがなく、数多く取り付けることで減衰力を平面的に分散させる利点があります。しかし、鉄骨造建物では仕口部の剛性が非常に高いため、ダンパーの変形量が確保され難く、エネルギー吸収効率が低いことから、そのまま鉄骨造建物へ適用するには問題点があります。そこで、これらの問題を解消するために、仕口部分をピン接合として変形量を確保し、適度なバネ(復元力)とダンパー(減衰力)を付加する制振システムを開発しました。
なお、本開発は(株)日建設計と当社との共同研究によるものです。

システムの概要と基本性能

本システムの適用方法は主に2つに大別されます。1つ目は図-1(a)に示すように主架構の仕口部をピン接合としダンパーを取り付ける場合です。これは新築建物を想定したものであり、通常のラーメン構造との併用も可能です。2つ目は図-1(b)に示すように間柱にダンパーを取り付ける場合です。これは新築建物に限らず、既存建物に剛性と減衰を付加する耐震補強への応用も可能です。また、仕口部をピン接合としているため、ダンパーの設置、交換が容易で、鋼材やダンパーの再利用も可能な環境にやさしい制振システムです。
ダンパーは、減衰機能を果たす粘弾性体を、鋼板を冷間曲げ加工した板バネと、鋼材によって加工された剛体で挟み込む形状としました。仕口部の変形に伴って生じる板バネと剛体の相対変形に粘弾性体が追従し、粘弾性体の圧縮・引張・せん断変形によりエネルギーを吸収し熱に変換します(図-2、3)。

ダンパー単体試験と実大フレーム実験

ダンパーを実際の柱・梁に取り付けることを想定してピン接合とした試験治具を作成し、ダンパー単体試験を行い、仕口部分の挙動やダンパーの基本特性を確認しました。小変形時から粘弾性体による安定したエネルギー吸収が行われ、大変形時には板バネの塑性変形によるエネルギー吸収効率の向上が確認されました。
さらに、1層1スパンの実大フレームによる振動台実験を行いました。常時微動測定、自由振動実験、地震波入力実験などのさまざまな試験によって、板バネによる復元力と粘弾性体による減衰力が建物の減衰性能向上に効果的に寄与していることを確認しました。

おわりに

新築建物のみならず既存建物の耐震補強へも応用できる、板バネと粘弾性体による制振仕口システムを開発しました。実際の建物への適用を視野に入れたダンパー単体試験、実大フレームによる振動台実験を通して本システムの制振効果を確認しました。現在は、さまざまな温度条件におけるダンパーの性能確認や、本システムを適用した制振設計手法の確立、さらには合理的な施工方法について検討を重ね、本格的な実用化に向けて準備を進めています。
また、本システムは「構造材の接合部構造およびばね・粘弾性複合型ダンパー」として特許取得しています。

※実験は当社技術研究所(つくば市)にて実施

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433号(2007年08月01日)