TPS+ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染土壌の浄化

豊能郡美化センター汚染土壌浄化対策

大阪本店 工事事務所
大石 啓史

はじめに

平成9年、大阪府豊能郡のゴミ焼却施設から発生したダイオキシン類による施設周辺の土壌汚染が判明し、大きな社会問題となりました。汚染範囲は約30,000m2で、平成10年から14年にかけて汚染土壌が撤去・保管され、その量はおよそ9,000tに及びます。本工事は、この汚染土壌を「TPS(※)+ジオメルト工法」によって無害化し、安全な環境の復元を目指しています(写真-1)。

※TPS:Thermal Phase Separation

TPS+ジオメルト工法

平成15年に環境省が「ダイオキシン類汚染土壌浄化技術実証調査」として実施した現地での実規模実証実験において約400tの汚染土壌を処理した実績が評価され、本工事においてTPS+ジオメルト工法(図-1)が採用されました。
TPS(写真-2)とは間接熱脱着工法の一つで、汚染土壌を間接的に700度に加熱し、土壌中のダイオキシン類等の汚染物質を気化して分離した後、揮発したガスを冷却して汚染物を回収する工法です。
ジオメルト工法は、TPSで濃縮された汚染物を1,600~2,000度のジュール熱で電気溶融して汚染物を完全に分解・無害化する工法で、和歌山県橋本市において処理実績があります。溶融固化体は、物理的にも化学的にも安定しており、砕石等にリサイクルすることができます。
これら2つの工法を組み合わせることにより、土壌中のダイオキシン類を現地にて安全かつ効率的に除去することが可能となりました。

汚染土壌の処理フロー

汚染土壌の処理は、図-2に示すような手順で行います。ジオメルト設備はTPS処理が完了する時期に合わせて設置を予定しています。

前処理工程の重要性

TPS+ジオメルト工法における最も重要な工程が汚染土壌の「前処理」(図-2)です。前処理の作業内容は主に、(1)乾燥(写真-3)(2)粒径調整(写真-4)(3)異物の除去です。
(1)では、土壌中に存在する水分が多いほど土に加わるべき熱が気化熱として奪われ、土の温度上昇を阻害するため、土を予め乾燥させます。(2)についてはTPSに投入できる粒径が35mm以下と限られているため、ふるい機や破砕機を使って汚染土の粒径を調整します。(3)については、金属や木の根、茎、巨大な礫(粒径100mm以上)、ゴミ等、処理の妨げになるおそれのあるものを取り除きます。
本工事における土壌浄化の管理基準値は、10pg(注1)-TEQ(注2)/g(国の環境基準は1000pg-TEQ/g以下)で、これまでの浄化実績は0~3.1pg-TEQ/gと管理基準値を十分に下回っています。これはTPSの高い処理能力を示すものですが、その能力を引き出す鍵は前処理という地道な作業にあります。

前処理工程の課題

前処理工程における土壌乾燥は、浄化土の品質および処理速度を左右する非常に重要な要素です。限られた時間、場所、費用で、しかも気象(主に湿度)にも大きく影響を受けながら効率的に土を乾燥させることは容易ではなく、現在の処理実績では原土の平均含水率約25%に対して乾燥後の平均含水率は約20%です。この乾燥能力を向上させることがさらなる品質やコストの改善には不可欠です。

おわりに

一度汚染された環境を復元するには、莫大な時間、労力、エネルギーを要し、汚染を除去するためにかえって化石燃料を消費し、大気汚染や地球温暖化に拍車をかけるという矛盾した側面があります。そのため、施工者には常に必要にして十分な処理が要求されます。よって今後とも浄化技術の向上、開発に向けた不断の 努力はもとより、環境浄化の重要性を認識し、環境への負荷を可能な限り低減する官民一体となった取り組みが必要です。そして何よりもまず私たち一人ひとりが環境を汚さないという強い意志を持ち、実践していくことが今もっとも求められているのではないでしょうか。

注1. pg:  ピコグラム。10-12g(1兆分の1g)
注2.TEQ:  毒性当量(Toxic Equivalency Factor)。ダイオキシン類には多くの異性体が存在し、それぞれ毒性が異なるため、最も毒性の強い2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラジオキシンの値で換算して毒性を評価する。

工事概要
工事名称 豊能郡美化センター汚染土壌浄化対策事業
工事場所 大阪府豊能郡能勢町山内19-1
発注 豊能郡環境施設組合
施工 (株)鴻池組
工期 平成17年8月~平成19年6月
工事内容 施設の整備一式、汚染土壌掘削運搬一式
汚染土壌浄化処理(TPS+ジオメルト工法)一式
浄化土の搬出、処分一式、
施設の解体・撤去、浄化場所・汚染土壌保管場所等の原状回復一式
汚染土壌処理量  埋立保管場所 約7,500t
                         コンクリートプール保管場所 約1,500t

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431号(2007年06月01日)