2021年の社長就任以来、鴻池組が抱える諸課題と向き合い取り組んできた代表取締役社長・渡津 弘己。
各種施策の導入や実践を牽引してきた渡津が、この3年間を振り返り、鴻池組の課題と今後の展望について語ります。
社員が喜ぶ会社にしたい」という強い思いをもって、2021年に社長へ就任しました。「ESG経営元年」を宣言し、各種会議体を複数設置して推進体制を構築し、具体方策に取り組んでいます。
鴻池組は150年以上の歴史をもつ老舗企業です。順風満帆な時ばかりではないものの、いつも社員が一生懸命やってきてお客様の信頼・安心を得てきました。その150年の積み重ねはやはり誇らしい。一方で、鴻池組に限らず老舗企業は、受け継いだものを大切にしすぎて、新しいことに取り組むのが苦手になりがちです。とはいえ、前例にとらわれすぎると組織が硬直化します。また、コンプライアンスの徹底やガバナンスの強化を進めていくためにも、「昔はこうだったから」という考え方を許容することはできません。
私はそれらを鴻池組の課題だと考え、社員の意識や行動を変えようと取り組んできました。気が付けば、社会の諸課題と重なる部分が多くなっている。社会的な課題と鴻池組の課題のベクトルが一致してきたことで、社員の受けとめ方や行動、取り組みのスピード感が加速しています。
鴻池組社員としての自分の歩みを振り返ると、「これはやるべきだ!」と思っても、最初は社内で理解してもらえない場面があったのも確かです。しかし簡単にあきらめるわけにはいきません。仲間を集めて試作品を作ったり、実験に協力してくれる現場を探したりしながら、理解者を増やす努力を重ねました。試行錯誤しているうちに、「いいね」と共感してくれる社員が一定数出てくる。そうしているうちに、全社展開へとつながっていった取り組みもあります。
たとえば、CADなしでの業務なんて今の時代に考えられないと思いますが、黎明期のCADに対して懐疑的な見方も少なくなかった。でも私は「CADが必ず必要になる」「鴻池組にぜひ導入したい」と考えました。そこで、メーカー側技術者の皆さんとあれこれ議論し、現場での実用に耐えるものに育てていった。いまやあたりまえのように使われているのを見ると、あの時、必要だと信じて粘ってよかったと思います。
社長になる前の数年間は、ICT化やDX化を進める上での課題抽出や具体方策の策定に取り組みました。最近、若手社員との対話で尋ねてみると、「あのツールがない状況での業務なんて考えられない」「導入前には戻れない」と言ってくれます。必要だと思って導入の道筋をつけたものが、現場で働く社員の業務にしっかり定着しているのを見ると、本当に嬉しいものです。
粘り強く取り組んできた社員は、私だけではありません。たとえば、環境技術部門の技術者も同様です。
研究開発の世界ではなかなか成果が出ず、日の目を見ない期間が長く続くことがあります。しかし、「これはいずれ必要になる」と感じた基礎研究を、鴻池組の技術者はあきらめませんでした。その結果、工場跡地の土壌浄化などへの取り組みを、業界でもいち早くスタートさせることができました。その後、多様な汚染物質に関する土壌浄化の実績を積み重ね、水質汚染対策や災害廃棄物処理にも取り組み、土壌・水質浄化、再生可能エネルギー分野で一貫したソリューションを提供しています。今では「環境の鴻池」と呼ばれ、環境技術領域のリーディングカンパニーを目指すほどに育ちました。
このように、初めは理解されなくても地道な検討を続け、ある日やってきたチャンスに思い切って手を挙げる。そうした挑戦の風土が、今も昔も変わらない鴻池組の強みであると思っています。
鴻池組の強みや取り組みはあまりにも社会の皆さんに知られていません。先日、建設業界で長年にわたって苦楽をともにしてきた協力会社のトップと、「環境の鴻池」をテーマに話をしていてショックを受けました。「鴻池組の環境技術がそんなにすごいって知りませんでした」と言われたのです。とても残念であるとともに、経営者として深く反省しなければならない。
鴻池組はゼネコンとして、広い環境分野の中でもとくに、土木・建築領域を基盤とする
環境技術を得意としています。土壌・水質浄化技術で社会的課題の解決に貢献するほか、老朽化トンネルのリニューアル技術であるReライニング工法など、既存の社会インフラ再生により環境負荷を低減する技術開発にも取り組んできました。これらの独自技術や成果、意義といった鴻池組の強みを広く社会全体へ十分に伝えられていないのではないか。そうした危機意識を持っています。
社会から選ばれる企業であるために、引き続き、土木・建築を基盤とした環境技術の研究開発にいっそう尽力しつつ、鴻池組の強みをしっかり社会へ訴求していきたい。
また社内では、土木、建築、事務系などの職種を越えて、社員同士がお互いの仕事内容への理解をもっと深められるようにしたいと考えています。さらに、社員のご家族から見て「私の家族が鴻池組に勤めていて良かった」と誇りに思っていただきたい。社員が安心して働けることはもちろん、ご家族にとっても安心できる鴻池組でありたいのです。
私は40代から今までずっと「社員ファーストの会社にしたい」と言い続けてきました。鴻池組は創業150年以上の歴史を有しますが、その間ずっと順調なんてことはありえません。何度か会社存続の危機に陥ってきた。しかし、窮地の鴻池組をいつもお客様が助けてくださった。なぜ助けていただけたのか。それは日頃の丁寧で迅速な働きによって社員がお客様の信頼を得ていたからにほかなりません。窮地を助けていただけるほどの深い信頼関係を築くには、社員一人ひとりが自分の仕事に誇りをもち、安心して働くことができる基盤が整っていなければなりません。鴻池組が今後も社会から選ばれる企業であるために、「社員ファーストの会社」であることはきわめて重要な基盤であると考えています。今後も、お客様に対して誠実に接する社風を保つとともに、社員同士の風通しがよい会社であり続けたい。また、卓越した環境技術のことなど、多くの方に鴻池組のことを知っていただきたい。そして、社会的な諸課題の解決に取り組んでいくため、鴻池組社員に「挑戦しよう」「自分の行動で会社や社会を変えられるんだ」。そう言い続けていきたいと考えています。