AR技術を活用したトンネル維持管理システムの開発
-国道23号蒲郡BP五井トンネル工事で実証-

2017年02月21日  リリース[その他 トンネル・シールド]

 AR(拡張現実)技術を活用したトンネル維持管理システムは、トンネルの維持管理に必要なデータを小型コンピューターに記録し、GPS等のGNSS、ビーコンやQRコードと、ウェアラブル端末やタブレット端末に内蔵された各種センサー(単眼カメラ、ジャイロ、Bluetooth)を用いて構造物の任意の位置にCIM等で作成した二次元データや三次元データを投影するシステムです。これにより、現地のトンネル坑内においてコンクリートのひび割れや不具合の進展状況、設計や施工との因果関係を容易に確認できるようになります。また、本技術は、一般的な土木構造物や建築構造物の維持管理に限らず、工事中の施工管理や品質管理にも活用できます。
 今回、株式会社鴻池組(本社大阪府大阪市 社長:蔦田守弘)は、AR技術を活用したトンネル維持管理システムを、中部地方整備局 国道23号蒲郡BP五井トンネル(仮称)においてその優位性を確認しました。
 
[背 景]
 トンネルを含む一般的な土木構造物や建築構造物は、施工完了時にコンクリートのひび割れや不具合カ所の調査を行い、発注者に引き渡されます。その後、発注者は日常及び定期点検や調査を継続的に行いながら、構造物の補修補強の必要性を判断し実施します。しかし、供用中の構造物は、構造物の複雑化、調査の時間的制約、排ガスなどの汚れた条件下において、前回の調書と見比べながら点検調査を行わなければならないため、ひび割れや不具合の進展、新たな発生状況、発生原因との因果関係を見落とす可能性がありました。そのため、現地で限られた時間内に効率的な点検調査を行い、補修補強の必要性を迅速に判断することが求められています。

[概 要]
 今回、AR技術を活用したトンネル維持管理システムの開発においては、以下の手順でトンネル坑内にCIM等で作成した施工データを投影し、その優位性を確認しました。
 はじめにトンネル施工データ(二次元データ:設計及び実施支保パターン、坑内観察調査結果、計測結果、覆工施工記録等、三次元データ:ひび割れ調書、地質展開図、湧水展開図、削孔検層、AGFなどの支保部材等)をウェアラブル端末やタブレット端末等の小型コンピューターに登録しておきます。

(1)QRコードを使用する場合(特徴:電池を使わなくても投影可能)
① トンネル坑内の覆工側壁部等に覆工1~2BL毎(1BL=約10m)にQRコードを設置します。
② 事前にQRコードに、トンネル任意の位置における三次元データをリンクさせておき、ウェアラブル端末やタブレット端末でQRコードを読み込んでこれらの三次元データを呼び出します。
③ 空間認識技術を利用し、単眼カメラで覆工の目地形状を認識させ、呼び出した三次元データとトンネル坑内との位置をマッチングさせて投影します。
④ 人の移動中は、常時、この空間認識技術により覆工目地形状を認識させ、ウェアラブル端末やタブレット端末に内蔵されたジャイロを併用しながらトンネル坑内に三次元データをマッチングさせて投影します。
⑤ 必要に応じて、登録しておいた二次元データもトンネル坑内の任意の位置で呼び出します。

(2)ビーコンを使用する場合(特徴:ビーコンを作動させるための電池や電源が必要、投影精度が高い、GPS等のGNSSの電波の届かない坑内における位置検知に適用)
① トンネル坑内の覆工側壁部の20~30m毎にビーコンを設置します。
② ウェアラブル端末やタブレット端末のBluetooth機能を利用し、作業者の位置での三次元データを呼び出します。
③ 空間認識技術を利用し、単眼カメラで覆工の目地形状を認識させ、呼び出した三次元データとトンネル坑内との位置をマッチングさせて投影します。
④ 人の移動中は、常時、Bluetooth機能と空間認識技術、ウェアラブル端末やタブレット端末に内蔵されたジャイロを併用しながらトンネル坑内に三次元データを高精度でマッチングさせて投影します。
⑤ 必要に応じて、登録しておいた二次元データもトンネル坑内の任意の位置で呼び出します。

 これらの技術により、点検調査時に構造物のひび割れや漏水を発見した場合に、前回の三次元データ(ひび割れ調書等)と見比べてその進展状況を確認したり、近傍の三次元データ(地質展開図、湧水展開図、地山前方探査結果、補助工法等)や二次元データ(設計及び実施支保パターン、坑内観察調査結果、計測結果、覆工施工記録等)などの施工データを呼び出したりすることで現地において容易に不具合の発生原因を推定することが可能になります。

[その他の活用方法]
 本技術はトンネルの維持管理技術として開発しましたが、以下に示すような活用方法もあります。
① 事前に設計三次元データ(路線形状、躯体形状、切盛土工形状等)を小型コンピューターに登録しておき、GPS等のGNSS、ビーコンと、ウェアラブル端末やタブレット端末を用いて現地に投影することで、完成イメージがつかみやすくなり施工上の問題点を事前に把握できるとともに、施工中の構造物に投影することで施工ミスや施工し忘れも防止できます。
② トンネル施工中に施工データ(事前設計資料、坑内観察調査結果、計測結果、地山前方探査結果、地質展開図等の二次元及び三次元データ)を随時小型コンピューターに登録していき、地山崩落や変状、突発湧水発生時に現地に投影することで、これらの発生原因を特定でき、迅速な対応が可能になります。
③ 明かり構造物等では、事前にマーカを数カ所に設置し、マーカと投影情報の基準点とを合致させておくことで、トンネルと同様の空間認識技術を活用することが可能となり、タブレットの傾きや方向に合わせて三次元または二次元のデータを随時モニターに映すことができます。
④ 施工中のデータや維持管理のデータを、クラウドを利用して随時データ更新していくことで、現地で誰もが最新のデータを更新してAR技術を活用することが可能になります。

[今後の展開]
 現在、AR技術を活用したトンネル維持管理システムについて、国土交通省が進めるi-Constructionの一環であるCIMとの連携を進めています。これにより、設計・施工時に作成したCIMを効率的にAR技術に取り入れ、現地に投影することができるため、維持管理のみならず、施工中の出来形管理、施工管理や品質管理にも容易に活用することが可能になります。