山岳トンネルの長尺先受け工へ動的グラウチング工法を適用
-注入圧力に脈動を加えて地山改良効果を向上-

2013年05月17日  リリース[トンネル・シールド]

株式会社鴻池組(本社 大阪市、代表取締役社長 蔦田守弘)は、日本基礎技術株式会社・株式会社カテックス・太平洋マテリアル株式会社の開発協力により、山岳トンネル工事の補助工法である長尺先受け工において、注入圧力を脈動させて地山改良効果の向上を図る動的グラウチング工法を適用することに成功しました。

● 開発の背景
長尺先受け工の注入材はセメント系とウレタン系に大別され、地山状況と施工目的および周辺環境に応じてセメント系が採用される場合も少なくありません。セメント系注入材は地山の変形係数を高める効果を有し、比較的安価ですが、粒子を持つことから岩盤の微細な亀裂へ浸透しにくいという本質的な課題を有します。そこで鴻池組では、動的注入工法に着目し、長尺先受け工の注入への適用をめざして取り組んできました。動的グラウチング工法は、ダムの基礎処理や岩盤空洞の止水工事において、グラウト注入時に注入圧力を脈動させることにより、改良効果と注入効率を向上させる特許技術です。長尺先受け工への適用に当たっては、ゲルタイムの短い1.5ショットタイプ注入材に対応可能な注入システムを考案するとともに、注入材ゲルタイムと強度発現性能の最適化、並びにリーク抑制対策を施し、トンネル工事で試験施工を実施しました。

● 注入システム等の概要
動的グラウチング工法では、圧送経路内にグラウトパルサーと呼ばれる脈動発生装置を組み、注入材に5~10Hzの脈動を付加します。本システムでは、混合前のA液(急硬材等)とB液(超微粒子セメント等)の脈動を同期化して混合による減衰を抑え、鋼管先端まで脈動を伝達することが可能です。また、注入材は、圧縮強度2.0N/mm2(24時間)以上を有し、水温にあわせてゲルタイムを10分程度に調整可能です。さらに、鋼管孔口部にバルクヘッド注入を行うことにより、リークを抑制しました。

● 動的グラウチング工法適用による効果と今後の展開
静岡県清水市で施工中の中部横断自動車道 前沢トンネル工事において、実際のトンネル切羽面に長尺先受け鋼管を打込み、着色した注入材を従来の方法(静的注入)と動的グラウチング工法で注入し、掘り起こして注入材の分布を比較しました。その結果、静的注入では注入材が打設深度6mまでの区間に偏在しましたが、動的注入では打設深度11mまでの広い範囲に脈状の固化体が分布したことから、脈動が注入材の目詰まりを抑制し、地山改良効果を高めることが確認できました。今後は、注入システムの小型化や制御の簡素化などの改良に取り組み、実際の施工への適用と普及を図る予定です。