国指定史跡『橋野高炉跡』一番高炉石組を修復
 -損傷した近代産業遺産を復元-

2013年01月21日  リリース[その他]

岩手県釜石市橋野町青ノ木にある国指定史跡『橋野高炉跡』の一番高炉は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下 東日本大震災と称す)により被災し、大きな損傷を受けました。
株式会社鴻池組(本社 大阪市、代表取締役社長 蔦田守弘)では、これまでの文化財保存修復で培った技術を生かし、一番高炉石組の修復業務を受託・施工しました。

修復の経緯

一番高炉石組は、外周5.5×5.5m、高さ2.7mで36個の積石によって構成された石造構造物です。この石組は、幕末の1860年頃に建設され、明治初期に廃炉となって以降、屋外に設置されている影響から経年の劣化や動植物の活動による割れ・欠け・剥離や、表面の風化など、損耗が激しい状態でした。
また、先の東日本大震災により石組も被災し、積石の欠け・剥離やズレ・落下など、さらに大きな損傷を受けました。これらの損傷は、石組の劣化の進行を早め、さらなる損傷を誘発する可能性もあるため、早急な修復を必要としていました。

修復の概要

鴻池組では、これまでさまざまな文化財の保存・修復の実績を通じて培った技術を導入し、一番高炉石組の修復を実施しました。修復の工程は以下のとおりです。
①準備工では、石組周辺に埋没する遺構を傷めないよう鉄板にて養生し、重機足場を作成
②解体前調査は、測量と写真測量を実施し、完成図・3次元図形の基礎データを取得
③積石解体工は、1段目の積石を残して解体し、解体石は修復工ヤードに移設
④積石修復工は、積石の洗浄を行った後、損傷程度や種類により修復方法を選定し、以下のように施工した。
1) 亀裂部分には樹脂を注入
2) 破断や剥離した石材は接着を実施
3) 欠損部分や亀裂表面には擬岩処理を施した
⑤基質強化・撥水塗布工では、表面風化の防止のために基質強化剤と撥水剤を塗布
⑥積石組立工は、建立当初の状態に近づけるべく、外周面を平滑に揃えるために、綿密な積石の位置調整を行ったうえで組立
⑦組立後調査は、測量と写真測量により、解体前と同様の基礎データを取得
⑧撤去工では、仮設を撤去(現場作業は降雪の前に終了)
⑨完成図・報告書作成では、平面図・立面図のほか、写真測量によって得られたデータから、修復前後の石組をあらゆる方向から俯瞰できる3次元データを作成

世界遺産登録を目指す『橋野高炉跡』

橋野高炉跡は、国内に現存する日本最古の洋式高炉跡で、日本近代製鉄黎明期の象徴の一つとされ、非常に価値の高い文化財として評価されています。
また、平成21年1月5日にユネスコ世界遺産暫定一覧表に登載された「九州・山口の近代化産業遺産群-非西洋世界における近代化の先駆け-」の9エリアのうち、「エリア5:橋野鉄鉱山と製鉄遺跡」を構成する歴史的遺産の一つです。
この「九州・山口の近代化産業遺産群」は、幕末から明治にかけて西洋技術導入を積極的に行った日本近代化の象徴となる産業遺産群であり、短期間(約50年)による近代化の達成は「東洋の奇跡」と呼ばれ、海外からも高い評価を得ています。現在、ユネスコ世界文化遺産への登録を目指し、各遺産の整備が進められています。
鴻池組では、今後もさまざまな文化財の保存・修復の技術を活用して歴史的遺産の保存・修復に努めていきます。

以 上