山岳トンネル坑口斜面での安全管理に「光る変位計」を適用

2009年06月10日  リリース[トンネル・シールド]

株式会社 鴻池組

はじめに

株式会社鴻池組(本社 大阪市、社長 蔦田守弘)は、山岳トンネル工事における安全管理技術を整備し、「計測結果見える化プロジェクト」を推進する目的で、神戸大学の芥川教授(大学院工学研究科市民工学専攻)と北斗電子工業株式会社が共同で開発している「光る変位計」を長大法面に近接する山岳トンネル工事(北関東自動車道佐野東工事出流原(いずるはら)トンネル:仮称)に適用した。
「光る変位計」は平成18年度から神戸大学大学院工学研究科市民工学専攻芥川研究室で開発が着手され、科学技術振興機構(JST)の支援などを受けて北斗電子工業株式会社(本社 西宮市、社長 中野浩一)と共同で開発が進められている、新しいコンセプトに基づく「変位計測+結果表示」装置である(特許公開中)。従来の計測装置と異なり、この変位計にはLEDが装着されており、動きを感知したその瞬間に、その大きさに応じて異なる光の色を発するため、工事現場などにおける周辺地盤の安全度、危険度をリアルタイムで光の色にして表示することができる。

一般に、坑口周辺法面の安全管理は、斜面に設置した地すべり伸縮計や傾斜計といった計測機器を用いての変位速度により管理するが、今回適用した「光る変位計」を用いれば、誰でも容易に変位量を光の色により判別することが可能であり、集中豪雨や継続した降雨時の斜面の安定性を直接リアルタイムに確認することが可能となる。

開発背景

山岳トンネルの坑口は斜面を切土して設置されることが多く、必要な斜面安定対策工が計画されるものの、施工直後からの安全管理に関しては、切土後に地すべり伸縮計や傾斜計といった計測機器を用いて計測された変位量を事務所で処理して、変位速度により管理することが一般的である。
しかしながら、現場での管理においては以下のような課題がある。

  1. 計測結果の評価は、計測担当者が現場で測定した変位データを事務所において処理する必要があるため、斜面の変化は作業員が現地で直接判断できない。
  2. トンネル坑口での斜面崩壊や地すべりが発生すると、トンネル工事は中断を余儀なくされ、工事の工程管理に大きな影響を及ぼす。
  3. 最近のゲリラ豪雨発生時や梅雨時の継続した降雨に伴う、リアルタイムな斜面安定性の評価が困難であり、自動計測手法によりできたとしても、かなり費用がかかる。

そこで、鴻池組の得意分野の一つである山岳トンネルに関するこれまでの豊富な施工実績と技術力を背景に、神戸大学、北斗電子工業株式会社と共同で計測結果見える化プロジェクトに取り組み、これまで山岳トンネル切羽の安全管理に「光る変位計」を日本で初めて適用した。
また、芥川教授は、「光る変位計」を用いることで実現できる新しいインフラのモニタリング手法(OSDV:On Site Data Visualization)を提唱し、株式会社ダイヤコンサルタントとの共同型協力研究をはじめ、その普及を目的とした研究会の発足に向けて準備を進めている。
今回、準備メンバーである株式会社ダイヤコンサルタントおよび株式会社環境総合テクノスとの検討を重ねて改良した新しい「光る変位計」を、鴻池組が「計測結果見える化プロジェクト」の一貫として長大法面を有する山岳トンネル坑口部に適用した。

工法概要

今回、現場へ適用した斜面管理用「光る変位計」は、フルカラー発光ダイオード(LED)を使い、変位量の大きさに応じて光の色を5段階(青、シアン、緑、黄、赤)で変化させ、危険度を作業員へ認識させることができる装置である。対象斜面に設置した任意の2点間に生じる相対変位(伸び)に対応し、LEDの光の色を変化させる仕組みで、例えば、普段は青色に設定し、変位が大きくなり危険度が高まるにつれて赤色に変化する。また、トンネル坑口部において斜面のLEDと同調させた観測用のLEDを設置することで、昼間の見にくい時間帯にも確実に判断できるように工夫した。
本工法の特徴は、以下の通りである。

おわりに

今回、北関東自動車道佐野東工事(出流原(いずるはら)トンネル:仮称)鴻池組・本間組・矢作建設工業特定建設工事共同企業体において、斜面用の「光る変位計」を長大法面に近接する山岳トンネル坑口部に適用した。
本工事はトンネル坑口部に長大法面が近接し、斜面安定対策として法枠工やアンカー工が施工されていた。トンネルの施工では長大法面の法尻を並行に掘削するため、掘削時の緩みに伴う斜面への悪影響が懸念されていた。平成21年4月末現在、トンネルの施工は、上り線L=279mのうちL=127mの掘削を完了している。今後は計測結果との相関や有効な設置パターン(位置、長さ、ピッチなど)の検討を進め、坑口斜面の安全確保に努める所存である。鴻池組では今後も実現場での適用事例を増やし、計測結果見える化プロジェクトを推進していく予定である。