山岳トンネル現場での計測結果見える化プロジェクトに「光る変位計」を適用

2009年02月24日  リリース[トンネル・シールド]

株式会社 鴻池組

はじめに

株式会社鴻池組(本社 大阪市、社長 蔦田守弘)は、山岳トンネル工事における安全管理技術を整備し、「計測結果見える化プロジェクト」を推進するために、神戸大学と北斗電子工業株式会社が共同で開発している「光る変位計」を国内で初めて山岳トンネル工事(北海道横断自動車道穂別トンネル西工事)に適用した。
「光る変位計」は平成18年度から神戸大学大学院工学研究科市民工学専攻芥川研究室で開発が着手され、科学技術振興機構(JST)の支援などを受けて北斗電子工業株式会社(本社 西宮市、社長 中野浩一)と共同で開発が進められている、新しいコンセプトに基づく「変位計測+結果表示」装置である(特許出願中)。従来の計測装置と異なり、この変位計にはLEDが装着されており、動きを感知したその瞬間に、その大きさに応じて異なる光の色を発するため、工事現場などにおける周辺地盤の安全度、危険度をリアルタイムで光の色にして表示することができる。
一般に、トンネルの標準工法であるNATMでは、掘削時に10~30mごとに変位計測を行いながら施工を進めていくが、最も危険性の高い切羽での掘削直後の初期変位を確認することにより、切羽作業の安全性の向上を図ることができる。

開発背景

トンネルの標準工法であるNATMでは、切羽作業の制約から、支保構築後に測点を設け、地山の性状に応じて10~30m間隔で変位(天端沈下、内空変位)計測を行いながら施工を進めていくのが一般的であるが、初期変位の確認には施工上時間的に遅れが生じ、以下のような課題がある。

  1. 脆弱な地山では、初期に大きな変形を生じ地山崩壊に至る懸念もあるが、掘削作業の制約により、測点の設置時期が支保構築後でないとできない。
  2. 計測結果の評価は、計測担当者が現場で測定した変位データを事務所において処理する必要があるため、掘削後の変化は作業員が切羽で判断できない。
  3. 測点の設置および計測作業は、トンネルの掘削作業に制約される場合が多い。

そこで、当社の得意分野の一つである山岳トンネルに関するこれまでの豊富な施工実績と技術力を背景に、トンネル作業時の安全対策の一貫として、神戸大学、北斗電子工業株式会社と共同で計測結果見える化プロジェクトに取り組んできた。

工法概要

今回、現場に適用した「光る変位計」は五色に変わる発光ダイオード(LED)を使い、変位量の大きさに応じて色を変化させ、危険度を作業員へ認識させることができる装置である。トンネルの変形(縮み)に対して十分な硬さを持ったケーブルに10cm間隔でLEDを取り付け、バネの長さの変化をLEDの光の色に変換する仕組みで、例えば、普段は青色に設定し、変位が大きくなり危険度が高まるにつれて赤色に変化する。
なお、検測部のバネの変形能力を変化させることで測定範囲を変えることができ、初期の設置状況により伸び、縮みどちらの変位に対しても色を変化させることができる。
本工法の特徴は、以下のとおりである。

おわりに

今回、北海道横断自動車道穂別トンネル西工事(鴻池・飛島特定工事共同企業体)において、「光る変位計」を国内で初めて山岳トンネル工事に適用した。
本工事は土被り300mを越える大土被りで対象となる地山は蛇紋岩という大変形を生じやすい地山であるため、大規模な補助工法の採用と変位量に基づく最善管理型二重支保の導入が実施されており、作業時の安全確保が重要な課題であった。今回の「光る変位計」の適用によりこれまで困難であった掘削直後の地山の変化(初期変位)を目視で確認でき、作業時の安全性の向上に役立っている。
平成21年1月末現在、トンネルの施工はL=1,295mの掘削を完了し、現在、蛇紋岩区間をトンネル安定のための補助工法を駆使しながら掘進中である(蛇紋岩区間L=108m完了)。
今後は計測結果との相関や有効な設置パターン(位置、長さ、ピッチなど)の検討を進め、切羽の安全確保に努めていく。なお、「光る変位計」は、支保変状部分の安全確認、トンネル坑口斜面の変形や地表面沈下の把握にも応用可能と考えられることから、当社では今後も実現場での適用事例を増やし、計測結果見える化プロジェクトを推進していく予定である。