トンネル覆工コンクリートの高品質、高耐久性を確保するための新しい養生技術 「温度制御噴霧式覆工コンクリート湿潤養生工法(K-tics)」を国内初の現場適用

2007年09月25日  リリース[コンクリート トンネル・シールド]

株式会社 鴻池組

はじめに

株式会社鴻池組(本社大阪市 社長 玉井啓悦)は、新設トンネル建設時の覆工コンクリートを一定期間、湿潤養生し、その強度増進をはかることによる品質、耐久性の向上が得られる新しいコンクリートの養生方法として「温度制御噴霧式覆工コンクリート湿潤養生工法(K-tics)」を開発し(特許出願中)、国内で初めて島根県発注"一般国道488号長沢バイパス改築(改良)(仮称)長沢1号トンネル工事:(株)鴻池組・大畑建設(株)・(株)原工務所 特別共同企業体"に適用し稼働中である。
本工法は、型枠脱枠後、移動式の養生台車を据え付けることにより、コンクリートを一定期間、湿潤状態に養生できるように工夫した工法である。養生台車には遮水シートおよび端部締め切り用の空気充填膜が取り付けてあり、コンクリートとの間に30~60cm程度の密閉された養生空間を確保することができる。養生空間に粒形45~60μm程度の微粒の霧を発生させることにより湿度90~100%の湿潤状態を維持できる。また、温度感知センサーにより養生温度を制御し最適な養生状態を保持する。
道路、鉄道、水路、電気ガス等の管路など山岳トンネル、シールドトンネル、開削トンネルなど、これまでコンクリートの養生が不十分であった構造物において、本工法を適用することで温度を制御した湿潤養生が可能となり、コンクリート強度の増進と表面のひび割れ発生の抑制による品質、耐久性の向上効果が得られる。従来の散水方式の養生とは異なりコンクリートの発熱状況に合わせて温度制御を行うことでコンクリートの急激な温度変化を抑制可能である。微粒の霧発生のための使用水量(120リットル/時間)はわずかであり、特別な排水処理は必要としない。また、必要水量が少ないため加温設備には電力を用い、トンネル坑内での火気の使用は不要であり、火災や燃焼排ガスの問題がない。打設するコンクリートの条件等により事前に温度応力解析を実施し、最適な養生温度を求め、温度感知センサーによる測定データと合わせて養生空間をコントロールすることで最良な湿潤養生を実現できる大きな特徴をもつ。

開発背景

近年の公共投資の縮減を受けトンネルを含むコンクリート構造物(社会インフラ)のライフサイクルコスト(維持管理、修繕更新費用)の低減、長寿延命化が強く求められるようになり、構造物の重要な構成要素であるコンクリートの高品質化、高耐久性化が従来以上に求められるようになってきている。一方、覆工コンクリートの剥落事故等をうけ、既設のトンネルはもとより新設トンネルの覆工コンクリートに対しても、ひび割れ等の変状発生、充填不足による空洞発生等の施工不良などの欠陥に対しては、供用後に重大な事故発生の要因となる懸念があり、工事完了時の調査確認、補修などが必要となっている。
これまでトンネル新設時のコンクリートについては、トンネル坑内環境の特殊性(坑内温度一定、高湿度状態)により特別な養生は必要ないとされ、経済性や工期の問題から、コンクリート打設後24時間以内での早期型枠脱枠が一般に施工されてきた。
しかしながら、近年のトンネル坑内作業環境の改善の見直し安全配慮により大容量の換気設備の導入やトンネル掘削と覆工作業の輻輳作業解消のための早期の貫通等により、覆工コンクリート養生状態の悪化(通風による急激な温度変化、乾燥)が生じている。
このような状況を改善するためコンクリートの養生手法として最近、技術開発が進められ、(1)覆工面の密閉養生方法や(2)乾燥収縮低減剤等の膜養生材の表面への撒布、塗布といった工法が実用化されている。
これらの工法はいずれもコンクリート表面からの水分の蒸散を防ぎ乾燥収縮の低減を主目的としたものであり、水和作用を積極的に促進するものではない。
そこで鴻池組の得意分野の一つである山岳トンネル、コンクリート分野に関するこれまでの豊富な施工実績と技術力を背景に、コンクリートの水和反応を積極的に促進し強度の増進を図り、耐久性の向上を図る新しい養生技術の開発を進めてきた。

工法概要

鴻池組が開発し長沢1号トンネルへ適用した今回の技術は、事前の温度応力解析による最適な養生温度曲線の設定と温度感知センサーによる測定データと合わせて最適な湿潤養生を実現できるという大きな特長をもつ。
トンネルの覆工セントルの後方に3スパン相当の養生台車を後続させ、型枠脱枠後速やかに湿潤養生を開始することが可能であり、噴霧水の温度制御システムによりコンクリートへの急激な温度変化等の影響を与えることなく連続的な水和反応の持続を維持できる。
また、当社技術研究所におけるコンクリート養生状態の違いによる強度発現の検証等の要素試験や土木技術部門における数値シミュレーションにおいても初期・長期強度の増進が確認され、耐久性の向上、乾燥収縮の抑制作用効果によるひび割れ発生確率の低減が期待される。
最適養生温度等の条件設定には、トンネルの設計・施工、およびトンネル施工時の品質管理といった調査~設計~施工に関わる総合技術力が求められるが、鴻池組のこれまでの豊富な実績に裏付けされた技術力により実現が可能となったものである。
本工法の適用によって得られる効果は以下のとおりである。

おわりに

今回開発した工法は、これまで養生が不十分であったトンネルの覆工コンクリートにおいて合理的、かつ最適な養生の実施が可能となり、高品質、高耐久性の覆工コンクリートの施工を実現できるものである。また、本工法は他のコンクリート構造物への適用も容易であり、今後の建設される社会資本のライフサイクルコスト(維持管理、修繕更新費用)の低減、長寿延命化に貢献できるものである。(株)鴻池組としては、今後、同工法の普及と受注に向けて、全国的に営業展開を進めていく予定である。

一般国道488号長沢バイパス改築(改良)(仮称)長沢1号トンネル工事

(株)鴻池組・大畑建設(株)・(株)原工務所 特別共同企業体