技術広報誌ET

技術広報誌ET 2024年発刊号

大規模駅前再開発における設計・施工上の工夫

512号(2024年1月1日) 武蔵浦和駅前計画 東京本店 工事事務所 有馬 誠・松浦 宏樹 / 設計本部 村上 雅子・田中 逸郎

はじめに

当プロジェクトは、埼玉県のJR武蔵浦和駅前に集合住宅、商業施設、事務所、駅前公共通路および屋上庭園などからなる多機能複合施設を建設するものです。武蔵浦和駅周辺は30年以上前から大規模マンションの開発が行われており、当該地が最後の1ピースで最も駅に近い敷地となっています。
ここでは建物概要を紹介し、設計・施工上の工夫として、地下躯体の一体化、すべり支承の採用、タワークレーンの解体方法、および複雑な建物構成に対応するためのBIM活用について報告します。

建物概要

当建物は、地上19階・地下1階(RC造)の住宅棟2棟、地上5階・地下1階(S造)の商業棟、地上4階(S造)の事務所棟、およびエレベーターパーキング棟(S造)の計5棟から構成されています。住宅棟と商業棟は基礎から地下1階までは一体の構造で、地上部で3棟に分かれています。また、地上3階レベルで駅前のペデストリアンデッキと直結した公共通路が住宅棟と商業棟の間を通り抜けます。公共通路からは、商業施設や屋上庭園、住宅のメインエントランス、事務所ビルへアクセスでき、居住者の利便性だけでなく、駅前街区の賑わいに多層的な広がりを提供する計画となっています(図-1)。

図-1 完成予想図

図-1 完成予想図

環境への取り組み

住宅棟は建物の省エネ性能と快適な生活環境の実現のために「ZEH-M Oriented」を目指して設計され、集合住宅の省CO2化促進事業(環境省)のうち「高層ZEH-M支援事業」の対象となっています。特に住戸全体に床空調システムを導入し、24時間365日、住戸の隅々まで換気しながら住戸全体を快適な温度に保つ「床快full(ゆかいふる)」(図-2)の採用が特徴的です。また、敷地内、敷地外周の緑化に配慮し、入居者だけでなく周辺地域にも環境面で配慮した高層集合住宅となっています。

図-2 床快fullの概要(野村不動産HPより)

図-2 床快fullの概要(野村不動産HPより)

構造計画における工夫

○地下躯体の一体化
エレベーターパーキングを除く4棟については、地上部分で屋外通路等を介して往来ができ、各棟間の接続部分にエキスパンションジョイントを設けることで構造上分離しています。一方、地下部分には商業棟関連の店舗用駐車場および設備諸室、住宅棟関連の住宅用機械式駐車ピットおよび設備諸室が計画されているため、これら諸室を配置する上で棟ごとに地下階を分離することは問題が多いと判断し、住宅棟および商業棟の地下躯体(1階床より下部)を一体化しました(図-3、4)。

図-3 一体化された地下躯体

図-3 一体化された地下躯体

○すべり支承の採用
商業棟3階には公共通路が計画されており、住宅棟のメインエントランスは公共通路を介してアプローチする計画としています。公共通路において商業棟と住宅棟の床接続部分はエキスパンションジョイントを配置しています。公共通路下部の物販店舗は、レイアウトの都合上柱配置に制約があり、住宅棟の間際に公共通路を支持する柱を設けることが困難でした。対応策として公共通路を支持する大梁の一端を住宅棟と接続することで、この荷重を住宅棟が支える計画としました。なお、接続部分については、地震時に生じる各棟の水平方向の動きを止めずに鉛直荷重を支持できる「すべり支承(ピラーユニトン支承)」を採用しています(図-5)。

図-4 断面図(抜粋)とすべり支承位置

図-4 断面図(抜粋)とすべり支承位置

図-5 すべり支承の取付位置

図-5 すべり支承の取付位置

施工における工夫

当工事は敷地上の制約が多く、足場や揚重機など仮設物に関する工夫が必要でした。一例として、建物内部に設置したタワークレーン2基の解体方法について紹介します。

<第一段階:1号機を2号機で解体>
①地上には長さ30mのジブを降ろす場所がないため、住宅棟(B棟)屋上に仮置き、4分割して地上に降ろし搬出
②運転台、旋回フレームなど本体部分を順次解体、マスト2本、サポート1段を解体(写真-1)
③マスト9本、サポート2段と台座を外して1号機解体を完了
④1号機台座下の基礎杭を撤去、1階床仮設開口部にコンクリート打設

<第二段階:2号機を85tラフタークレーンで解体>
①本体をマスト1本分クライミングダウン、自機でマスト1本を解体。同様な手順を繰り返し、本体をマスト残り2本まで降下(写真-2)
②解体用にラフタークレーンを2号機の横に配置。作業半径の関係からジブを水平にして解体できないため、縦吊りで3分割にしてジブを解体(写真-3)
③運転台、旋回フレーム、昇降フレーム等の本体部分を解体後、残りのマスト2本と台座を外して2号機の解体を完了
④タワークレーンを設置していた仮設開口部の鉄骨建方、躯体工事、仕上げ工事を実施

写真-1 2号機による1号機の解体状況

写真-1 2号機による1号機の解体状況

写真-2 2号機のクライミングダウン

写真-2 2号機のクライミングダウン

写真-3 2号機ジブの縦吊り解体

写真-3 2号機ジブの縦吊り解体

BIMを活用した施工

建物概要で紹介したとおり、当建物は用途や構造種別が異なる5棟の建物が複雑に取り合う構成となっています。これらの納まりを事前に検討し、手戻りのない施工を行うため、施工計画において各種BIMモデルを活用したチェックを行っています。下記に事例を示しますが、詳細な納まりを工事関係者で確認することにより、問題を事前に予測し解決することができました。

①配筋モデルによる基礎梁交差部分の納まりやスリーブ取合いなどの干渉チェック(図-6)
②同じく配筋モデルから作成した2次元の平面図による柱・梁鉄筋の位置出し(図-7)
③躯体および設備モデルを用いた躯体と配管類の干渉、メンテスペースの確認(図-8)
④仮設モデルによる足場の納まり、揚重計画および鉄骨建方計画の確認(図-9)

図-6 基礎配筋とスリーブの納まり検討

図-6 基礎配筋とスリーブの納まり検討

図-7 基礎配筋平面図

図-7 基礎配筋平面図

図-8 地下1階設備取合いの検証

図-8 地下1階設備取合いの検証

図-9 足場ブラケットの計画

図-9 足場ブラケットの計画

おわりに

当建物の商業施設屋上には緑豊かな広場が配置されています。利用する方々が楽しく、リラックスして過ごすことのできる施設の完成を目指し、竣工まで安全第一で工事を進めてまいります。

工事概要

工事名称 (仮称)武蔵浦和駅前計画新築工事
工事場所 埼玉県さいたま市南区沼影1丁目8
発注 野村不動産(株)、(株)ジェイアール東日本都市開発
設計・監理 (株)アルク設計(意匠:実施設計)、
(株)IAO竹田設計(意匠:基本設計・監理、電気設備:設計・監理)、
(株)鴻池組(構造:設計・監理)
施工 鴻池・植木特定建設工事共同企業体
工期 2021年3月~2024年5月
用途 共同住宅(277戸)・物品販売店舗・事務所・飲食店
構造・規模 RC造 地下1階/地上19階 S造 地下1階/地上5階
建築面積4,927.06㎥ 延床面積37,073.56㎥

512号(2024年1月1日)の記事

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