京王線の笹塚駅から仙川駅間の約7.2㎞の区間では、道路と鉄道との連続立体交差事業を行っています。この事業を行うことで、25箇所の踏切がなくなり、交通の円滑化、安全性の向上、地域の一体化が図られます。当工事は、連続立体交差事業に先立ち、上北沢駅から八幡山駅間の高架化工事で支障となる下水道管(北沢幹線)を移設する工事で、推進工法により下水道管(φ2,400mm)を新設しました(図-1)。
図-1 北沢幹線移設概要図
世田谷区立上北沢公園の一部を工事用地として、発進立坑:TNo.1を構築し、その西側約250m区間を泥土圧推進工法で、東側約12m区間を刃口推進工法で施工しました(図-2)。推進路線は、京王線の南側を並走する付替道路下となっており、泥土圧推進の到達は既に高架化されている八幡山駅東端の交差点部の立坑:TNo.2 (写真-1)に、刃口推進の到達は道路の曲線部の立坑:TNo.3に計画されていました。TNo.2は、既設橋脚基礎との離隔が約8mの位置にあるため、京王線施設への影響が懸念されました。また、到達部は路面覆工を設置しての夜間施工となり、施工時の騒音対策や交通安全対策が課題でした。
図-2 路線概要図
写真-1 八幡山駅東端の交差点部(TNo.2)
到達立坑:TNo.2(深さ約9m)の既設橋脚に対する近接影響について、鉄道総合技術研究所「都市部鉄道構造物の近接施工対策マニュアル」に準じて判定した結果、要注意範囲となりました(図-3)。弾塑性解析による土留め壁の水平変位量は、土留め壁頭部では1次掘削時に、中間部では2次掘削時に、それぞれ40mmを超える水平変位の発生が予測されたことから、立坑掘削に伴う既設橋脚および軌道への影響が懸念されました。土留め壁水平変位を低減させるため、以下の対策を実施しました(図-4)。
①路面覆工の桁受桁と覆工受桁を固定接合、覆工受桁のない短辺側に追加鋼材(H形鋼)、これらを0段梁として設置
②2段梁の下面に高圧噴射撹拌工法による先行地中梁(厚さ1.5m)を設置
①、②の対策により、土留め壁頭部・中間部の支保効果を高めることができました。近接する鉄道施設の自動計測を実施しましたが、変位を管理値(4mm)以下に抑えながら施工を完了することができました。
図-3 立坑掘削による影響範囲
図-4 到達立坑断面図
泥土圧推進の到達立坑:TNo.2は、南側が都立中部総合精神保健福祉センターと都立松沢病院に面している丁字交差点部に位置します。北側は閑静な住宅地であり、夜間工事による騒音が高架下道路より北側へ抜けることを防ぎつつ、交通規制時も歩行者・自転車の通行を確保する必要がありました。このため、騒音対策として、高架両側に吸遮音設備を設置しました(写真-2)。交通規制後に、ローリングタワー足場で高架から吸遮音パネルを吊り下げました。歩行者・自転車が来た際は、高架の南北両側に配置した交通誘導員がパネルをめくって通行してもらいました。作業終了時には、パネルを外して交通解放します。その他にも、発電機等騒音源になるものを防音シートで覆う対策を行いました。これらにより、工事で発生する騒音を10~15dB低減できました。
写真-2 高架橋下防音対策
刃口推進の到達立坑:TNo.3の工事用地は道路の曲線部に面していました。工事用地外周の仮囲いが通行車両の運転者の視界を遮り、カーブ先の横断歩道で交通災害が発生する危険性がありました。駅に向かって急いで横断する歩行者もいるため、運転者は横断者や対向車を、横断する歩行者はカーブ先の車両をいち早く確認できるよう、カーブ区間約30mの仮囲いを透明パネルとしました(写真-3)。併せて交通誘導員を常時配置して、交通安全の確保に努めました。
写真-3 曲線道路交通対策
泥土圧推進は、2021年6月から施工を行い、同年12月に到達しました。また刃口推進は、2022年9月に施工を完了しました(写真-4、5)。当工事は鉄道駅周辺部での工事であり、近隣の方や駅を利用する方、鉄道工事の関係者など、多くの方に配慮が必要となります。連続立体交差事業に伴う工事は、今後も多く計画されているため、これらの方々には長期間にわたり、ご迷惑をお掛けすることとなります。当工事では発進立坑周辺の歩道と上北沢公園の一斉清掃や仮囲いへのイラスト掲示など、工事のイメージアップを心掛けて施工を行ってきました。今後も、工事の影響を少なくするため、様々な工夫を行って施工していきたいと思います。
写真-4 泥土圧推進到達状況
写真-5 刃口推進掘削状況
工事名称 | 【受託工事】 北沢幹線整備工事 |
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工事場所 | 東京都世田谷区上北沢2丁目 |
発注者 | 京王電鉄(株)(東京都下水道局との協定に基づく発注) |
施工者 | 鴻池・竹中土木建設工事共同企業体 |
工期 | 2020年10月~2022年12月 |
工事内容 | 下水道本管(内径φ2,400㎜)移設 ・泥土圧式推進 φ2,400㎜ L=250.3m ・刃口推進 φ2,400㎜ L=12.5m ・小口径推進 φ400㎜ L=3.4m ・特殊人孔築造 N=3基 |