国指定史跡『名越切通』大切岸を保存整備
-古都鎌倉の史跡保存-

2013年04月18日  リリース[その他]

神奈川県逗子市久木地内に所在する国指定史跡『名越切通』大切岸は、鎌倉時代の造成以来、数百年におよぶ歳月により風化が進み、崖面の一部が崩落するなど周辺へ危害を及ぼすこととなったため、早急な再発防止対策が求められました。
株式会社鴻池組(本社 大阪市、代表取締役社長 蔦田守弘)では、平成16年度に行った第一切通保存工事の経験と、これまで多くの文化財保存修復業務で培った技術を融合させ、名越切通大切岸の保存整備を行い、平成25年3月10日に竣工しました。

●『名越切通』
『名越切通(なごえきりどおし)』は、源頼朝により切り開かれた中世都市「鎌倉」に通ずる七つの「切通」の中でも、往時のたたずまいを最も感じることのできる遺跡です。国の史跡に指定されている範囲には、大切岸の他に、平成16年度に鴻池組が保存工事を行った『第一切通』を含む「切通路」や、納骨や供養を目的に150穴以上も岩穴が確認されている「まんだら堂やぐら群」などがあります。大切岸は、高さ3~10mの断崖が800m以上にも連なる遺構で、往時の石切り作業により掘り残された地形が、城壁のような要害施設としても活用されたものと考えられていますが、定かではないようです。今回の保存整備工事では、名越切通大切岸の西端部に位置する「法性寺」敷地に隣接する遺構範囲が整備の対象となりました。

●保存整備の概要
大切岸の保存整備は、保存修復と安全対策の2つの目的を持った工事です。
保存修復では、高さ約8m、長さ約20mにおよぶ垂直崖面と大小2つの岩穴が連なったやぐらを、岩質強化処理により風化作用を軽減する処置を行ない、さらに亀裂の開口によりせり出した岩塊(高さ6m、幅1~2m、厚さ1m程度)を、亀裂充填により補強しました。
安全対策では、高さ8m以上の崖面に堆積した不安定土砂と、亀裂の発達、根の侵入により落石が懸念される箇所に、樹脂ネットやロープ掛による崩落防止対策を行いました。
特に、火山礫凝灰岩、凝灰質砂岩よりなる崖面とやぐらは、表層から深さ5㎝まで著しく風化が進んでいるため、珪酸質系の基質強化剤の含浸処理を行いました。また、侵食により大きく凹んだやぐら柱部と亀裂部の充填箇所は、整備検討会の委員による助言・指導の下、逗子市と設計・施工監理を行った応用地質株式会社と協議を重ね、施工により景観が損なわれないように、数種類の擬土材料を配合して地層の模様を再現するとともに、隣接する母岩と同様に風化が進むよう、強度を調整した材料を塗り重ねる擬土処理を行いました。
逗子市では、平成25年度も引き続き大切岸の残された範囲の整備を行う予定で、短・中・長期にわたり段階的に『名越切通』の整備を行っていく計画です。

鴻池組では、これからも様々な歴史的文化遺産の保存・修復の一助となるように努めていきたいと考えています。