技術広報誌ET

技術広報誌ET 2018年発刊号

被災家屋解体廃棄物等の
適正処理とリサイクル

491号(2018年10月01日) 熊本地震に伴う被災家屋解体廃棄物等処理業務委託 九州支店 工事事務所 角矢 佳浩 / 技術本部 環境エンジニアリング部 花木 陽人

はじめに

平成28年熊本地震により、熊本市においては多数の家屋が倒壊するなど甚大な被害がありました。熊本市では平成28年7月から被災家屋等の公費解体を開始し、これに伴って熊本市内で発生する被災家屋解体廃棄物(以下、解体廃棄物)を含む災害廃棄物総量は平成29年6月時点で約148万tと推定されました。当業務は、このうち83万tの解体廃棄物について、解体現場から鴻池組を含む連合体が管理・運営する市内6カ所の仮置場で受け入れ、処理するものです(図-1)。解体廃棄物は、適切な中間処理を行い、熊本県内をはじめとした全国のリサイクル施設もしくは最終処分場へ搬出しました。

ここでは、熊本市の早期復旧・復興に向けて、解体廃棄物を適正かつ円滑・迅速にリサイクル・処分するために確立した処理体系について紹介します

 図-1 熊本市内各仮置場位置図

図-1 熊本市内各仮置場位置図

解体廃棄物の分別・運搬ルール

当初予定数量の83万tもの解体廃棄物を委託期間内に適切に受入・中間処理するためには、被災家屋の解体作業をより促進する必要がありました。そのため、解体現場において実行しやすく、かつ、受入れ先である各仮置場においても中間処理が容易になるような分別ルールを、「熊本市」、熊本市発注の公費解体の受託者である「一般社団法人熊本県解体工事業協会」、および連合体の3者により協議し、図-2に示すように定めました。これらの分別ルールの徹底により、被災家屋の解体から各仮置場における中間処理・搬出を円滑に行うことができました。

図-2 解体廃棄物の分別ルール

図-2 解体廃棄物の分別ルール

各仮置場での中間処理

①木くずの中間処理

木くずは破砕してチップにした後、バイオマス発電燃料、セメント原燃料、ボード材原料等としてリサイクルしました。しかし、各リサイクル施設によって受け入れるチップの大きさが異なるためそれぞれの条件に合わせて破砕方法を変える必要がありました。受入条件が300mm以下のものについては粗破砕機による一次破砕のみ行いました。受入条件が50mm以下のものについては粗破砕機による一次破砕の後、破砕機による二次破砕を行うか、もしくは破砕機による破砕後、分級機により50mm以下を選別し、50mmを超過したものについては再度破砕を行いました。また、一部の木くずについては現場内での破砕は行わず、直接搬出しました(図-3、写真-1、2)。

写真-1 仮設テント

写真-1 仮設テント

写真-2 粗破砕機と破砕機による木くず破砕状況

写真-2 粗破砕機と破砕機による木くず破砕状況

図-3 木くずの処理フロー

図-3 木くずの処理フロー

②畳の中間処理

ほとんどの畳はセメント原燃料としてリサイクルしますが、そのままの形状ではセメント工場の燃焼炉に投入できないため、仮置場にて破砕機で破砕しました。しかし、畳を破砕するとかさが増えて(かさ比重が低下)運搬効率が低下することから、破砕した畳は圧縮梱包機により約1m角に圧縮梱包し、破砕前とほぼ同じかさ比重にしました。また、圧縮梱包することで臭気の拡散と破砕物の飛散を同時に防止しました(写真-3)。

写真-3 破砕後の畳の圧縮梱包物

写真-3 破砕後の畳の圧縮梱包物

③解体残さの中間処理

解体残さとは、解体現場において最終的に発生する分別困難な細かい廃棄物を、家屋基礎下部の土壌とともに回収したものです。本来であればこれらは管理型埋立による最終処分となりますが、品目ごとに適切に分別することで回収物をリサイクルすることができます。

解体残さのうち、大きさが300mmを超過するものについては重機と手選別により品目ごとに分別しました。300mm以下のものは生石灰を混合することにより含水率を低下させ、選別しやすい性状に改質した後、一次分別として振動スクリーンに投入しました。40mm以下のものはふるい下残さとして主にセメント原燃料としてリサイクルしました。100mm超過のものは重機と手選別により品目ごとに分別しました。40~100mmのものは磁力・風力選別機により二次分別を行い、重量物と軽量物に分け、それぞれ手選別ベルトコンベアに移送し、手選別により品目ごとに分別しました(図-4、写真-4、5)。

 図-4 解体残さの処理フロー

図-4 解体残さの処理フロー

写真-4 解体残さ選別設備

写真-4 解体残さ選別設備

写真-5 解体残さの手選別状況

写真-5 解体残さの手選別状況

④石膏ボードの中間処理

石膏ボードは石綿含有が疑われる建材として品目名と管理番号が記載された大型土のう袋に梱包された状態で仮置場に搬入されていました。石膏ボードは当初、管理型埋立による最終処分を計画していましたが、想定より数量が多かったこともあり、石綿が含有されていないことが確認されたものについてはリサイクルを行うこととしました。

石綿が使用されていた石膏ボードは一部の時期に製造された製品に限られていたため、解体建物の建築時期から勘案し、石綿非含有石膏ボードが梱包されていると考えられる大型土のう袋を仮置場にて開封し、製品名・防火材料認定番号を確認して選別しました。石綿非含有石膏ボードであることや不純物が混入していないことが確認されたものについては外部の破砕施設へと搬出し、最終的にはセメント原料や再び石膏ボードへとリサイクルしました。石綿含有石膏ボードや石綿非含有と判断できなかったもの、不純物の混入が認められたものについては管理型処分場へと搬出し、最終処分しました。

⑤粘土瓦の中間処理

粘土瓦は当初、安定型埋立処分としていましたが、平成29年4月から熊本県内で粘土瓦の再利用が開始されたことを受け、民間のコンクリートがら中間処理施設に搬出、破砕し、再生砕石に適量混合することにより再生砕石としてリサイクルしました。なお、粘土瓦混じりの再生砕石は強度試験等を実施し、品質に問題がないことを確認しました。

解体廃棄物の広域処理

当業務では、膨大な量の解体廃棄物をリサイクル・処分するため、熊本県内のリサイクル・処分施設をはじめ、全国約80ヶ所の施設に中間処理後物を搬出しました。その内訳は、約4割が熊本県内、約3割が熊本県を除く九州内、約3割が九州を除く全国の施設でした。搬出方法については大型トラック等による陸送に加え、コンテナによる鉄道輸送、船舶による海上輸送など多岐にわたりました。

おわりに

これらの取組みにより、平成28年12月下旬の受入開始から平成30年6月30日の受入・処理終了までの約19ヶ月間で約98.1万tの中間処理を完了し、リサイクル率は75.7%となりました(表-1)。今後は、本業務委託で得られた知見や経験を積極的に公表することで自然災害対応への技術継承を図るとともに、今後はAI搭載分別システムの開発により、さらなる分別精度の高度化と省人化を目指します。

表-1 中間処理後物の品目別重量および重量比率

表-1 中間処理後物の品目別重量および重量比率

工事概要

工事名称 熊本地震に伴う被災家屋解体廃棄物等処理業務委託
工事場所 熊本県熊本市東区戸島町1489 他
委託者 熊本県熊本市
受託者 鴻池組・前田産業・前田環境クリーン・九州産交運輸・味岡建設連合体
業務委託期間 平年28年12月~平成30年8月
工事概要 業務範囲:
① 管理・運営
② 各仮置場の整備
③ 各仮置場における解体廃棄物の受入・保管、破砕・選別等
④ 各仮置場に保管した廃棄物の運搬・処分等
⑤ 環境保全

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