「南海本線(堺市)連続立体交差事業」は、南海本線の石津川~羽衣間の約2.7kmにおける連続立体交差事業です。そのうち当工事は、石津川駅から諏訪ノ森駅の間に位置する石津町西~浜寺諏訪森町西までの区間を施工するもので、平成28年4月より工事着手しました。石津川左岸護岸から約290mの区間を仮線高架工法によって高架化するため、石津川横断部については、供用中の石津川橋梁の西側に仮橋梁(約90m)を架設する必要がありました(写真-1)。ここでは、河川内および営業線近接下での作業における施工計画、問題点の事前抽出を目的として、3次元モデルを活用した事例について紹介します。
写真-1 工事箇所航空写真
仮橋梁の組立は、当初設計では仮線計画位置にて直接行うことになっていました。営業線近接作業となるほか、河川内作業となるため、鉄道営業終了後の夜間、かつ渇水期施工となるため、工程的に厳しい状況でした。工期短縮および列車運行支障のリスク低減のため、仮線計画位置から8m離れた箇所に設置した仮ベント上で仮橋梁の組立を行い、横取り架設する方法を採用しました(図-1)。
図-1 仮橋梁架設概要モデル図
複雑な仮橋梁架設の施工手順について、関係者間で情報共有を図るため、3次元モデルを活用しました。3次元モデルの作成に先立ち、現況モデルを作成するためレーザースキャナーによる測量を実施しました。得られた現況の点群データに、仮橋梁、橋台および仮設構造物などのモデルを統合して3次元モデルを作成しました。
この3次元モデルを用いて、施工シミュレーションを行い、発注者や行政との協議、作業員への施工手順の周知などに活用しました。
①仮橋梁組立手順の詳細検討
難波方の橋門構は、河川内に設置した作業構台上の揚重機からは施工できず、右岸側の狭い施工ヤードに揚重機を設置しなければなりませんでした。そのため、下弦材が片側のみ設置されている状態で組み立てる必要がありました(図-2)。この際の仮橋梁の施工段階ごとの安定性およびあと施工部材の施工性について、3次元モデルを用いて事前に検証し、最適な組立手順を検討しました。また、各施工段階における仮設材や重機と仮橋梁との干渉を確認し、作業に最適な機材および配置の検討にも活用しました。
図-2 難波方の橋門構の施工モデル
②運転士の心理的圧迫感の緩和
仮橋梁横取り作業は、1回の夜間作業で完了させることになっていました。架設後は、運転士から見える状況が前日と比べて大きく変化するため、心理的に圧迫感を与える恐れがありました。そのため、事前に運転士から見た横取り架設前後の状況を3次元モデルでシミュレートし、運転士に確認してもらうことで、架設後のイメージを周知し、心理的圧迫感の緩和に活用しました(図-3、写真-2)。
図-3 運転士から見た横取り架設前後の仮橋梁モデル
写真‐2 横取り架設後の列車イメージ
③上弦材設置時の仮設計画
上弦材設置時は、縦桁上に昇降用の移動足場を設置しました。移動足場には安全設備として逸走防止装置およびアウトリガーが取り付けられています(図-4)。移動式足場の使用状況を事前に3次元モデルで確認することで、イメージを発注者・施工者間で安全性に関する情報共有を図り、円滑な施工前協議を行うことができました。
図‐2 移動式足場の3次元モデル
写真-3 完了写真
3次元モデルの導入により、施工の各段階での様々な詳細検討が可能となりました。また、発注者協議において、施工イメージを共有することで、協議を円滑に進めることができました。ここで紹介した事例は、安全性および施工性に主眼を置いており、今後の仮線構築や高架躯体構築においても引き続き3次元モデルを活用し、施工データなどの属性情報を付与するなど、CIM(Construction Information Modeling)による生産性向上を図っていく予定です。CIMモデル利活用による現場での成功体験を増やしていくことが、建設現場の生産性向上に大きく貢献するものと考えます。
工事名称 | 南海本線(堺市)連続立体交差事業に伴う土木関係工事(第1工区) |
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工事場所 | 大阪府堺市西区石津町西~浜寺諏訪森町西 |
発注 | 南海電気鉄道(株) |
施工 | 鴻池組・前田建設工業・東洋建設共同企業体 |
工期 | 平成28年4月~平成40年3月(予定) |
工事概要 |
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