技術広報誌ET

技術広報誌ET 2018年発刊号

傾斜地での校舎建替え工事におけるICTの活用

490号(2018年07月01日) 京都造形芸術大学望天館 大阪本店 工事事務所 西岡 政則

はじめに

京都造形芸術大学のキャンパスは、京都市北東部の白川通り沿いの東山三十六峰の一つ、緑豊かな瓜生山の裾野から斜面一帯に位置します。今回の建替え工事前の旧望天館は、キャンパス創設時の1974年に建設された校舎です。工事は老朽化に伴う校舎建替え事業と共に、キャンパス全体のバリアフリー化の促進・構内整備事業として位置付けられています。また、当建物はキャンパスの中心に位置することから、既存建物との高さを考慮し屋上を広場として学生に開放することによりキャンパス環境の向上を図っています(図-1)。

建築計画

当該建物の敷地は四方を既存の建物に囲われ、そのうちの二方向が斜面に面している状況下での施工となっています(図-2)。
建物は鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造が併用され、地下2階、地上2階、塔屋1階というフロア構成です。なお、敷地周辺は風致地区に指定されていることからグレー系を基調とした外観が採用され、建物高さについても高度地区・風致地区のため厳しい制限が設けられています。

図-1 完成予想パース

図-1 完成予想パース

図-2 配置図

図-2 配置図

施工計画上の留意点

新築建物は外見上、土の中に埋まった形態をしており、屋上広場は隣接する既存建物屋上と連続した広場を形成する計画となっています(図-3)。
施工計画に当たっては、周辺地盤との取り合い確認が必要であることに加え、地下掘削・山留工事および躯体工事においては、面により掘削深さが異なることから、既存構築物との取り合い部の検討が重要となります。このような厳しい施工条件下で綿密な施工計画が必要となり、ここにICT(Information and Communication Technology)を活用することで、効率的かつ細部にわたって可視化された計画が可能となりました。

図-3 建物断面
図-3 建物断面

図-3 建物断面

ICTの活用

○3Dレーザースキャナー計測

前述の通り傾斜地での施工および既存建物との取り合いを検討するため、建物周辺を3Dレーザースキャナーにより計測を行いました。従来は測量工が光波測距儀を用いて点計測を行い図面に記録していましたが、この方法では計測点間の情報が点と点を結んだ仮定の情報となってしまいます。今回使用した3Dレーザースキャナーは、従来実現が困難であった大量の点群を短時間で計測することが可能となり、点の計測から面の計測を素早く実現できるようになりました。これにより測量工が2週間程度要した作業が、3Dレーザースキャナーでは2日程度になり、大幅な作業量の削減に繋がりました。

また、起伏の大きい場所、または作業員が立入ることが難しい箇所でも素早く計測できることも大きなメリットとなりました。(写真-1、図-4)。

写真-1 3Dスキャン計測状況

写真-1 3Dスキャン計測状況

図-4 既存状況3Dスキャン計測データ(点群データ)

図-4 既存状況3Dスキャン計測データ(点群データ)

○BIMの活用

周辺の既存構築物との複雑な取り合いを検討するため、設計段階からBIM(Building Information Modeling)によりモデルを作成し、関係者間の合意形成に活用しています。
検討に当っては、前述の3Dレーザースキャナーで計測した点群データとBIMで作成した建物モデル(図-5、図-6)を統合する(図-7)ことにより、既存建物との取り合いの確認および施工手順の検討に活用することができます。作成した統合モデルは、協力会社との打合せに用いることで視覚的に建物のイメージを得ることができ、施工段階での検討をスムーズに行うことができました。

図-5 BIM意匠モデル

図-5 BIM意匠モデル

図-6 BIM構造モデル

図-6 BIM構造モデル

図-7 建物+周辺既存建物BIM統合モデル

図-7 建物+周辺既存建物BIM統合モデル

○3Dプリンター出力による検討

統合したモデルは、会社内に設置された3Dプリンターで模型出力を行いました(写真-2)。この模型は、要所で分割した状態で出力しているため、特に取り合いが複雑な場所を一層立体的に把握することが可能となり、現場での施工検討に有効活用しています(写真-3)。

写真‐2 BIMモデル3Dプリンター出力模型

写真‐2 BIMモデル3Dプリンター出力模型

写真‐3 出力模型を用いた打合せ状況

写真‐3 出力模型を用いた打合せ状況

おわりに

ICTを活用した傾斜地での大学施設の施工検討について報告しました。6月末現在、基礎躯体工事を進めている段階ですが、今後は混合構造(SRC造・RC造・S造)である上部躯体工事を対象に、複雑な鉄骨の建方や躯体構築の手順検討、仕上げ納まり検討や施主へのプレゼン等にBIMやICTを活用することで、無駄のないスマートな管理を行っていきます。

工事概要

工事名称 京都造形芸術大学 望天館建替工事
工事場所 京都府京都市左京区北白川瓜生山町2-116
発注 学校法人瓜生山学園 京都造形芸術大学
設計・監理 (有)ケイ・アソシエイツ
施工 (株)鴻池組
工期 平成29年7月~平成31年4月
主要用途 学校
構造・規模 SRC造・RC造・S造 地下2階 地上2階 塔屋1階
建築面積 1,084.55㎡
延床面積 3,148.59㎡

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490号(2018年07月01日)

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