技術広報誌ET

技術広報誌ET 2018年発刊号

国際空港の滑走路直下を
推進工法で横断

488号(2018年01月01日) 那覇空港滑走路横断ケーブルダクト新設工事 九州支店 工事事務所 島橋 寛・阪部 久敬

はじめに

当工事は、那覇空港の滑走路増設に伴い必要となる電気通信等の幹線ケーブルダクトを供用中の滑走路・誘導路下に推進工法にて敷設するもので、工事は空港制限区域内での施工となります。

工事着工時に実施した現地調査の結果、地盤条件が当初想定された設計条件と異なることが判明しました。ボーリング調査ができない滑走路直下については、地表から2種類の物理探査(表面波探査・微動探査)を実施して浅層部から深層部までの岩盤分布状況を調査しました。その結果、推進路線の地盤は、滑走路近くで岩盤線が大きく落ち込み、泥岩層から軟弱シルト層に変わり、滑走路下で再び泥岩層に戻っていました。さらに、軟弱シルト層部分は戦時中の爆弾到達ラインと干渉しており、不発弾に接触するリスクがあることが判明しました。

そのため、推進工とケーブルダクト管挿入工の施工可能な勾配および曲率半径を考慮し、軟弱シルト層の推進を回避し、強固な泥岩層に合わせたV字線形に推進路線を変更しました(図-2)。

写真-1 滑走路近傍(着陸帯内の中間立坑)での施工状況

写真-1 滑走路近傍(着陸帯内の中間立坑)での施工状況

図-1 工事箇所

図-1 工事箇所

図-2 推進路線縦断図

図-2 推進路線縦断図

固結砂岩が点在する島尻層群泥岩の掘進

推進工法の対象となる地盤は、島尻層群泥岩(沖縄ではクチャと呼ばれる)で、固結砂岩塊(沖縄でニービと呼ばれる粒子の小さい砂岩)が部分的に点在していました。施工にあたり下記の課題がありました。

島尻層群泥岩はN値50以上の硬質土で、固結砂岩も圧縮強度が最大で170N/mm2に達するため、推進機のカッターヘッド外周部にディスクカッターを配置した面盤とし、粘着性の高い泥岩を取り込みやすくするため開口スリットを横長の形状としました(写真-2)。

推進路線前半は砂岩が卓越した地盤でしたが、点在する固結砂岩をローラーカッターで破砕しながら掘進し、発進立坑から中間立坑までの平均日進量は、昼間作業のみで4.0mでした。

中間立坑を通過後、滑走路手前から全面が泥岩層となったため、粘着による面盤取り込み部の閉塞を防止するために、高分子系分散剤や粘土付着防止剤を泥水に添加しました。滑走路直下の泥岩層は昼夜2交替での掘進により、平均日進量4.5mを確保して滑走路直下を無事横断することができました。

写真-2 使用した推進機

写真-2 使用した推進機

滑走路直下の長距離推進工

当該推進路線は滑走路・誘導路下であるため、速やかに掘進・通過することが求められ、直下での掘進停止や掘進不能となるリスクを回避することが必須条件でした。

当初設計では、長距離推進に対して多孔管による推力低減工法を採用されていましたが、滑走路直下での地盤強度変化や周面抵抗力の増加による総推力の増大に備え、中押し管を配置しました。

中間立坑到達時には、推進機の摩耗したビットを交換し、滑走路直下の掘進に臨みました。中間立坑はV字線形の最深部に位置しており、推進機通過後は鋼材で組んだ架台により、浮き上がり防止と、再発進直後の固結砂岩塊破砕により発生する振動の抑制を図りました(写真-3)。

滑走路や誘導路等に立ち入ることができるのは、毎晩23時からの2時間のみとの制約があったため、その短時間で地表面測量を実施し、路線管理を行いました。

写真-3 中間立坑通過状況

写真-3 中間立坑通過状況

空港制限区域内での施工

当工事は、那覇空港の制限区域内での施工のため、作業毎の事前申請書類の逐次提出や作業エリア立ち入りの許可確認等が不可欠です。

作業エリアにおいても航空機の離発着の支障とならないよう12mの上空制限高さが設定されており、3D監視システムの設置により上空制限高さを侵すことのないように対策しました。また、航空機・戦闘機離発着時の騒音下で通常の無線機が使用できないため、骨伝導式無線機を用いて合図・確認を行いました。

また、那覇空港は24時間稼動の空港であるため、滑走路や誘導路に立ち入るのは保守点検の時間帯に限られており、平日は23時から翌日の1時まで、日曜日は23時から翌日の6時までとなっています。このため、滑走路・着陸帯での物理探査やボーリング調査は日曜日の深夜時間に全て実施しました。

平成29年1月の初期掘進以来、約半年にわたる推進工事により同年7月に到達しました。滑走路等への影響もなく、当初計画の約70%の総推力により掘進をおこなうことができました。

推進完了後、ケーブルダクト管挿入工(写真-4)、中詰充填工を完了し、平成30年1月現在、マンホールの構築および立坑埋め戻しを行っています。

写真-4 ケーブルダクト管挿入工(57条~68条)

写真-4 ケーブルダクト管挿入工(57条~68条)

おわりに

滑走路直下の推進工を空港制限区域内という施工条件のもとで工事を行いましたが、航空機の運航等への影響もなく掘り進めることができました。今回の経験を今後の類似工事に活かしてまいります。

工事概要

工事名称 那覇空港滑走路横断ケーブルダクト新設工事
工事場所 沖縄県那覇市安次嶺地内
発注 国土交通省 大阪航空局
設計・監理 日本空港コンサルタンツ㈱
施工 (株)鴻池組
工期 平成27年10月~平成30年3月
工事概要
泥水式推進工事
L=447m
ケーブルダクト工事
L=450m
立坑・マンホール設置工
3箇所(発進・中間・到達)
地盤改良工
一式

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