2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では、多くの天井が落下し、かつてない規模で人的・物的被害が発生しました。これらの被害を防ぎ、長期的な企業活動の中断を避けるために、事務所ビルや工場、倉庫などの既存建物に対する天井落下防止技術への要望が高まっています。
これらの要望に応えるため、専門技術をもつメーカー等と設立したCSFP工法協会※として技術開発に取り組んできました。今回、ライン型システム天井を対象に開発した鴻池CSFP工法(帯塗くん)に、在来工法天井を対象とした工法を加え、一般財団法人日本建築総合試験所より建築技術性能証明(GBRC 性能証明 第17-27号)を取得しました(図-1)。
※協会構成会社:㈱鴻池組、鴻池ビルテクノ㈱、㈱桐井製作所、日本樹脂施工協同組合
図-1 技術性能証明書
当工法には、一般の在来工法天井を対象とした「ワイヤタイプ」とライン型システム天井を対象とした「ワイヤレスタイプ」の2種類があります。両工法とも質量20kg/m2以下の天井が適用範囲となっています。
○帯塗・ワイヤタイプの概要(写真-1、図-2)
ワイヤタイプは、ワイヤ(天井受けワイヤ、吊りワイヤ)、落下防止金物(部材A、部材B、ボルトクリップ)および繊維強化塗料から構成されています。まず、繊維強化塗料は天井板同士を跨ぐように野縁方向に塗布します。次に、天井面に1800mm以下の格子間隔で開けた直径100mmの円形開口より、吊りワイヤを既存吊ボルトに部材Aを介して取り付け、吊りワイヤは、天井下面に野縁受け方向に敷設した天井受けワイヤと部材Bおよびボルトクリップにて接続されます。また、円形開口には化粧カバーを設置し、落下防止金物が見えないようにします。これらの作業は全て天井面下より行えます。地震時には、天井受けワイヤが繊維強化塗料にて一体化された天井板等を保持することで、天井板の床面への落下を防止することができます。
○帯塗・ワイヤレスタイプの概要(図-3)
ワイヤレスタイプは、天井板を支持しているT バーを跨いで隣り合う天井材表面に繊維強化塗料を塗布し、天井周囲の廻縁材と天井材についても同様に繊維強化塗料を塗布します。このように天井材同士を一体化して天井に生じる地震力を周辺の壁まで伝達することにより、天井材の損傷を防止します。
写真-1 施工事例:帯塗・ワイヤタイプ
図-2 帯塗・ワイヤタイプの概要図
a)天井見上げ図
b)断面図
c)アイソメ図
図-3 帯塗・ワイヤタイプの概要図
a)天井見上げ図
b)断面図
本工法の大きな特徴の一つは繊維強化塗料(表-1)で天井を一体化することです。
塗料は全て水性の透明塗料で、中塗り塗料(写真-2)に合成樹脂の短繊維が混入されています。上塗りは透明のつや消しを基本としますが、着色仕上げも可能です。帯状の塗り幅は在来工法天井では45mm以上、ライン型システム天井では55mm以上を標準施工寸法としました。また、中塗りは乾燥後の塗膜厚さが0.3mm(300μm)以上であることが標準仕様です。
表-1 繊維強化塗料
写真-2 中塗り施工状況(コーキングガン)
技術性能証明取得に際し、各種試験によって目標性能の確認を行いました。ワイヤレスタイプの試験結果は既報※2に掲載済みですので、ここではワイヤタイプを中心に紹介します。
※2:ET476号(2015.1.1発行)
写真-3 材料試験(左:引張試験、右:促進耐候性試験)
写真-4 ユニット試験(ワイヤタイプ)
写真-5 振動台試験(ワイヤタイプ)
既存天井の改修工事に対するお客様からの要望には、「建物を使いながら短工期で」「騒音や粉塵を少なく」「ローコストで」などがありました。これらにお応えするため、天井材メーカーなど異業種とのコラボレーションにより、これまでにないユニークな天井落下防止工法を開発することができました。「帯塗くん」が多くのお客様の安心と安全に貢献できるように今後も取り組んでまいります。
本誌掲載記事に関するお問い合わせは、経営企画部広報課までお願いします。なお、記事の無断転載はご遠慮ください。