技術広報誌ET

技術広報誌ET 2017年発刊号

密閉された
地下空間での大規模耐震補強工事

487号(2017年10月01日) 万博公園浄水地耐震補強工事 大阪本店 工事事務所 石岡 平八・上村 浩二 / 技術本部 土木技術部 福田 尚弘

はじめに

当工事は、一昨年度までJリーグのガンバ大阪がホームスタジアムとして使用していた万博記念競技場の直下にある、万博公園浄水施設の浄水池の一部を供用しながら耐震補強する工事です。本浄水施設は1~4号池からなり、平面寸法が約200m×100m、内空高さが約7mの非常に規模の大きな構造物です。このうちの2・3号池を①あと施工せん断補強鉄筋工法、②断面増厚補強、③隔壁補強の3つの方法によって当社JVが耐震補強工事を行います(図-1~4)。補強対象である構造物が大規模であるため、主要工種である「あと施工せん断補強鉄筋工」の総本数が約23,000本、「あと施工アンカー工」が約76,500本、「コンクリート工」が約4,650㎥と他にあまり例のない大規模耐震補強工事です。

今回は、このような密閉された地下空間で大規模耐震補強工事を効率的かつ安全に進めるために採用した方法や工夫について紹介します。

 図-1 耐震補強方法種別図(平面図)

図-1 耐震補強方法種別図(平面図)

図-2 ①あと施工せん断補強鉄筋工断面図

図-2 ①あと施工せん断補強鉄筋工断面図

図-3 ②断面増厚補強断面図

図-3 ②断面増厚補強断面図

図-4 ③隔壁補強正面図・断面図

図-4 ③隔壁補強正面図・断面図

材料運搬の効率化と作業環境の保全

当工事では、供用中の浄水池を構造物内側から耐震補強するため、使用する全ての機材および材料を浄水池内に搬入する必要があります。搬入口は今回の工事のために設けた高さ2.0m×幅1.5mの仮設開口が1箇所あるのみ(写真-1)で、この搬入口から全ての資機材を搬入してテルハクレーンにて地下に降ろし、直線距離で約90m離れた施工箇所まで場内運搬しなければなりません。また、当初計画の資機材運搬方法は、台車等を使用した人力運搬で計画されていました。

人力運搬では工程にも影響しかねない運搬能力しか確保できないため、機械による運搬が不可欠でした。密閉空間での施工であることから、内燃機関を搭載した機械を使用すると酸素欠乏症や場内の大気汚染が懸念されるため、すべて電動式の機械を採用し、作業環境を保全するとともに施工効率の向上を図りました。電動フォークリフトおよび電動輸送台車を使用することで資機材の運搬効率を人力の場合と比較して2倍以上に改善しました(写真-2、図-5)。

写真-1 材料搬入用仮設開口(2号池)

写真-1 材料搬入用仮設開口(2号池)

写真-2 電動輸送台車

写真-2 電動輸送台車

図-5 浄水池内資機材運搬概要図

図-5 浄水池内資機材運搬概要図

3つの方法による耐震補強

当工事では、既設浄水池の壁を、前述のとおり①あと施工せん補強断鉄筋工法、②断面増厚補強、③隔壁補強の3つの方法で耐震補強しました。

○あと施工せん補強断鉄筋工法による補強

浄水池同士を分割する壁は、既設の構造物を内側から削孔して孔内に定着体を有したせん断補強鉄筋を挿入し、グラウトを充填して既設コンクリートと一体化してせん断補強するあと施工せん断補強鉄筋工法で補強しました。

この方法では、構造物内側から外側の主鉄筋位置付近まで削孔して挿入する必要があるため、既設躯体の内側と外側の配筋誤差等によっては削孔中に既設躯体の鉄筋が干渉して、設計通りの削孔長が確保できない場合が生じます。削孔長が確保できない場合には補強効果が低下するため、設計上必要な補強有効率(通常のせん断補強鉄筋のせん断耐力とあと施工せん断補強鉄筋のせん断耐力の比)が確保できないことがあります。そのため、削孔時に鉄筋が干渉した場合、位置を変更して再削孔する必要が生じて、既設躯体を損傷する懸念が大きくなるうえに、再削孔による工程の遅延が生じます。このため、あと施工せん断補強鉄筋工のなかでも補強有効率が高く、設計・施工マニュアルにおいて削孔中に既設躯体の鉄筋に干渉した場合の補強有効率の考え方が明記されている「セラミックキャップバー(CCb)工法」を採用しました(写真-3)。これによって、削孔中に既設躯体の鉄筋に干渉した全ての施工箇所において、設計上必要な補強有効率が確保できたため、再削孔を1度も行わずに補強を完了することができました。既設躯体への影響を最小限に抑えながら、再削孔による工程の遅延と工事費用の増額を回避することができました。

○断面増厚補強および隔壁補強

2・3号池の短辺方向の壁は壁厚を増して補強する「断面増厚補強」にて、浄水池内は柱間に隔壁を増設する「隔壁補強」にて耐震補強しました。これらの補強では、既設コンクリートと新設コンクリートを一体化するためにあと施工アンカー(樹脂系)を打ち込む必要があります。その打設本数は76,508本にも及び、1日あたり平均750本の打ち込みが必要なうえに、最大で高さ7m程度の高所で作業する必要がありました。

当初計画では、断面増厚補強部分が通常の足場による施工、隔壁補強部分が5基のローリングタワー(h=6.8m)を移動しながら施工することになっていました。これらの方法では、足場の組立・解体作業が発生するほか、ローリングタワーによる作業では移動のたびに昇降し人力で移動する必要があるため、あと施工アンカーの所定の施工量を確保することが困難でした。そのため、当工事では断面増厚補強部分および隔壁補強部分ともに、電動高所作業車(最大高さh=6.5m)5台を使用してあと施工アンカーの打ち込みを行いました(写真-4)。断面増厚補強部分での施工では足場の組立・解体作業が不要になり、隔壁補強部分では作業員が乗車したまま移動することが可能で次の柱へ移動がスムーズになり、750本/日のあと施工アンカーの施工が可能となりました。

写真-3 採用した工法のせん断補強鉄筋と定着体

写真-3 採用した工法のせん断補強鉄筋と定着体

写真-4 電動高所作業車によるあと施工アンカー施工状況

写真-4 電動高所作業車によるあと施工アンカー施工状況

密閉された地下空間での通信手段の確保

当工事の工事箇所は地下の供用中の浄水池の中であるため、地上部部分と工事箇所との間の通信手段が整備されていませんでした。また、ひとつの浄水池がコンクリートの壁で大きく6つの部屋に区切られているため、一般的な無線機器で部屋を跨いでの通信を行うことができません(図-6)。しかしながら、資機材搬入の連絡調整を円滑に行い効率的な施工を行うため、また、緊急時の連絡体制を確保するためにも通信手段の確保は不可欠でした。通信設備として「携帯電話」、「PHS」、および「インターホン」の3種類を候補として比較検討を行いました。

インターホンについては、通話箇所が固定されるほか、工事の進捗に応じて移動するため配線の盛替や電動輸送台車などの機材通過部の断線防止養生が必要であることから除外しました。携帯電話とPHSについては機能面では同等の評価でしたが、PHSは回線設備の設置に多額の費用を要することから、職員や作業員が所有する端末が使用でき、設備設置費用が安価な携帯電話を採用しました。管廊部には電波を増幅するレピータを、浄水地内にはブロードバンド回線を利用した小型基地局のフェムトセルを設置し、通信網を整備しました(図-7)。

図-6 浄水池ブロック割り図

図-6 浄水池ブロック割り図

 図-7 浄水池内通信設備模式図

図-7 浄水池内通信設備模式図

おわりに

当工事は、大規模地下構造物を地下の密閉された空間で耐震補強するという実施例の少ない工事です。当工事で得た知見や施工上の工夫を、今後の同種工事などに活かしていきます。

工事概要

工事名称 万博公園浄水施設 浄水池耐震補強工事
工事場所 大阪府吹田市
発注 大阪広域水道企業団
施工 鴻池組・紙谷工務店特定建設工事共同企業体
工期 平成26年11月~平成30年2月
工事概要 2号浄水池、3号浄水池、および浄水池管廊耐震補強工
コンクリート工
4,650㎥
あと施工せん断補強筋工
22,760本
あと施工アンカー工
76,508本
伸縮可とう継手工
709m
防水防食工
34,006㎡

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