技術広報誌ET

技術広報誌ET 2017年発刊号

急峻な谷部における
充腹式コンクリートアーチ橋の施工

484号(2017年01月01日) 舞鶴若狭自動車道 真倉トンネル工事 大阪本店 工事事務所 山口 充 / 本社 土木技術部 大西 正毅

はじめに

本工事は、舞鶴若狭自動車道の4車線化事業のうち、綾部PA~舞鶴西IC間延長4.7kmにおいて土工事、橋梁工事、およびトンネル工事を行うものです。

橋梁工事は、支間50mの現場打ちRCアーチ橋を急峻な谷部に構築する工事でした。このアーチリブは、桟橋形式の特殊支保工を設置することで水平のステージを構築し、その上に枠組支保工を組んで施工しました(図-1、写真-1)。この支保工構造では、コンクリート打設時の荷重増加により複雑な沈下を生じる可能性があり、出来形を確保するために精度の高い上げ越し量の設定および現場計測による管理が必要でした。また、コンクリートの打設順序や、傾斜角の大きい(約40度)スプリンギング部のコンクリートの締め固めやコンクリート表面の仕上げに対する工夫が求められました。

図-1 充腹式コンクリートアーチ橋の概要

図-1 充腹式コンクリートアーチ橋の概要

写真-1 支保工設置状況 (特殊支保工設置完了)

写真-1 支保工設置状況 (特殊支保工設置完了)

(支保工全景)

(支保工全景)

コンクリートの打設計画

アーチリブのコンクリート打設量は全体で約1,240m3でした。施工箇所への入退場は供用中の高速道路上に設けた工事用の出入口により、その使用が午前7時から午後7時までと制限されていたため、1日に打設できるコンクリート量も最大で250m3程度となり、分割して打設する必要がありました。中央のクラウン部を1ブロックとし、スプリンギング部からクラウン部までを5分割して両側の対となる位置を一つのブロックとし、1回の打設量が200m3前後となるよう全6ブロックに分割しました(図-2)。打設済みブロックに対する有害な応力の発生を防止するため、最初に①ブロックのクラウン部を打設し、続いて両端のスプリンギング部より中央に向かって②~⑥の順に打設しました。

図-2 アーチリブの打設計画図

図-2 アーチリブの打設計画図

上げ越し計画

コンクリートアーチ橋は、完成するまで種々の荷重履歴を受けて沈下することから、完成時に所定のアーチ作用を得られるように施工中の過大な変形を防止し、設計上のアーチ軸線を確保するため、支保工架設時に予想沈下量分を上げ越しする必要があり、施工手順を踏まえた上げ越し管理が重要となります。本工事では、下記に示す荷重や変形の影響を考慮し、完成時までの総変形量を算定して支保工の上げ越し量を決定しました。

1)アーチリブの変形

死荷重(アーチリブ、側壁、FCB(気泡混合軽量盛土)、高欄の自重)

クリープ、乾燥収縮

2)型枠支保工の変形

支保工部材の弾性変形

支保工部材の接合部のなじみによる変形

変形量の算定では、枠組支保工および特殊支保工のすべての部材を2次元フレームにモデル化(図-3)し、各施工段階を考慮した逐次解析(平面骨組解析)を行いました。

図-3 解析モデル図

図-3 解析モデル図

変位計測

施工中の変形量を管理するため、以下の2種類について計測を実施しました。

なお、アーチリブ中央部において事前解析結果と実測値を比較したところ概ね近い値が得られ、解析の妥当性を確認することができました(表-1)。

写真-2 ターゲット設置状況 表-1 アーチリブ中央部の沈下量(㎜)

写真-2 ターゲット設置状況

表-1 アーチリブ中央部の沈下量(㎜)

コンクリート打設時の工夫

1)分割式伏せ型枠の使用

スプリンギング部は、傾斜が最大40度もあるため、天端面の型枠がない状態でバイブレータを使用すると、コンクリートが流動し、十分な締固めができません。一方で、スプリンギング部の全範囲に伏せ型枠を設置すると、型枠による閉塞区間が大きくなり締固め状態が目視確認できないためコンクリート充填不足箇所の発生が懸念されました。

そこで、コンクリート打設作業と並行して伏せ型枠を順次設置しながら締固めを行うことにしました。伏せ型枠の1回当りの設置長を橋軸方向に90cm(3枠分)とし、①伏せ型枠の設置、②コンクリート打設、③締固めの施工のサイクルで作業を繰り返しました(図-5、写真-3)。その結果、充填不足箇所もなく充分な締固めを行うことができ、平滑な打設面を形成することができました。

図-5 伏せ型枠概要

図-5 伏せ型枠概要

写真-3 完了全景

写真-3 完了全景

2)表面気泡対策

伏せ型枠を設置する天端面は、空気だまりによる表面気泡の発生が懸念されました。そこで、伏せ型枠の表面に透水性のシート材(FSフォーム)を貼り付け、コンクリートを打設しました。このFSフォームは、型枠近傍の余剰水および空気を型枠外に排出し、表面の緻密化や空気だまりを抑制する効果があります(図-6)。その結果、伏せ型枠を設置したアーチリブの上面に表面気泡の発生はなく、表面を緻密化できました。

図-6 FSフォームの概要

図-6 FSフォームの概要

おわりに

本工事では、今回紹介したものを含め多くの施工上の課題に対して、関係部署を交えた施工検討会を重ねて一つひとつ克服することで、品質面および安全面でのトラブルもなく施工を完了することができました。当工事で得た経験を今後の施工にも活かし、品質の向上に繋げていく所存です。

工事概要

工事名称 舞鶴若狭自動車道 真倉トンネル工事
工事場所 京都府綾部市高槻町~京都府舞鶴市字堀
発注者 西日本高速道路株式会社 関西支社
施工者 (株)鴻池組
工期 平成26年4月~平成29年1月
工事概要 工事延長 L=4,774m  トンネル延長    L=672m
真倉橋  L= 52m   道路掘削、捨土掘削 16,993㎥
構造物掘削 9,356㎥
法面工(種散布、コンクリート吹付、法枠) 19,120㎡
コンクリートブロック積工 710㎡
用・排水工、簡易舗装工、押え盛土工、工事用仮設桟橋、
工事用安全対策工、伐採工、水文調査ほか

484号(2017年01月01日)

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