マンションと高速道路の狭間で超近接メガネトンネルの施工

名塩道路八幡トンネル工事   

大阪本店 工事事務所 葛原茂 / 山田浩幸 / 大槻文彦 / 木村圭吾 

はじめに

 

②都市部の重要施設との近接:トンネル起点側坑口の南側に中国自動車道、終点側坑口の北側にマンション、トンネル上部に地元の氏神である神社が近接(写真-2
③小土被り:最大土被りが22mで、全線にわたりトンネルの安定に影響が懸念される土被り2D(Dはトンネル直径)以下

以上のことから、坑口上部およびトンネル掘削における周辺地盤の挙動変化や地域住民の生活環境の保全に最大限の配慮をしながら工事を進めていく必要がありました。
特に起点側坑口付けにあたっては、供用中の中国自動車道の既設法面を一部掘削することから、本線への影響が懸念されました。また、トンネル掘削においては事前の水平ボーリングの結果に基づくFEM解析結果(図-2)から、起点側坑口より32mの未固結区間(沢部あり)について対策工が必要となりました。

今回は、このような特殊条件下での安全と周辺環境に対する取り組みのうち、「安全の見える化技術」と「都市部における低騒音技術」について紹介します。

 

安全の見える化技術(光る変位計、CIM)

起点側坑口部では、中国自動車道の通行車両や作業員の安全を確保する目的から、「安全の見える化」に取り組み、切土作業時およびトンネル掘削時の中国自動車道近傍斜面の挙動をリアルタイムで監視し、計測結果を光の色で判別(写真-3)できるよう工夫しました。
また、トンネル坑内では、メガネトンネルの特徴の1つでもあり、最も変状の恐れのある中間地山(干渉部)の変位監視に、同様の技術(写真-4)を活用し観測を行いました。
安全の見える化技術の適用により、作業音が大きく、暗いトンネル坑内での作業において、作業員自らが安全状態を確認して作業を行うことができ、現場の安全確保の一翼を担うことができました。

 トンネルの掘削においては、CIM(Construction Information Modeling)を導入して地質を3次元化し、切羽の前方予測(図-3)や施工時のトンネルの挙動を把握することで、必要な箇所に有効な対策工を適用しました。

  

都市部における低騒音技術(エキセントリックリッパ、放電破砕工法)

終点側坑口部では、最小離隔が10mとマンションに近接しており(写真-5)、坑口部道路掘削に伴う騒音・粉じんを抑制する必要がありました。
当初はトンネルの掘削機として用意していたツインヘッダによる切削を実施しましたが、硬質の玉石(150-300MPa)混じりの地山であるため、掘削効率の改善と粉じん対策が大きな課題となりました。
これらの課題を解決するために新しい掘削ツールであるエキセントリックリッパ(掘削能力20m3/時)(写真-6)を導入し、掘削効率の向上を図りました。エキセントリックリッパは、リッパを地山に食い込ませ偏心モータで振動を与えて玉石ごと掘り起こす掘削機構であるため、差し込む際に「ブルブル」というモータの稼動音が間欠的に発生するだけです。ブレーカーのように破砕時の連続的な金属音は生じないため、騒音レベルを85dB以下に抑えることができました。同時に散水等を併用することで粉じんの発生を抑制しました。
また、掘り起こした硬質の玉石の破砕は、放電破砕工法(写真-7)の採用により、現地で安全かつ低騒音にて実施することができました。

 

  

おわりに

平成27年3月末現在、上下線のインバート本体工および下り線の覆工コンクリートの施工を完了し、上り線の覆工コンクリートの施工をしています(写真-8)。
今回紹介した名塩道路八幡トンネルは昭和60年に都市計画決定および事業化され、約30年をかけて現在までに全長10.6kmのうち、約5.5kmが供用されています。当工事では「みんなの道路、未来へ繋げる名塩八幡トンネル工事」というスローガンの下、地元見学会の開催や地元行事への参加を通して住民とのコミュニケーションを積極的に図りながら、念願であった道路の完成に向けて急ピッチで作業を進めています。

 

工事概要 
工事名称 名塩道路 八幡トンネル工事
工事場所 兵庫県西宮市塩瀬町名塩南之町地区~東之町地区
工期

平成25年2月~平成27年6月

発注者  国土交通省 近畿地方整備局
施工者 (株)鴻池組
工事概要

・延長 L=288m (トンネル延長L=242m、上下線)
・断面 掘削断面積 A=87㎡ (上り線)、117㎡(下り線)
           超近接無導坑メガネトンネル
・施工法 NATM
・掘削方式 機械掘削
・掘削工法 DⅢパターン(早期閉合)、 DⅠパターン(早期閉合)
・補助工法 天端安定対策: 多段式長尺鋼管フォアパイリング、注入式フォアポーリング
         鏡面の安定対策: 鏡吹付、鏡ボルト
         脚部の安定対策: 脚部補強工(フットパイル)

 

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477号(2015年04月01日)