野外音楽堂に可動屋根設置

河口湖ステラシアター

東京本店 工事事務所
谷川 純一

はじめに

富士山を真正面に望み、大自然の中で数々の音楽シーンを展開してきた「野外音楽堂河口湖ステラシアター」は、1995年のオープン以来多くの人々に親しまれてきました。この雰囲気を活かしつつ、より上質な音楽コンサート、演劇や映画上映など多彩なジャンルでの活用が期待される中、今回、全天候型である可動屋根の設置が計画されました。

可動屋根の概要

既存の鉄筋コンクリート造の音楽堂に鉄骨造の可動屋根が新たに架設されます。屋根の可動部は、舞台正面に向かって左右約40m・奥行き約32mで、左右のレール上に車輪付台車を介して、電動モーターとチェーンで駆動し、前後方向に開閉する構造となっています。可動ストロークは約29mで、全開から全閉または全閉から全開までの所要時間は約8分半となっています。
レールを支える約70mの2本の主トラスを各々2本の鉄骨柱で支えています。この合計4本の鉄骨柱は、既存建物の外側に新設します。
一方、固定屋根部の鉄骨柱は、客席最上部に屋根増築用として設けていたコンクリート柱頂部に、あと施工アンカーにて固定します(図-2・3)。

鉄骨製作

屋根の鉄骨がトラス構造で、部材が立体的にさまざまな角度で交差する上に、完成後も客席や舞台から見えるため、鉄骨製作図は3次元の図を有効活用し、取合い・見栄え・施工性について検討しました。
事前の解析結果では、長期荷重で主トラスおよび中央の固定屋根トラスで最大100mm程度、可動屋根トラスで最大60mm程度のたわみが予想されたので、製作キャンバー(製作段階で逆に反らせる)を付けることにしました。
製作キャンバーの設定値については過去の事例より想定した上で、解析結果の60%から80%と決定し制作しました。本架設後は計画通りの残留たわみ(20~30mm)となりました。
鉄骨製作図の作成に先立って既存の建物の寸法等を入念に計測し、製作図に反映させました。
特に、あと施工アンカーの位置確認のため、既存のコンクリート内の鉄筋の位置を細かく探査し、鉄骨のベースプレートの作成に反映させたため、施工時には既存の建物に損傷を与えることなく屋根鉄骨を設置できました。

工事計画

屋根鉄骨の建方計画に当たり、特に以下の点について慎重に検討しました。

(1)地組の検討

敷地条件と揚重クレーンの選定については、数案の中から200t吊のオールテレーンクレーンを採用し、主トラスの建方のうち敷地北側のみラフィングジブを 使用して最初に建方し、後は主ブームのみで建方を続けるよう計画しました。200t吊クレーンは、場内の移動にもカウンターウェイトの脱着と運搬用のトレーラーが必要となるため、移動回数が最少となるよう計画しました。また、クレーンの設置位置を限定することにより、アウトリガー下の地盤改良も少なくすることができました。

(2)仮受ベントの検討

地組した鉄骨を組み立てるためには、完全に組み上がるまで仮に荷重を受ける支柱(ベント)が必要です。
ジョイントの位置を決定するためには、上記(1)の条件と併せてベントの計画を立てることが欠かせません。
既存の建物条件より耐荷重を算出し、またベントの解体手順を考慮した上でベントの計画を立案しました。

鉄骨建方

鉄骨建方は以下の工程で行いました。

(1)主トラス建方:西側北工程(客席側)→東側北工区→西側南工区(舞台側)→東側南工区の順に建方を実施(図-4、写真-1)。


(2)固定屋根建方


(3)可動屋根建方

おわりに

大スパンの特殊な屋根鉄骨工事は、事前の計画をいかに早期に検討、決定し、それを鉄骨の製作に反映させるかがポイントといえます。
また、現場施工においては、可動屋根のレールの取り付け精度をはじめ、建方精度の緻密な検収が重要な管理要素となりました。

工事概要
工事名称 (仮称)河口湖ステラシアター可動屋根増設工事
工事場所 山梨県南都留郡富士河口湖町船津5604-1
発注 富士河口湖町
設計・監理 (株)環境デザイン研究所
施工 鴻池組・早野組 建設工事共同企業体
工期 平成18年6月~平成19年6月
構造・規模 既存建物 鉄筋コンクリート造 地下1階地上3階
増築部  鉄骨造 2,235m2

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432号(2007年07月01日)